39 3年生春 魔法使い出現2
しかし、ゲームに詳しい人が来てくれたというのはとても助かる。
「私も、なんか、思ったような展開にならないのよ」
この際だから、お助けジェシカに相談してみることにした。
「最初の設定からしてずれてるというか」
エミリアが魔法を使えなくて、フィリップ達との関係がおかしいと。
いや、おかしくないのか。
エミリアはフィリップを慕っていて、フィリップはエミリアに好感を持ってはいない。
ゲーム通りと言えばゲーム通りなのかもしれないが。
でも、どっちもキャラが変なんだよ。
「エミリア、全然意地悪じゃないし傲慢でもないのよ」
「そうなのですか。エミリア様が」
ジェシカも首をひねる。
「確か、オープニングの星祭りで、ヒロインが殿下たちと会ってる裏で、ならず者にさらわれそうになるんでしたよね」
へえ。そうなんだ。言われてみれば、なんか絡まれていたような。
「その時、自己防衛魔法が発動して、大人の男たちを地に這わせるのです」
そうなの?
「非力な女子供でも、魔法があれば強くなれる。エミリア様が魔法に傾倒するきっかけですね」
そうなの?
「エミリア様を仲間に入れたら出てきます」
知らなかった。だって、エミリアを仲間にしたことなかったもの。
なんか、ものすごく嫌な予感がするよ。
「私さあ、星祭りでエミリアが変なおじさんに声かけられてる時に助けちゃった」
てへ。
だって、8歳の少女に声かけるオッサンって駄目じゃん。見過ごす選択肢が無かったよ。
でも、もしかして、それでエミリアはおっさんをやっつけることもなく、魔法に傾倒もしなかったのか。
ジェシカと私は顔を見合わせた。
「そうなんですよね。そういう、ついうっかりで歴史が変わっちゃうんです」
ジェシカがハーヴィルの母親を助けたのも、本当に、ちょっとした偶然だったらしい。
「いいじゃないですか。リカバリーしていきましょうよ。私、協力します」
明るい性格のお助けキャラはニコニコして言った。
そうだね。そうするしかないね。
手遅れだから、という言葉は飲み込んだ。
ジェシカが来たことで、私の気持ちは楽になった。
ゲームのこととか、何でも話せるというのはいいことだ。
2人とも日本のことはもうあまり覚えてないし、15歳で病気で死んだ女の子と話せと言われてたら話題に困るけど
もう私たちはこの世界の同い年の少女だ。
寮の部屋を行き来して、おしゃべりを楽しんだりする。
そうよね。こういうの大事。
私が入学したばっかりの時は女友達が全然いなくて寂しかったもの。
ジェシカは私よりも『ホシミチ』をやりこんでいて、ゲームの記憶もしっかりしていた。
これから邪竜と戦うためにとても心強い。
そして、私の進捗を聞いたジェシカは、フィリップとキャンべリック先生を攻略しろと言った。
「でもさあ。ゲームと違って全員にモテても面倒なだけだし。必要なくないかなあ」
「駄目ですよう。リリーナ様はアイテムをGETしていない状態だと思われます」
「アイテム?」
ジェシカが頷いた。
「邪竜をやっつけて封じるのにはアイテムが必要なのです。
勇者の剣、聖なる盾、黄金の魔法陣が」
確かに、そういう物があった気がするが。
なんとなーく自然に揃っていたような。
あれってどうやって入手したんだっけ。
「パーティに入れたメンバーが持ってるんですよ。
騎士のエドワードが剣、王家のフィリップ様が盾、魔法使いのハーヴィルが魔法陣、みたいに」
なるほど。でも。
「3人が揃わない時もあるんじゃないの?」
「そういう時は死んでないですか?」
確かに。
何度か死んだなあ。
「あと、うまくすると、商人のトーマスや盗賊のヴィッツが持ってることもあるみたいです」
それで、盗賊、みたいなキャラがいたのか。
っていうか、救世主なのに、盗んだアイテムで戦うのか。
「でもまあ、トーマスたちは持ってないこともあるんで、確実なのは本来の持ち主かと」
「ああ、じゃあエドワードとハーヴィルは持ってるんだ」
「ハーヴィル個人は持っていませんね」
ジェシカはきっぱりと言った。ハーヴィルと知り合いになったことをいいことに、既に確認していたらしい。
「アイテムって、多分、その所属するところにあるんですよ。王家とか騎士団とか」
なんですと。
つまりエドワードやフィリップは、騎士団所有の剣や、王家秘蔵の盾を持ち出して戦っていたということか。
それ、どうなの。
「あ、じゃあ、魔法陣は」
「魔術師団にあるんじゃないかと。でも、ゲームのハーヴィルは学生でありながら魔術師団に入っていたんですけど、留学しちゃったせいで大幅にスケジュールがずれちゃってるんです」
なので、代わりにキャンベリック先生を味方につけろというわけだ。もう大人の先生は既に魔術師団に所属している。
騎士団と違って、団の仕事を専門にする常勤の魔術師と、
登録だけして在野で研究する魔術師がいて、先生は後者なのだ。
あと、先生の家系はずっと魔術師団の要職を占めているらしいので、そこもポイントが高いという。
