41 3年生春 魔法使い出現4
「愛はナントカのごとく、でしたっけ?」
「愛は降りしきる星のごとく、だね」
先生はお芝居自体は見ていなかった。
しかし、同僚が見ていて、ストーリーがところどころ、メアリーの予言と被る部分があると教えてくれたのだそうだ。
見たいと思っていたが、公演は既に終了し、劇団は次の公演地に行ってしまった。
追いかけて行こうにも、南の国境付近で、しかも急に学園の先生をすることになってしまい
どうにもならなかったらしい。
話題の舞台なので見た人は大勢いるのかと思っていたのだが、意外にもいなかった。
まあ、チケット代も高額だし、学生が気軽に見にいけるようなものでもないか。
「フィリップ殿下は何度かご覧になっていたのでしょう?」
後日、生徒会室で愚痴っていると、仕事の手を休めたエミリアが小首をかしげた。
今日は役員5人揃っての会議の後、意見書をまとめているのだ。
まあ、主にトーマスとエミリアが。
テリーとエドワードは生徒から来た陳情書をチェックしている。
お茶を飲んで考えごとをしているのは私一人だ。
「殿下にお話をおうかがいしてはいかがでしょう」
「あいつに借りを作りたくない」
お願いしマスとか口が裂けても言いたくないよう!と思うのに、誰も同意してくれない。
救いの手は意外なところから伸びた。
テリーがそっとメモを渡してきたのだ。
「戯曲を書いた脚本家は王都に住んでる。演出家は別にいるから、劇団と一緒に行かなかったらしい」
下町の住所がかかれている。
「え、なんで、これ」
「殿下のチケットを取った時に、興行主と知り合いになったんだ」
なるほど。
「え~ありがとう」
「おまえが殿下に突撃するよりマシだ」
口は悪いが親切なのだと思う。
やっぱり一緒に何かするのは大事なことで、生徒会の仕事を始めて私とテリーは少しだけ親しくなった。
ふふふ。
ニコニコしてると睨まれた。素直じゃない奴め。
脚本家のところにはアルを連れて行った。
トーマスもエドワードも用事があると言っていたので。
アルはこういうお忍びで街を歩くのが好きらしくて、変装もなかなか板についていた。
そういや、最初に会った時も変装してたな。変装キャラかよ。
1人でもいいかと思っていたけど、本気の下町だったので、来てもらってよかったかもしれない。
なんか、飲み屋の2階に住んでいたし。
私は剣が使えるので、その辺のやくざ者なんかどうにでもできるけど、騎士が隣にいるだけでトラブルが避けられるのなら
それに越したことはない。
脚本家はちょっとチャラい感じの中年男性で、この世界で久しぶりにモブっぽい人を見た。
いやあ。学園内って、みんなキラキラしてるんだもん。
モブのオッサンによると、戯曲は家にあったご先祖様の日記がネタ元らしい。
親戚の家で古い屋敷を売るというので、中を片付けに行ったらあったのだそうだ。
「いやあ、なんか古い書付が出てきて読んだら面白かったんだよね」
内容自体ではなく、作家としてのインスピレーションを書きたてられたということらしい。
作家だけあって、ものすごくアレンジしてあると彼は説明した。
「書いたのがメアリーに横恋慕してた同僚なんだよね。職場にメアリーとその恋人がいて。
恋人がろくでなしなのを知っていたからメアリーにアタックしたんだけど上手くいかなくて」
ものすごい恨みつらみが書かれていたという。
そこをスカッと飛ばして、不実な男に翻弄されるメアリーの美しき悲劇に仕立て上げたのだから、
脚本家としての才能はあるのかもしれない。
そして、やっぱりアルについてきてもらってよかった。
アルはこういう場合の振る舞いを心得ていた。
脚本家に小金を握らせて、元の日記を譲ってもらったのだ。
譲ってもらったはいいが、言い回しは古く、読むのが大変つらかった。
1000年前の本なんて、もう古文書だよ。
日本だったら源氏物語とか平家物語とかだよ。
これが読めたということは、あの脚本家は、ああ見えて、とても教養のある人物だったということだ。
そう言いつつ、私も一応魔法学園に通うエリートの端くれなので、辞書を引きながら頑張って読んだ。
