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37 2年生冬 生徒会選挙7

慌ただしい年末の休みが終わった。

私達が立候補をした生徒会選挙も順調に準備が進み、今日が投票日だ。

今日の授業は午前中までで、これから、候補者の演説をして、そのまま投票となる。

壇上には司会の2年生がいて、立候補者たちが並ぶ。

私とトーマスとエミリアとエドワード、そして、テリー。

その場にフィリップと、テリー以外の取り巻きはいなかった。

選挙会場の講堂はザワザワしていた。

テリーは真っ青で目に見えてうろたえていた。

エミリアとエドワードは内心はどうあれ、無表情を保っていた。

素晴らしい自制心だな。貴族の教育というものはこういうところにも表れるものらしい。

私もどういう顔をしたらいいのかわからなくて。

トーマスは端でハンスとこそこそ話していた。

司会の2年生は始めてもいいものか、裏側の幕のところで、クリス様と政治学の先生と打ち合わせをしている。

選挙は政治の一部なので、政治学の範疇に含まれるという判断により、政治学の先生が担当らしい。

先生は始める派で、クリス様は、もう少し待とうと言っているようだった。

「何で来てないの?」

エドワードに聞くと小さく首を振られた。エドワードも何も聞いてないらしい。

集まった生徒達もざわざわしている。

「リリーナ、おまえが何かしたんじゃないのか」

いきなり、テリーが怒鳴った。

「理由もなく、殿下たちが来ないわけがない」

なんて人聞きの悪い。悪いことはみんな私のせいか。

「落ち着けよ、リリーナに殿下をどうこうできるわけがないだろう」

エドワードが私をかばうように前に出る。紳士的だな。

「ちょっと確認したいんだけど」

良く通る声で、トーマスが言った。

「フィリップ殿下が王立劇場に行ったというのは本当なのかな」

それは、テリーに向けてだった。

「クラスで見てた人がいたんだけど、劇団オルデリオの公演に行ったと」

なに、それ。

テリーは呆然と周囲を見回した。

「そんなわけあるかよ」

だが、クラスの人間はみんな知っていた。

フィリップが、今話題の演劇で主役を務めている女優を気に入っていて、足しげく舞台に通っていたということを。

「今週は主演女優の誕生日があるということで、今日の昼公演は特別な趣向があるらしい」

へー。お祝いとかするのかな。

「殿下はそのチケットを入手なさったとか」

講堂のざわめきが更に広まった。

殿下がその劇団に入れあげているという噂は思いのほか広まっていたらしい。

常日頃からフィリップの動向は観察されているのだ。

「では、殿下は舞台に行かれたということでよいのかな」

政治学の先生が割って入った。

「僕が自分で確認したわけではありませんが」

トーマスは私たちと一緒に、演説の最終確認をしていた。ハンス達が見ていたのだろう。

「テリー。君は何か知ってる?」

それはそうなるだろうな。エドワードは知らなかったが、取り巻きのテリーなら知っていてもおかしくはない。

「殿下は確かにチケットを探していたが、すごい競争率で全然出回らなかったんだ」

でも、行ったということは手に入ったのだろう。

まあ、王子様だしな。

ああいうものはスポンサー枠とかそういうものがあるものなので。

金と権力があれば絶対に無理というものではない。

そういうことなら始めましょうか。待っていてもしょうがない」

政治学の先生が言い、選挙演説が始まった。


本来なら、フィリップから演説する予定だったが、急遽、順番を後に回すことにする。

王立劇場はそう遠くない。

私達が公約を述べている間に、テリーはフィリップを呼び出そうとしていたようだ。

馬で行けば数分。

テリーが取り巻き仲間に声をかけたが、不興を買うのをわかっていて、行きたがるものはいなかった。

行ったって、フィリップが言うことを聞くはずもない。

しかし、それでもなんとか行ってくれる生徒を見つけたようだ。

候補者が順に公約を説明していく。

トーマスは最近広がっている高位貴族とそれ以外の分断化を緩和しようと、案を述べていた。

本来はフィリップが生徒会に入ってやるべき内容だが、本人がああなのでしょうがない。

