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29 2年生秋 悪役令嬢と一緒3

エミリアを鍛える。

目標が出来たものの、具体的にコレというアイデアがわかない。

エミリアに魔法の才能があるはずなので、それを活かしたいというのはあるのだけれど。

こういうことに詳しい人は誰だろう。

トーマスはとても博識だけれど、やはり平民なので、魔法には少し疎い。

平民で魔法の力が強い人はあまりいないので、幼少期から接しているというわけにはいかないのだ。

エドワードは剣のほうが得意だし。

いろいろ考えて、アルを探しに行った。

アルは騎士学校に通っていたというし、魔法より剣のほうが得意そうな感じもするのだが、わざわざ魔法学校に通いなおすというのだから、魔法に対しても並々ならぬ熱意があるのだろう。

それが証拠に、最近のアルはよく魔法図書館にいる。

学園の図書館の一角のことを、生徒たちがそう呼んでいるのだが、そこは入口にかけられた魔法が解けないと中に入れないのだ。

途中途中のドアに魔術がかかっていて、解呪した人だけが進めるというシステムだ。

扉は3つあって、奥に行くほど中に入るのが難しく、専門的な書物が置かれている。

最後の扉は教師の中でも専門外だろ入れないほどで、その厳重さは貴重な書物を守るためでもある。

驚くことにアルは最奥の小部屋まで入っている。

他の生徒は見たことがない。私は…よくわからないけど勘で解ける。そこはほら、救世の乙女だから。

理論がわからなくても魔力が高いと解けちゃうんだよ。

最近はいつもここにいるので、探す手間が省けて助かる。3年生の教室までは行きたくないし。

「ちょっと相談があるんだけど」

誰もいないのを良いことに、隣に座る。

人がいると貴族の淑女が異性と距離が近すぎるとか何かとうるさいのだ。

「あんまりいい予感がしないけど、何?」

人聞きが悪い。

「魔力が強いのに、魔法が上手く使えないって、どういうことなんだろうと思って」

「おや、普通の質問だね。珍しい」

人聞きが悪いな。

春にエドワードをひっかけてから信用がない。

「君の話じゃないよね。息をするように魔法を使うんだから」

「まあね」

実のところ、私は魔法について特に考えたり勉強したりしたことがない。

ただひたすら使ってレベルをあげるだけなのだ。

この世界には『魔力が無い』人はいない。誰でも多かれ少なかれは持っている。

ただ、平民のほとんどがそうであるように、ある程度以上の量の魔力がない人間には、魔法を習うメリットはない。

正直、微力な魔力では、労力をかけて得られるリターンが少ないからだ。

遠くの物を取りに行くにしたって、長々と詠唱をしていくより、足を動かした方が早い。

ほどほどの力があれば、魔法陣や詠唱の力を借りて魔法を使う。

魔力の多い人は魔法陣や詠唱の助けが無くてもある程度の魔法を使える。

魔法学園の生徒はたいていがこのレベル以上だ。そして、さらに上を目指すために、体系を学び、魔法陣や詠唱の練習をするのだ。


なので、エミリアのことがよくわからない。

彼女には大きい魔力がある。

ゲームの設定上、明らかだ。

それなのに魔法の、授業の様子を見ても、現状、有効に使えている様子はない。

「魔力の強い人は、当たり前のように魔法を使えるとは言うよね」

それは、教えられずとも手を動かすように。

言葉を覚える前に足を動かすように。

「その大きい魔力があるのに、というのが間違いなんじゃないのかい」

アルの指摘はもっともだ。

魔力を正確に判定することが出来るのは、ごく一部の鑑定士だけで、だいたいは簡易な魔道具での判定となる。

「というか、さっきから誰の話なんだい」

「エミリア」

「エミリア?クリスの妹の?」

「そう」

アルは考え込んだ。魔力は遺伝で決まることが多い。エミリアは公爵家の娘でクリス様の妹だ。

魔力が強いと想定するほうが自然だ。

「魔術の成績はどのくらいなの」

「40番くらいじゃないかしら」

途端に何を言っているのかという顔をされた。

「普通に大きい魔力があって使えてるじゃないか」

そうなんだけど。

このエリートが集まる学園で40位だったら問題ないだろう。

全国で40位と同じなのだから。

しかし。

「もっと使えてもいいはずなのよね」

「なんで」

「あるはずだから」

ゲーム通りなら。魔法だけならリリーナと匹敵する力を持っているはずなのだ。

「リリーナ」

アルがパタンとみていた本を閉じた。

「それは女神の予言?」

アルは普段は私が言ったゲームの話を忘れているふりをしているが、実はちっとも忘れていない。

「まあ、そうなのかな」

「それはどのくらい合ってるの?」

小首をかしげる。

