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33 2年生冬 生徒会選挙3

立候補するとなったら、公約とかも考えないといけない。

トーマスやエミリアと被らないようにしなくては。

実際に選挙が行われるのは、新年が開けてすぐだけれども、準備は早くて困るということはない。

私は準備はきちんとしたいタイプなのだ。

ちまちま計画を立てていると、トーマスが不穏な噂を仕入れてきた。

曰く「フィリップ殿下は平民や平民上がりで礼儀のなっていない伯爵令嬢が生徒会に入るのをよく思っていない」というものだ。

貴族の男子生徒を中心に流れている。

おまえら、フィリップの不興を買うようなことをするなよという脅しだ。

なんてこったい。

ムカつくムカつくムカつく。

これは他の皆にも共有せねばなるまい。

私は早速エドワードとエミリアと選挙を手伝ってくれているクラスメイト達を招集した。

私とトーマスは徹底抗戦でもいいのだが、フィリップが嫌がっているとなると、エドワードやエミリアは立場的に板挟みになるからだ。

「俺は辞退してもいいんだが」

やはりこの件ではエドワードが一番弱気だ。

やりたくないのか、そうか、そうだろうな。

無理やり担ぎ出したようなものだし。

でも、立場的に一番フィリップの受けがいいはずなのだ。

同じクラスの生徒はフィリップとエドワードの仲がこじれているのを察しているが、何も知らない3年生や1年生はエドワードに入れるはずなのだ。

「侯爵令息は辞退してどうするのよ」

「でも、リリーナの手先が1人減るということで痛み分けに出来ないかなって」

それは私が落ちて手打ちにする予定なんだってば。

っていうか、私の手先とか言わないでよ。人聞きの悪い。

「ちょっと待ってください」

エミリアが手を挙げた。

「私たちが立候補することはまだ親しい友人たちしか知らないですよね」

「そうね。エミリアが言い出したのがこないだだしね」

選挙の立候補締め切り自体は年末休み明けだ。

パパっと公示して、多少の討論などがお行われた後、速やかに投票が行われる。

この世界には選挙違反とかそういう概念がないので、公示前でも立候補の予定を明らかにして、選挙活動をしてもOKだ。

そもそも1年生で手伝っている時点で、来年の候補と見做されるくらいだし。

生徒数300人程度の生徒会選挙なのでそんなものだ。

「フィリップ殿下は我々が出るのをご存じなのでしょうか」

「ああ、そうか」

エドワードが相槌を打つ。

私とトーマスは会話の意味が分からない。

「まだ公式になっていない嫌な話を誰が殿下に知らせしたのかということだよ」

確かに、我々がこぞって生徒会に入ったら、フィリップは非常に不愉快になるに違いない。

取り巻き連中も自分から余計なことを切り出して『不興を買う』のを避けたいはずだという。

「でもさあ、誰かは知らせるんじゃないの?」

小説に出てくるような『王家の影』的なスパイとか。

と、思ったけど、さすがにそれはないか。生徒会選挙だしな。

エミリアはきゅっと下唇を噛んだ。

「殿下は、あまり選挙に関心がありません」

それはとても悪いことのように。

実際、いいことではないけれど。

「なので、今のうちに我々の動きを封じて立候補させなければ、そう言った事実が耳に入ることはないかと」

なるほど。殿下が立候補に反対だと言えば、ライバルは立候補しない。

んなわけあるかー。

しかしまあ理屈ではある。

誰かがフィリップの為に勝手にやっているということだろう。

「殿下がご存じないなら、勝手に意思を表明するのは問題があるね」

トーマスが悪い笑い方をした。

エドワードはそれはどうかという顔をしたが、何も言わない。

エミリアはどうだろうか。基本的にはフィリップの味方なのだが。

「わたくし、殿下の意見を側近が先回りするのは反対ですわ」

そうでしょうとも。

「部下の管理をするのは上に立つものの義務でもあります。殿下も多少は痛い目を見てもよろしいかと」

きっぱり言った。

その場の全員がドン引いた。

まさか、美しく嫋やかな公爵令嬢、常に控えめにおとなしく微笑んでいたエミリア様がそんなことを言い出すとは。

「殿下は選挙にあまり関心を示しておられないようです」

それは、誰がどう見てもそうだろう。

トーマスはずっと生徒会の活動を手伝っているが、フィリップは全く来ていないのだそうだ。

生徒会長になろうというのに、クリス様と引継ぎの打ち合わせをしたりとかもない。

「もしかしたら殿下は生徒会に入りたくないのかもしれません。でも、殿下の意志に関わらず、殿下が立候補なされば、