それはやはり攻略の必要があるな。
そんなわけで、放課後、私はハーヴィルを連れて、魔法準備室に向かった。
編入生のハーヴィルが、こちらの授業の進み具合がわからないので、いろいろ教えてほしいと言ってることにする。
イケメンの先生にキャーキャー言いに来たと誤解されたら逆効果だから。
ジェシカと会って良かったのは、ハーヴィルが事情をちゃんと呑み込んでいるということだ。
攻略対象が協力的だととても助かる。
エドワードやトーマスにも話してみるべきだろうか。
しかし、ジェシカとハーヴィルの信頼関係は、どう見ても、恋人同士という
『君の言うことなら何でも信じる』みたいな特殊な信頼関係だ。
それでも、信じてもらえなくて、かなり揉めたという。
そうじゃない関係で通用するとは思えない。
そして、キャンベリック先生は辛口だった。
「正直に言うと、君たちに教えることはあんまりないんだよね」
先生は自分で揃えたという、とてもいい革張りの椅子にどっかり座っていた。
先生としての職務よりも自分の研究を優先しているという陰口もあるが、前任者と比べると、授業は格段にレベルが高い。
「君も。君も」
ものさしで私とハーヴィルを指す。
「今、すぐにでも、王立魔術師団に入れるよ。学校辞めて行くなら推薦状を書く」
「そういう希望はないです」
「なら、登録だけしておく?卒業時に試験受けると希望者が多くて混むよ」
そういう問題か。
スパスパっと斬るような話し方で、取りつく島が無い。
先生は家柄が良く見た目も顔もいいので、割と人生を謳歌している陽キャ設定だ。
教育には興味がないし、その辺の生徒なんてどうでもいい。
しかし、研究には真摯なので、真面目に学問に取り組むリリーナの姿勢と探求心に心惹かれる。
なので、それに合わせた攻略方法もちゃんと考えてきているのだ。
「実は、本当に興味あるのは、先生の研究のほうなのです」
そう、事前に相手の興味がありそうなものもリサーチしたのだ。
そして知った。
先生の研究対象は魔道具なのだと。
魔石を使って生活を便利にする魔道具は多く、研究もなされている。いいものを開発できれば手っ取り早くお金にもなる人気の研究だ。
しかし、先生の研究はもう一段踏み込んだもののようだ。
先生は魔石の代わりに魔力を貯めておける機構のある魔道具を研究している。
電池やバッテリーのようなものと考えたら、その革新性はすごい。
「魔石と魔法陣を組み合わせた実験に関する論文を拝見したのですが」
「読んだんだ、君」
「発効される魔法と魔力が単純な比例ではないというのは興味深いと思いました」
先生の目が輝いた。
この世界では、誰しもが魔力を持っている。平民にはないと思われがちだが、それは可視化できるだけの量ではないだけで。0ではないというのが定説だ。
実際に、難易度の高い魔法を使うと分かる。
魔力の量がないと難しい魔法は使えない。必要とされる魔力の量が違うと考えられているのだ。
なので、魔石を筆頭に、魔法陣や詠唱で魔力を補う。
その効率化は常に研究されているが、魔力の高い人間でないと検証できない部分があって難航するのも事実だ。
「実験も拝見したいと思いまして。私とセントジョン様は協力できると思うのです」
「俺もかよ」
思わず声に出したハーヴィルの足を軽く蹴った。
何のために連れてきたと思っているのだ。
男女なので、2人きりになるわけにいかないというだけでなく、いざという時に売るために連れてきたのだよ。
キャンベリック先生のところには2度ほど行って研究に貢献した。
わざわざ魔法準備室まで行かないといけないというのは少々面倒くさい。
なるほど、クラスメイトのほうが仲良くなりやすいわけだ。
連れていかれるハーヴィルはもう飽きている。
陰気で粘着質だったハーヴィル様はどこにいってしまったのだ。
「おまえだってそんなに行きたくないくせに」
半ば引きずるように連れて行くとぶつぶつ文句を言われた。
乗り気でないのはその通りなので、反論も出来ない。
何故なら、先生は魔術師団には属しているものの、あまり交流がなく、ジェシカが言う重要アイテム『黄金の魔法陣』はあまり関係なさそうなのがわかってきたからだ。
確か、今の団長は先生の父親だったように思うのだが、だからこそやりにくかったりするのかもしれない。
そして、先生はイマイチ私の好みではなかった。
ゲームのイチ推しがフィリップで二押しがクリス様だったことからもわかるように
優しげな王子様系の男が好きなのだ。
今のフィリップが全然、王子様系ではないというのはおいておく。
現実だと1人としか結婚できないのだから、先生と仲良くなってもしょうがないではないか。
気の合う順に仲良くしたい。
もちろん、来るべき最終決戦のことを考えたら、戦力は多いほどいいんだけども。
でも、とりあえず今は、黄金の魔法陣情報を仕入れたいのに、その情報がわかっていないという
非常にふわふわした状態で。
何をどう手を付けていいかわからないから、イライラが募るのかもしれない。




