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34 2年生冬 生徒会選挙4

トーマスと私でテリーと話すことになった。

身分の高い人のほうがいいかと思わなくもなかったが、それでは本音を言わないかもしれない。

フィリップ達が放課後、街に繰り出すところを私は見ていた。テリーは1人残されて、書類を整理していた。

トーマスがいつもの通り、手伝いに来たといった感じで入室する。

「ああ、テリーも来ていたのか」

何故にトーマスはこんなにスマートに挨拶ができるのか。

私なんかかなりどきどきしているのに。

「なんでその女が来てるんだ」

テリーはいきなり私に牙をむいた。

態度悪い。

「リリーナは生徒会選挙に立候補するんだ。もし選ばれたら仕事をすることになるしね」

「そんな女が受かるわけない」

そうかもしれませんが、そんなハッキリ言わなくても。

「それはわからないよ。リリーナは意外なところで人気が高い」

トーマスが軽くいなすと、テリーはガンと机を叩いた。

この学園に通う淑女であれば、そのような乱暴な仕草だけで怯えてしまうこともあるのだろうが。まあ、私だしね。

「殿下がお許しにならない」

おやまあ。聞きづてならない。

「殿下が反対したって投票する人には関係ないしね。学園をよりよく運営する人に投票するだけだよ」

私は美しい建前を述べた。

「殿下はおまえと一緒に役員をしたりしない」

「嫌なら殿下が辞退するだけだよ。私はやる気に満ち満ちているから」

「な」

テリーが詰まった。

みんな知ってる。

フィリップは王太子だから当然自分が生徒会長に選ばれるとは思っているが、特にやりたいわけではないと。

なんなら面倒くさいと思っているのではないかと。

そりゃそうだろう、なんでもテリーに任せっきりで。

エミリアも言っていたではないか。

生徒会活動に参加するのは、先輩のやり方を学ぶためでもあると。

「そもそもさあ。殿下は街で遊びすぎじゃない?放課後出かけるのは許可制だよ」

許可を取ってないもの知っている。

テリーがぐっと押し黙った。

「僕は知ってるよ」

トーマスが割って入った。

「エミリア嬢の前では言えなかったけど、最近、殿下は劇団に夢中なんだよね」

「何、それ」

「王立劇場で『愛は降りしきる星のごとく』って芝居がかかってるんだ」

よくある恋愛物らしいが、とても大ヒットしているらしい。

強い魔力を持つヒロインが、魔術師である恋人に利用されて、権力者の娘に乗り換えられてしまう悲恋物だそうだ。

挙句、星祭りの儀式で不実な恋人をかばって死んでしまうらしい。

絶対見ない、そんな不愉快なもの。

「ヒロインのメアリー役の女優がとても美人なんだって」

ああ、そうですか。

フィリップはその女優が気に入って、公演に足しげく通っているということか。

「くだらね」

他にやることはいっぱいあるだろうに。

「殿下がそんなにやる気がないのに、あんただけ頑張って馬鹿馬鹿しいと思わないの?」

「それが俺の仕事なんだ」

テリーがうつむいた。

「仕事?殿下の機嫌を取ることが?」

「そうだよ」

「馬鹿馬鹿しくない?」

「家の浮沈がかかってるんだ。女にはわからない」

テリーは逃げるように走り去った。

比喩表現ではなく、本当に走った。

生徒会室に取り残され、ただただムカつく私。

なんだよ、それ。

女にはわからないって。

しかも。片付け終わってないじゃん。

テリーがいなくなったので、しょうがなくトーマスと片付けを続ける。

なんだかなあ。

乱暴に書類を揃えると、扉の向こうからクリス様とアルが出てきた。

奥にも部屋があったのか。

「いたの?」

まあ生徒会室ですからね。

アルはともかく、生徒会長のクリス様がいて、なにがおかしいというものでもなく。

「内容によってはテリーには難しいものもあるからね」

クリス様がさりげなく私から書類を奪い去り、丁寧な手つきで揃えた。失礼な。

「いたんなら、いい感じのところで入って来てくれればよかったのに」

「そんな隙が無かったよ」

アルは私とトーマスを手招きして、奥の部屋に誘う。

クリス様が一人で片付けをしているのをしり目に、やや冷めたお茶とお菓子が振る舞われた。

空腹に甘いクッキーが嬉しい。

「君の家は武門の誉れというか、実力主義だよね。腕があるものが正義」

何を突然。

「そりゃそうだよ。魔物と戦って勝てる奴が一番偉いの」

だって、何をするにしても、まずは生きてないと駄目だから。

農業も工業も生きて働く人がいてこそ。

魔物が出没する辺境の地では、命を守れる力のある人が尊重される。

「トーマスの家は商売してるから、儲けられる才覚のある奴が偉いんだよね?」

トーマスが頷いた。まあ、わからなくもない。

「領地とか資産のない中途半端な官僚家系だと、派閥のどこにつくかって大事なんだよね。家長の判断が家のその後を左右する」

アルはじっと私を見つめた。

何が言いたいのか。

