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35 2年生冬 生徒会選挙5

前々からずっと思っていた。

世界の救世主に選ばれたリリーナ・ヴェルデガン。

女神に授けられたチート能力『努力』でいろいろ乗り切っては来たが

現代日本から転生したという利点はあんまりなかった。

数学が出来たりピアノが弾けたりはしたが、それはこの世界の人も普通に出来ることで。

しかし。

今、その知識を活かす時ではないか。

選挙対策という、この世界の人の9割以上が見たことも聞いたこともないことを。

全校生徒、たかだか300人弱。

何とかして見せようじゃないの。


日本には昔、どぶ板選挙という言葉があった。

どぶ板というのは個人の家の前の下水の上に板をかぶせて通れるようにしたもののようで、

要は一軒一軒、家を回って選挙活動をすることだそうだ。

私が選挙権を得たあたりでは、好ましくない選挙活動として禁止されていたように思う。

しかしだね。

何故、禁止されたかというと、効果があるからではあるまいか。

金銭での買収が禁止されているように。

なにかの記事で読んだことがあったが、有権者に細かく会って、握手をした数こそが票になるのだそうだ。

票を得ようとするなら、お近づきになるしかない。

人間は、自分に声をかけてくれた人を応援する生き物なのだ。


早速ナタリーをお茶会に呼んだ。

刺繍という女性らしい趣味を持つナタリーは、同じような趣味を持つ女性の友達が多い。

急遽だし人数を多めにしたいので、立食タイプのパーティーにして仲良しの皆さまもご一緒にと声をかけた。

ちゃんとした形式ばったお茶会ではなく、お気軽なお誘い。

っぽく装ったが、どうしてどうして。

ものすごく気合いを入れて準備をしたよ。

一番大きい会議室を借り、飾りつけはソフィア様のお力を借りて、わかる人にはわかる趣味の良さを押し出す。

正面には深緑の森に囲まれた湖に白い鹿が佇む、非常に豪華な刺繍のタペストリー。

緑と青の発色が素晴らしい品を飾った。

これはものすごい逸品なのだ。

クリス様のコネで用意してもらった。

その素晴らしさに、ナタリーとお友達はもちろん食いついた。

「なんて美しい緑なんでしょう」

「同系色を何色も使って深みを出しておりますのね。これもソフィア様の作品ですの?」

目がキラキラしている。

「これはうちから持ってきましたの」

奥からエミリアが進み出た。

そうなのです。

今回の調度品はすべて公爵家から借りてきましたの。今日の日の為に。

「エミリア様」

周囲がざわついた。

そうでしょうとも。

皆さまは、仲良しのリリーナと気の置けないお茶会を楽しむつもりで来たかもしれないけど、

今日はエミリアの顔見世なのだ。

この学校では同じクラスであっても、公爵令嬢と平民や男爵家あたりの令嬢が話すことなど、ほとんどない。

お姫様が平民と話すことがないよう、グループ分けやカリキュラムが整えられている。

なので、入学して1年になろうというのに、エミリアと直接話したことのある生徒は数少ない。

選挙に出るなら、まず仲良くならねば。

階級社会には階級社会の便利なところもあって、身分の高い人が気さくに接するだけで

それだけでいい人に見えてくるマジックにかかるのだ。

「こちらは良いものなのですけど、大きさ的にお披露目する機会がなくて。皆様に見ていただいて嬉しいですわ」

エミリアがにこやかに微笑んだ。

途端にナタリーたちの好感度が上がるのが見える気がした。

正直に言おう。

エミリアは刺繍にも手芸にも興味がない。

提出物は代理でソフィア様にやらせても平気な公爵令嬢だ。

それだけ切り取るとわがままなお嬢様のように思えるが、仲良くなって知ったことには、エミリアはなかなか多忙なのだ。

その儚げで嫋やかな外見とは裏腹に、未来の王妃として、政治経済とか国際情勢とか、