エドワードやエミリアも、それぞれ騎士志望の生徒や女子生徒についての案を話す予定だ。

私も話すことは決めていた。

これまで高位貴族に偏っていた施設の平等利用についての主張だ。

まあ、会議室とかトレーニング機材とか。

エミリア達にもヒアリングして、高位貴族にも文句のでないラインを狙っている。

そもそも、高位貴族は家からの潤沢な援助があるので、学校側の施設など必要がなかったりしているのに

本人も他の生徒も気づいておらず。

結果、誰も使っていないのでそのアンマッチを調整しようという内容だ。

実は会議室なんて一般の生徒も利用したりはしていないのだが、こうすると既得権益に斬りこんだように見えるのだよ。

平民の味方、リリーナのイメージと合う。

選挙とはイメージ戦略でもあるのだ。

そうこうしているうちにテリーの番がくる。

「どうするの?テリー」

テリーを困らせたいわけではなかったけれど。

でも、フィリップはまだ来ない。

ここでテリーが時間を稼げば、フィリップが帰ってくるかもしれない。

まあ、きっと来ないだろうけど。

彼はステージの真ん中に進み出た。

「皆さん、殿下に投票してください」

ぼそぼそとした声が講堂に響いた。

「殿下のメンツを潰すようなことはしないでください。今、やる気がないからといって他の人に入れるのは、決していい結果にならない」

うわー。

すごい保身に走ったコメントだな。

これで、殿下に入れようと思うやつがいるのか。

私は生徒たちを信じている。

それでも当選するとフィリップは考えているのかもしれないが、私はそうは思わない。

いくら、フィリップが王太子殿下であっても、ここにいるのは国中から選ばれたエリートたちなのだ。

盲目的に付き従うばかりの人間ではない、と。

「こんなんじゃ、生徒会長になっても仕事しねえんじゃねえ」

聞き知った声の野次が飛んだ。

ロブだな。まったく余計なことを。あいつはちょっと喧嘩っ早い。

野次はクリアに響いた。

テリーが俯いていた顔を上げた。

そのかわり、俺は、自分が役員じゃなくても、ちゃんと仕事をします。殿下がしなくても、役員じゃない俺や、他の人がちゃんとします。

だから、殿下に入れてください」

それはどうなんだ。

テリー、おまえはそれでいいのか。

普段はすっかり忘れているが、私は現代日本から転生してきた人間なのだ。

理不尽な身分制度には異議を唱えたい。

この世界が魔物が襲ってくるような不安定な世界で、武力や強いリーダーシップで民衆をまとめないといけないとしても

そのリーダーはその地位にふさわしい人が選ばれるべきだ。

別段、現代日本でも、そんな理想は叶えられていないのだけれど。

私は言うぜ。

不敬罪になっても。

「私は誰かに下請けで仕事させるのを前提にした候補者には投票しようとは思いません」

テリーの演説の途中で割って入ってしまったよ。

「身分があるからしょうがないことはとても多いけど、この学び舎では誰もが平等です。

だからこそ、魔法により、完全に秘密が守られる選挙システムがある。

誰が誰に投票したかは明かされることは決してない。自分の気持ちだけで投票出来る、数少ないチャンスです。

どうか、心のままに投票してください」

皆に呼びかける。

届くかどうかはわからない。

そもそも、この学校は身分制度で既得権益を得ている層の子女が多いのだ。

でも。

それを良しとするような人間には、国家を導くエリートであってほしくない。

せめて学生のうちだけだとしても。

理想は理想であっていい。

「おまえにはわからない」

急にテリーが大声を出した。

「おまえから見たら俺はつまらない小物で、うちもつまらない小役人の家なんだろうよ。

 殿下の機嫌を取ることばっかりでつまらないって思ってるんだ」

「もちろんじゃない。馬鹿みたいって思ってるわよ」

おまえは知らないだろうけど。

1年後には邪竜が来て、王国は滅んでしまうかもしれないんだよ。

生きるか死ぬかの瀬戸際だよ。

『街には多大な損害が出た』の一行の損害の中に、含まれているかもしれない。

『邪竜の炎が校舎を焼き払った』の校舎の中にいるかもしれない。

小役人どころか、卒業さえもできないかもしれないのに。