合ってるというのはどういう意味だ。

「前にも、ちょっと違うみたいなことを言っていたよね。君が受けた預言と現実はどのくらい差があるの?」

問われて困る。

フィリップとエミリアはすごく違う。

魔術師は出てこない。

でも、トーマスとクリス様はそんなに変わらない気がするし、エドワードは近くなってきている。

これをくるっとまとめて近いかどうかの判別が難しい。

「わかった。そこは追及しない」

アルはこういう時にさっと引くタイミングが上手い。

私が困っていると、私にもわからないのだと判断するようだ。。

「本人はどう言ってるの?」

「本人?」

「エミリア嬢だよ」

聞いたことがなかった。これはうっかりしていた。


まずはそこからということで、早速アポを取った。

部屋に来てくれるのであればということで、エミリア様のお部屋で優雅にお茶をいただく。

さすが公爵令嬢であるエミリア様のお部屋は、とても広くて調度も立派だ。

家具はご自宅からお持ちになったものらしい。

どうもこの部屋に置くのに合わせたものを用意なさったようで、2年しか使わないのに、その後どうするのと思ったことは内緒だ。

お茶と焼き菓子も美味しい。

今日はエミリア様が手ずからお茶を淹れてくれた。

さすが、家で習っていただけあって、流れるような所作がとても美しい。

ソフィア様もだが、もうなんというか優雅さが違うのだなと思わずにはいられない。

「とても美しいですね」

褒めるとちょっと頬を赤らめた。

可愛い。美しいのは本人も美しい、というか可愛い。

しかし、それではいけないのだという。

貴族階級の一流の淑女は、あまり感情を表に出さずに、常に優雅に微笑むことが推奨されるのだと。

「えー。出来てる人いないじゃない」

クラスメイトは上位貴族のご息女も大勢いるけど、皆様、結構かしましいというか、まあ、うるさいよ。

裏で悪口言ってたり、足の引っ張り合いもたくさんある。

表向きだけ上品っぽければいいというのは違うのではないかな。

「リリーナ様は自由でいいですよね」

「自由じゃないよ」

問題山積みでやること多いし。楽しいこともあるけど、トータルで気苦労のほうが多い気がする。

ただ、自由という意味では自由なのだろうか。

「よくわからないな。やるべきことをするだけっていうか」

毎日追われてますとも。

エミリアは考え込んだ。そこで、ちょっと間が空く。こういうところが

女の子同士ではちょっとノリが悪いとか思われてしまうかもしれない。

「やるべきことが、ご自分でわかっていて、それに邁進できるのは、自由なのだと思います」

呟くように言った。

「わたくしは、何もできないですもの」

美少女は憂い顔も優雅だな。しかし、何もできないとか言ってちゃ駄目だよ。

私は貴方をガンガン鍛えて戦力にするつもりなんだから。

最終的に邪竜と戦うんだよ。

「まだ若いんだし、これから、いろいろ得意なことを伸ばして行けばいいじゃない」

なんだか、おばちゃんみたいなことを言ってしまった。

まだ若いんだからって、私も若いよ。

エミリアもふふっと笑った。

「いいな。リリーナ様は」

呟くような声は、どこか疲れていたかもしれない。

「剣も魔法も使えて勉強も出来て」

「エミリア様にも出来ますよ」

「わたくしは…駄目なんです。魔法を無くしてしまったから」

無くしたという意味がわからない。

重ねて問うと曖昧に笑った。

「お父様はそんなことは出来なくてもいいって」

何故に。

出来ても出来なくてもいいなら、出来たほうが良いじゃない。

「子供の頃はお兄様と同じくらい魔法が使えておりました。でも、お兄様より出来るのはよくないって」

やはり、エミリアには強い魔力があったのだ。

しかし、なるべく使わないようにしていたら、使えなくなったという。

「お父様は、魔法なんて淑女には必要のないものだから、それでいいって」

そりゃないよ、お父さん。

強く異議を申し上げたい。

この世界では魔法はとても重視される。

魔物を攻撃できたり防御できたりするし、生活魔法が使えたらとても便利だ。建築や家事もとてもはかどる。

ただ、確かに、それらは貴族のお嬢様のお仕事ではない。

貴族の女性の仕事は社交と家の切り盛りだ。

実際に手を動かすのは使用人なので、魔法で何かをする必要はない。

極端な話、本人が使えなくても、遺伝子に眠る魔力を次代につなぐだけでいい。

だがしかし。

エミリアは多分、魔法が好きだ。

貴族の女性には必要ないから使うなと言われて使わないのはおかしいだろう。

「練習しましょう」

「子供の頃に使えていたなら今だって使えます。練習しましょうよ」

「でも、魔力が無くなって」

「でも、も、だって、もなしですよ」

この私が、エミリアをゲームのような大魔女にしてくれよう!