まあ、私は大人なのでわからなくもないよ。

「どうせ、テリーはテリーで大変なんだよ、もう少し言い方というものがあるだろう、とか言うんでしょ」

「正解」

わたしがぶうたれていると、トーマスが静かに切り出した。

「僕は、テリーのこと、そんなに嫌いじゃないんだよ」

「そういや、そんなこと言ってたね」

「取り立てて才があるかと言われたら困るけど、仕事ぶりは真面目で几帳面だ」

私の仲良しのアンナも似たタイプだからわからなくもない。

組織にはいろいろな役割が必要だから、そういう人も必要だ。

いや、アンナは目端が利く。

自分の判断でいろいろできるから、フィリップの言うなりなテリーとは比べ物にならない。

「そもそも、殿下は変な噂を流さなくたっていいんだよ」

私とやりたくないというアレか。

「だって、殿下は何もしなくても受かるだろう」

それはそうだ。

別にテリーはせっせと妨害しなくても、フィリップは当選するだろう。

「生徒会活動自体も、殿下は別にテリーに任せる気もないんだよ」

「そうなの?」

てっきり自分の代わりにやらせてるのだと思っていた。

「他の誰でも同じなんだよ。テリーでなくてもいい」

そりゃそうだ。

他にも候補はいると言っていた。テリーより身分の高い取り巻きもいる。

「だから、まあ、テリーは他の取り巻きと差をつけたいんだね」

「本来なら他の取り巻きより不利だけど、活動してれば有利だってこと?」

「そうなるかな」

生徒会に入ったからといって、何が有利かと思っていたが、就職や、その後の配置に影響もあるらしいのだ。

リリーナびっくり。

「役人になりたいなら、とても有利だよ。領地があるような家柄だと必要ないんだけど」

なるほど、それで、殿下の取り巻きの中でも、役人志望のテリーは熱心で、他の生徒はそうでもないという温度差が発生しているわけか。

「殿下に気に入られたくて必死になり過ぎだけど、それはテリーだけのせいではないよね」

そうだね。

「そもそも、リリーナだってテリーを虐めたいわけではないだろう」

アルも言う。

2人がかりか。

でも、そうだ。私がムカつくのはフィリップだ。

フィリップに見る目があれば、変なのを腰巾着にしない。

フィリップが取り巻きをきちんと能力で評価していれば、おべんちゃらやご機嫌取りではなく

実力でフィリップの寵を競うことになる。

それはそれで生徒たち、臣下たちが切磋琢磨することになるので、国としてはいいことで。

その時、フィリップがテリーのことを才能がないと見るか、真面目な性分を評価するかは別の話だ。

「ああ、なんかフィリップをきゅうって締めてやりたいな」

「リリーナ…不敬だよ」

トーマスが呆れたように言う。

どうせおまえも同じことを思っているくせに。と、思ったけど、もしかして、違うのだろうか。

私と違って、この世界の人は骨の髄まで身分制度が身に沁みていて、私みたいなことを考えもしないのだろうか。

「不敬ではないよね」

アルがフォローしてくれた。

「リリーナはフィリップにより良い君主であってほしいと思っているだけだよね」

そうそう。こくこくと頷く。

エミリアだって「痛い目を見てほしい」と言っていたではないか。

そして、皆も、それをフィリップに対する叱咤激励だと受け取っていたではないか。

「お仕えするに値する君主であってほしいという気持ちの表れだよね」

そう。

そうなの。

だってさあ。

下手したら、私、フィリップと結婚するのだよ。

私の夫にふさわしい人であってほしいじゃない。

婚活であれば、とても厳しい目でいろいろチェックするところだよ。

いや、お相手をチェックというか、試すというのもおこがましいけどさあ。

でも、一生がかかってるとなったら、それくらいするじゃない。

頭の中でぐるぐると考えて気が付いた。

テリー達もそうなのだ。

一生ついていく君主なのだ。そして、もう選ぶ余地はない。

それはよくなかろうと、現代日本人が叫ぶ。

どこに生まれるかは選ぶことが出来ない。それは仕方のないことだ。

でも、自分と一族郎党の一生がかかるのに、選択の余地がないなんて。

国王と言っても、独断で何もかも決められるわけではない。

安定した政治を行うためには、公爵家のような有力貴族や、家柄がそれほどではなくても騎士団や魔術師団に諮らねばならない。

それならば。

フィリップと合わない人には、騎士団や魔術師団を紹介するとか、いろいろ手段があっていいよね。

でも、その前に、フィリップの人となりを知って、判断してもらうのが先じゃないのかしら。

そういうことを考えるのも、実は王妃の仕事じゃないの?

つまり、まるっと大きく考えたら、私のお仕事ではないでしょうか。

気が付くと、物凄く長いこと、考え込んでいたらしい。

アルとトーマスが心配そうにしている。

私は二人ににっこりと笑いかけた。

「私に少しアイデアがあるんだけど」

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