そんな大事な時間を、誰かの機嫌を取って生きるのか。

いったい何のために。

その時、ふいにストンといろいろなことが腑に落ちた。

「あんたは別に殿下の機嫌を取って生きたいわけじゃないよね?役人になって出世してお家の安泰を図りたいんだよね?」

それもちょっと馬鹿馬鹿しいとは思うけど。

でも、もしテリーに姉妹とかがいたら、その人達の人生はテリー次第なので。

「だったら、普通に出世したらいいじゃん。ご機嫌取りだけ上手くなっても評価されないよ」

テリーが顔を真っ赤にした。

「俺みたいなのが出世できるかよ。賢くないし、そんな家柄でもないし」

「でもさあ。フィリップ殿下が引き立ててくれるかどうかもわからないじゃん」

フィリップは生徒会のことなんて、どうでもよさそうに見える。

テリーが頑張っても頑張らなくても、テリーへの評価は変わらなさそうだ。

それが仕事でもそのままだったら?

テリーなんか、自分に尽くすのが当たり前で、報いてやろうという気持ちもなかったら?

「あんたのこと目をかけてくれてるなら、今頃、あんたは劇場にいるんじゃないの?」

招待状が何枚あったかは知らないが。他の取り巻きもいないなら、彼らは連れて行ってもらえたのだろう。

なのにテリーはここにいる。

それを連絡すらされていなかったのだ。

「うるせえ」

テリーが私の胸ぐらをつかんだ。

えええ?

私ったら貴族女性だよ?

実力行使に出ちゃうの?

リリーナは応戦しちゃうよ。殴るよ。鉄拳で。

しかし、捕まれたままだとうまくいかず、太ももを蹴りつけただけになった。

ちょっと、誰か助けてよ。剣は練習したけど、肉弾戦までは想定してないのよ。

ああ、魔法か、魔法でふっとばすのか。

「リリーナ、やめろ」

誰かが制止した。トーマスか。

私を止めるんなら、先にテリーを止めろって。

ああ、でも、エドワードが後ろからテリーを羽交い絞めにしている。

クリス様が割って入って、我々候補者一同が裏側に隔離された後、急遽投票が始まって、結局テリーの演説は途中までになってしまった。

まあまあの大惨事だ。

先生に怒られる気もしたが、政治学の先生はニコニコして私たちを見ていただけだった。

そして、先生はおもむろに言った。

「2人とも、立候補規約を読んでいないのだね」

規約。

あれか、立候補者は1,2年生に限る、とか、来年次の生徒会に引き継ぐまで、留学を含む長期の休学をしないとかいうやつ。

結構、細かくあったけど、普通の生徒なら特に問題がなかったと思ったけど。

「『最終の演説をしなかったものは辞退とする』という項目があるのだが」

先生は穏やかそうな微笑みをたたえたままそう言った。

それ。

私とテリーがつかみ合いの喧嘩を始める前に言ってほしかった。

そして。

即日開票で、トーマス・クレイン生徒会長が爆誕した。

エミリアが2位で、エドワードとテリーが続き、私、リリーナは5位で残り1枠に滑り込んだ。

というか、5枠で5人なので落選しようもないのだが。

王族であるフィリップ殿下が役員にならないという、開校以来始まってというくらいの非常に珍しい結果になった。クリス様は頭を抱えている。

「しょうがないですね」

エミリアは厳しかった。

「社会に出てから失敗するよりも、良かったと思うべきでしょう」

私もそう思うよ。でも、当分フィリップとは顔を合わせたくないな。


そして、こっそりと図書館に向かう。

アルは何か調べ物をしているようだったが、私を見たら笑って手を振った。

「当選おめでとう」

「おかげさまで」

多分、本当にアルのおかげなんだろうなあ。5位当選だったということは。

一応、責任上、確認せねばならぬ。

「何かやった?」

「たいしたことはしてないよ」

と、いうことはやることはやったんだ。

「プラチナチケットを入手してフィリップの手元に渡るようにしただけ」

なるほど。

「来るか来ないかは本人の選択に任せた」

「規約は知ってた?」

「僕はね。フィリップはどうかしらないけど、規約に関わらず、演説会には来るべきだろう」

そのとおりですとも。

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