当たり前のように生徒会長になられます。無関心でいていいとは思いません」

その口調に迷いはなかった。

「殿下が大人になった時にはもっと重要なお仕事をなさることになります。その前に、己に課せられた義務を理解すべきかと」

そのとおりですとも。

私はエミリアの目的を勘違いしていた。

てっきり役立たずのお取り巻きの代わりにフィリップをサポートするつもりなのかと思っていた。

それもあるのだろうが、フィリップ自身に政治に関心を持たせたいという気持ちもあったのだ。

その為には、フィリップの取り巻き達を生徒会に入れるつもりはなく、それでリリーナとエドワードを巻き込んだということだ。

私はエミリアをゲームの悪役令嬢と違って嫋やかな優しいいかにも女性らしい令嬢だと思っていたが、なかなか芯は強そうだ。

「僕もエミリア嬢に賛成だ」

トーマスが言い、他の生徒たちも頷いた。

そして我々は、噂の出所を探すことになったのだった。


学園で1年を過ごし、トーマス達の組織網は下級貴族の子弟たちにも及んでいる。

フィリップの威を借りて、いろいろ吹聴していたのは取り巻きのテリーだと判明するのは早かった。

さっそくクラスで集まって対策会議だ。

エミリアとエドワードとトーマス、あとはスタッフのハンス、ロブ、アンナだ。

「また、あいつかよ」

ハンスが忌々しそうに言う。

テリーは夏の終わりにロブに怪我をさせた張本人だ。当然、我々の間での評価は低い。

彼はあの後も特にとがめられることもなく、フィリップの取り巻きとして偉そうな顔をしている。

「でもまあ、妥当なところだよ。彼はあのメンバーの中では下っ端だからね」

トーマスが分析する。

「でも、テリーは生徒会の活動もよくやっているんだよ」

ロブが言う。意外なところから助け船が出た。

あんな大怪我させられたのに心が広いな。

「トーマスと一緒に俺たちもクリス様の手伝いをするんだけど、テリーも来てるよ」

それは知らなかった。

「でも、あれはフィリップ殿下にやらされてるんじゃないか」

ハンスが言うには、フィリップは次期生徒会長にも関わらず、あまり生徒会に顔を出してはいないようだ。

代わりに取り巻きたちに顔出しをさせて、雑用などを任せているのだとか。その回数が一番多いのがテリーらしい。

王子様は雑用などいたしませんってか。

トーマスをチラ見すると、半分斜めに頷いた。

「どういう意図であれ、参加していることは事実だよ」

そもそも、フィリップのテリーに対する扱いは悪いのだという。

常に、使いっぱしりのようなことをさせられている。

取り巻きの間でも順列があって、貧しい男爵家のテリーは最底辺なのだ。

ロブに怪我させたのも、フィリップ達にそそのかされて、うっかりやりすぎてしまった部分があると思われる。

いいように使われて可哀想に。

誰も口にはしなかったけど、そういう空気があるのは感じられた。

なるほど、それで、男子たちはテリーへの見方が優しいのか。

もろもろ納得した。

エミリアも感じ取ったようで、美しい顔を曇らせた。

しかしそれは、テリーへの同情ではないようだ。

「生徒会活動への参加は、雑用をすることが大事なのではなく、先輩方が何をなさっているかを学ぶ場だと思うのですが」

いきなり立候補するわたくしの言えたことではないですが、とうつむくところは真面目でかわいらしい。

男どもが、ちょっとぽうっとなった瞬間を目撃したが、口には出さない。

何だろう、ちょっとエミリアはモテモテすぎやしないだろうか。

さすが、ヒロインのライバルの美しく才能に溢れた公爵令嬢だよ。

モテ度がすごいよ。

でもさあ、この人、本来なら私を虐める悪役令嬢なんですけど。

しかし、美しくて可愛いのは認めるし、なんなら私より性格がいいのも認める。

「テリー様が殿下の代わりに働かれているというなら、他の方より優位なのでしょうか」

テリーの身分は低い。

立候補するとしても、人数合わせのメンバーだと思っていた。

「取り巻きで揃えた中では一番身分が低いけど、一番事前活動はしているね」

まだオープンになっていないのに、トーマスは詳しかった。フィリップ派4人の名前をあげる。

「他は騎士や魔術師家系でテリーだけ官僚家系なんだな。それで熱心なのかも」

なるほど、将来役人になるから、政治的なことに興味があるということか。

「でも、だからといってテリーが他より有利ということはないよ」

御身分が男爵家なので。

それはちくりと私の胸を刺す。

いいように使われて、それでも、何も知らずに人任せなフィリップの為に働いている。

フィリップはいつか彼に報いるのだろうか。

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