結論から言うと、そこまでして読みたいシロモノではなかった。
8割くらいが恨みつらみだ。
作者はグローブナーという男性で、日記は同僚であるヘンリーへの疑惑から始まっていた。
ヘンリーは魔法の研究を認められて、スピード出世したのだが、日記の作者はそれがメアリーの研究だと思っていたようだ。
メアリーは魔力が強く、魔法に対する理解度も高かったが、女性なので認められない。
そこでヘンリーが自分のものとして発表していた。
メアリーも彼が出世して夫婦の利益になるならと協力していた。
ヘンリーは爽やかなハンサムで、当時の男性としては女性に優しく、とても紳士的だったようだ。
詐欺師が騙す相手に親切なのは当たり前ではないか。
身内の縁が薄く、孤独だったメアリーはすっかりヘンリーに騙されていた。
というのが、日記の作者の意見だ。
『メアリーほどの知性があっても見た目の良い男に惹かれるのか!』という一文からは
恐ろしいほどのひがみが感じられる。
しかし、その後、星祭で魔術が失敗するという事故が起き、職員であるメアリーは命を失った。
王立魔術院も上層部は責任を取って辞職し、大幅な人員転換が行われた。
この日記の作者も閑職に追いやられたらしい。
しかし、本来は責任を取る側であったはずのヘンリーは上司の娘と結婚して出世した。
馴れ初め等を聞くとメアリーの生前から付き合っていたというのに。
なんという酷い話だ。
『ああ、メアリーの研究はどこに隠されてしまったのだろう。
きっと、ヘンリーの奴が持ち去ったのだ。
あれがあれば上位魔術師に選ばれていたのは私のほうだっただろうに。』
日記は、そんな言葉で締めくくられていた。
他人の研究で出世しようだなんて、そんな志の低い人間が出世出来るわけないだろう。
こいつを選ばなかったメアリーは人を見る目がある。
「個人的な手記だからしょうがないけど、話がつながっていない部分があるね」
隣で日記を読みながらアルが指摘する。
アルのまとめによると、事実と確定できる部分はそう多くない。
王立魔術院の職員だったメアリーは同僚のヘンリーと付き合っていた。
ヘンリーは研究を認められて出世した。
星祭りの大祭でメアリーは死んだ。
メアリーの死後、ヘンリーは別の女性と結婚したが、馴れ初め的にメアリーの生前から付き合っていた。
「ヘンリーの研究がメアリーの発明だったという証拠はないね」
「この人の思い込みだったということ?」
アルは頷いた。
「その可能性もある。ただ、この人物は、メアリーの研究を自分のものにしたいと狙っていたみたいだったから、実際に働いていた人にはわかるような状況証拠があったのかもしれない」
それはままあることだ。
特に嫌がらせとか、誰がやってるかはわかっているのに証拠がつかめないとかしょっちゅうだ。
「どんな研究だったのかしら」
「ここに書かれてないってことは、まだ、途中だったんじゃないか」
「それはないよ」
だって、ヘンリーは二股をかけていて、すぐ結婚したという。
研究が途中で、まだメアリーの助力が必要だったのなら、結婚準備を進めるのは時期尚早だ。
どこからばれるかわかったものじゃない。
それでメアリーとこじれたら、研究が台無しになってしまうかもしれない。
「メインで研究していたのがヘンリーで、メアリーは手伝っていたのかもしれないな」
自分一人で出来上がる目途がついたので、メアリーを切り捨てても構わないと判断したのか。
肝心の大祭の儀式についての記載はなかった。
日記の作者が魔術院でも下っ端のほうで、参加資格がなかったのだ。
それなのに、単なる雑用係だったメアリーが立ち会っていたというのは重要な情報だ。
しかし、読めば読むほど陰気な話だし、グローブナーはメアリーの研究目当てでロマンスのかけらもない。
確かにメアリーは不実な男にだまされてたみたいではあるものの。
その男がものすごいイケメンだったというのも確定しているし、三角関係もあったようだけど。
それが一世を風靡する恋物語になるなんて。
私の中で、あのオッサンはものすごく才能がある、に格上げされた。