普通のご令嬢は全く知らなくていいような知識を詰め込まれている。

ちまちま刺繍を刺してる暇はない。

ちなみに、ゲームのエミリア様は、いかにも男勝りの女傑という感じだったので、女らしいことが出来なくても

そういうものかで済んでいた気がする。

別に顔が違うわけでもない、不思議なものだなあ。

その、刺繍に全く興味のないエミリアだったが、知識はきちんと仕入れてきている。

手芸好きの女生徒を相手にするのだから、そのくらいのおもてなしは常識だ。

そもそも、他国の王族や偉い人の奥様にも刺繍好きは多いのだ。

「他国から嫁いでこられたジョージアナ王妃をお慰めするために時の名手ミリディア・カナ様が仕立てたとか」

「では、ジョージアナ妃のご実家からの材料かもしれませんね」

「ああやはり。この緑は輸入物だと思っておりました」

なんだかわからない話で盛り上がっている。

私は必ソフィア様のおかげで技術は身に着けたけど、知識はからっきしなのだ。

しかし、会は盛況で、皆様、意外に気さくで優しいエミリア様に夢中になっておられる。

ナタリーの友人を揃えてもらったので、下位貴族の女生徒が多く、ライバル令嬢が来ていないので尚更だ。

その間にも、エミリアと私は世間話をしながら、学園への不満などを聞き出していく。

女生徒の少ない学園だけあって、女子が困ることは多い。

保健医への不満なども出た。

来た来た来た来た。

あいつは本当にいつか更迭してやる。

「アドバイスをくださる女性の先生がいらっしゃればいいのですが」

誰かが言った。

なるほど。

すぐ更迭は無理でも、アシスタントを付けるという手段が使えるか。

やはり人と話すと勉強になる。

他にもいいヒントをたくさんもらった。

生徒会でやりたいことをアピールする時に役立つだろう。

エミリアが皆様をお送りしているときに、仲良しのアンナに袖を引かれた。

「リリーナ様とエミリア様は選挙でフィリップ殿下に勝つおつもりなのですね」

さらりとアンナが言った。

そこまでハッキリ言わなくても。

私はともかく、エミリアはフィリップと共に生徒会を運営する気なのだから。

勝つ気というか、勝ってもいいかっていうか。

「いいと思います。応援しますわ」

アンナは目立つようなところはないけど、空気が読めて如才ない。とても頼りになる。

スタッフにはこういう人が必要なのだ。


その後も、私たちはアンナの手引きで普段は喋ったこともない女生徒達とお茶会を繰り広げた。

年末の休暇中、領地が遠くて帰れない生徒たちは、友達同士で楽しく過ごしてはいるものの、やはり刺激が欲しいものだ。

公爵令嬢のお茶会に招かれて、素敵な調度品を見せてもらえるなんて。

エミリアは誠実に対応した。

本当に偉い。


似たようなことをエドワードにもやらせた。

男子生徒はお茶会を開かない。

しかし、食事の時に偶然、同席になるとか、やりようはいくらでもあるものだ。

エドワードは口下手だが、そこは仲間がフォローする形で何とか、親交を深める。

侯爵令息とお近づきになりたい生徒はいるし、騎士団長の息子というのも大きい。

トーマスは、心配がない。

が、選挙のイロハを教えた。

そして、財力に物を言わせることも教えた。

もちろん選挙としては駄目駄目だ。

でも、この世界には公職選挙法がないのでやったもの勝ちである。どうせフィリップ殿下だってそれを知っていれば、金と権力に物を言わせるのだろうし。

ちょっと楽しくなってきた。

フィリップめ。

生徒会長になって、周囲にお取り巻きが入らなくて驚くがいい。

エミリアとエドワードはフィリップを支えるために入るのだから、そんなに困りはしないだろうが

あの2人はフィリップにも真面目な生徒会運営を求めることは間違いない。

他人に適当にやらせようだなんて、そんなにうまくは行かないと思い知るがいい。

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