励ますつもりで、ハンカチを浮かしてくるりと回す。

白に黄緑色の縁取りのハンカチを上手に形作ると、この辺でよく見る小鳥のように見えるのだ。

これをパタパタ飛ばすと地元の子供たちにはとても受けた。

エミリアにも受けた。

「綺麗。リリーナ様の魔法は素敵ですね」

目がキラキラしている。

そこまで褒めていただくほどのものでも。

ただ、私は魔法が得意なほうなので、もうちょっと面白いこともできる。

「ハンカチありますか?」

エミリアのハンカチを借りて、もう2羽ほど飛ばしてみる。

つかず離れず、追いかけっこをするように。

「素敵」

うっとりするような称賛の声に鼻が高い。

「何羽くらいできますか?」

エミリアは家じゅうのハンカチを持ってくるかの如くの勢いで食いついた。

期待の眼差しに調子に乗って、部屋中を小鳥だらけにしてしまった。

いかん。

これって、後から洗ってアイロンかけないといけないよね。

しかし、エミリアの喜びには代えられなかったのだ。

「前から授業で思っていたのです。リリーナ様はとても魔力のコントロールがいいって」

「エミリア様にも出来ます。部屋中を小鳥でいっぱいにしましょう」


とりあえず、魔法図書館に行ってアルに報告した。

元々は能力があったこと、本人にはやる気があること、思うように発揮できなくなったことを。

「それでどうしたらいいと思う?私、教えかたがわからないのよ」

魔法の使い方とか勉強した覚えがない。

常にそこにあったから。

私にとって魔法とは、ただただ使って伸ばすだけのものだ。

「ここは、それを習うための学校だよ」

「そういえばそうだったわね」

魔術の先生はフィリップ側に着いたので、私の中でイメージが悪い。

だが、貴族にはいい顔をするというなら、公爵令嬢エミリアの指導はやってくれるかもしれない。

「でもなあ。私、自分の嫌いな先生に友達のことを任せたくないのよ」

「そういう勘は大事にしたほうがいいね」

アルがそういうのであればそうなんだろう。

「誰か適任を見繕うよ」

見繕うの?アルが?

疑問が顔に出ていたようだ。

「コネ的なものでなんとか」

笑ってふんわりとかわされた。

「ところで、その小鳥の芸を見せてもらえるかな」

「そんなたいしたものじゃないよ」

魔法でハンカチを動かして、子供が喜ぶだけの芸だ。

動きをいかに飛んでいるように見せるかが腕の見せ所で、兄弟の中では私が一番上手い。

「あー。今日のハンカチは青いや」

ハンカチの色が小鳥っぽいほどリアリティが出るのに残念だ。

色でカバー出来ない分だけ、念入りに動かす。

「綺麗だね」

アルが言った。

「他にも飛ばせるの?」

自分のハンカチも取り出す。

2枚ハンカチが出てきて、複数常備している男性ってどうなんだろう、となった。

この世界の男性は紳士とそうでない人の差が激しい。

淑女とそうでない女性の差も激しいが。

「皺になるよ」

「使うのには支障ないだろう」

そのへんはやはり男性か。

ご期待に応えて飛ばしてみる。

ちょっとアクロバティックな動きをさせてみたのは遊びゴコロで。

「素晴らしいね」

エミリアの時も思ったけど、褒め言葉が過剰だ。

「エミリア嬢は目がいいよ」

魔法が細かいという意味だったらしい。

「あんまり気にしたことなかった」

基本、気持ちよくぶっ放すばっかりだったので。

地元では常に実戦だ。

小さい魔物を退治していくだけでレベルが上がった。

毎日毎日ものすごく地道な作業であったが、力任せに叩き潰していただけなのでコントロールとか気にしたこともないのだ。

その話はアルに受けた。

環境が違うだけだと思うけれども。兄たちだって魔法の綺麗さとか気にしたことはないはずだ。

地元では女性でも普通に魔物を倒すのになあ。

「なるほど。淑女としてはびっくりのレベルだけどね」

「普通だよ、普通」

アルは声を立てて笑った。どれだけ乱暴者だと思っているんだろう。いや、乱暴者だけど。

「君は本当に面白いね」

「そうかな。アルの地元だって同じでしょ。知らないならアルが世間知らずなんじゃないの」

「それはそうかも」

アルは素直に頷いた。

地元にいたときは騎士団と行動を共にしていたので、一般の領民のことはよく知らなったのだそうだ。

騎士団がいるところで、女性が魔物に対峙したりはしないだろう。

それに、うちの領のほうが出やすいらしい。

「魔物はどういった基準で姿を現すんだろうね」

アルが独り言のように呟いた。

「辺境は出やすいけど、それにも差があって、理由はハッキリしないんだよね」

「魔物じゃないから考えたこともなかったけど。餌があるのかな?」

「魔物の食べ物ってなんだろう?」

「さあ。魔物じゃないからなあ」

そんなこと考えたこともなかったよ。

目の前に現れたことに対処するだけで。私の人生は常に自転車操業なのだ。

ただ、アルはしょっちゅう魔法の本を読んでいるし、そういうことに興味があるのだろう。

「エミリア嬢の技術の件は考えておくけど、問題は心のほうじゃないのかな」

「心?」

「父親のいう通りに生きてきて、萎縮しているだろう」

「リリーナと友達になりたいのが本心なら、彼女も自由になりたいんじゃないかな」

自由に。

私は全然自由じゃないんだけどもー。

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