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27 2年生秋 悪役令嬢と一緒1

夏休みが終わると、一気に涼しくなった。

前から思っていたことだが、ここは日本よりもかなり寒い国なのだ。

北のほうだと冬は雪に閉ざされたようになるという。

王都はそこまでではないが、魔法実習など外での授業は少しつらいらしい。

ただ、授業の内容自体は格段に面白くなってきている。攻撃魔法の実技が多いから楽しいというのもある。

私は攻撃が得意なのだ。

以前は座学や生活魔法がメインだったから、正直ダルかった。

あと、攻撃魔法は危険ということもあって、いけすかない魔法教師以外にも2人教師が入る。

普段は研究を中心にしている講師がいるのだ。

そして、グループ分けをした時に、私の嫌いな魔法教師は私のグループにはならない。

常にフィリップのグループを見る担当なのだ。

その処世術は逆に見事だ。

私は大人なので、気に食わない奴と常に衝突するより、距離を取る方が賢いと知っている。

向こうも私たちには何もしなくなっているので、まあ、ちょっと休戦状態みたいなものだ。

私は基本、忙しい身の上なので、無駄に争いたくない。

本当に、なんでこんなにスケジュールがキツキツなんだろう。

って、もちろんやることが多いからだ。

そもそもがエリート校なので、授業もどんどん難しくなるし、修めなければならないことも多い。

成績を上げてもフィリップ殿下の気は引けなさそうだし、物理とか高等数学とか免除しては貰えないものだろうか。

私の日本で勉強した数学アドバンテージは、そろそろ尽き欠けている。

ちなみに、最新の、淑女教育は『お茶』である。

これも、あまりやる気がないが。

刺繍はまだソフィア様に見てもらっている。

前にお茶会をしたナタリー達もそうだが、刺繍を趣味にしている貴族女性は多いので、横のつながりが出来る。

友達がいると必要な情報が得られやすいので、格段に生きやすい。

なにより、ソフィア様と話すのはとても楽しい。

おねえさまが出来たみたいだ。

前世では妹がいたが、あれは私の婚約者を寝取った女なので、もう姉でも妹でもない。

そもそも妹なのでおねえさまではない。

おねえさまとは美しく嫋やかで優しい女性の概念であり、ソフィア様ほどそれに合う女性はいない。

これが概念のおねえさまだということは重々承知だ。実際にいたら、そんなに楽しくもないのだろう。

ともあれ、ソフィア様は素敵だ。それに、侍女をしているだけあって、噂にも敏感だし、侍女たちの間に出回る情報も流してくれる。

何かお礼が出来たらいいのだが。

お菓子や小物を貢ごうとしても、公爵家のご令嬢の侍女なので、私より数段いいものを持っている。

エミリアから回ってくるもののほうが、物が良いに決まっている。

そして、時々、私にもお裾分けしてくれるのだ。

さっきも、いい物を貰ったからお裾分けしたいと連絡が来た。


のこのこと誘われていくと、なんかいい焼き菓子の箱が出てきた。

それとは別に、お皿に素敵なフィナンシェが並んでいる。

豪華だな。なんか、お裾分けってレベルではないんですけど。

お茶にしようと誘われたので、お茶の授業の復習が始まるのかとドキドキしたけど、そうでもなかった。

ソフィア様がルビーのように美しい液体を注いでくれる。

その手元もとても美しい。

実は、淑女教育のお茶の練習もソフィア様に見てもらっている。

本当に恩義が重なりっぱなしなのだ。

「リリーナ様にお願いがございまして」

親、さっそく恩義を返す機会がきたのかな。

「私に出来ることなら」

「難しいことではないですが、そうですね、相性はあるかもしれません」

ソフィア様は困ったように微笑んだ。

「エミリア様と仲良くなっていただきたいのです」

はい?

「お茶の時間だと、エミリア様と同じグループになる機会がありますよね」

確かに、授業としてのお茶の時間では、最後に実地の仕上げでグループごとにお茶をいただく。

社交の練習でもあるので、メンバーは都度入れ替え制。

私とエミリア様が同じテーブルに着く機会もある。

そして、何より重要なことは、実習中は、目下の者から公爵令嬢に話しかけてもいいということだ。

仲良くなれば別だが、通常は親しくない目上の人に話しかけるのは不躾とされる。

そこが取っ払えるのは重要だろう。

ただ、やはり授業なので、それなり、だ。

「授業だし、そんなにお話をすることはないですよ」

「リリーナ様は距離の近い方なので、それを機会になんとか」

なんだか、さらっと失礼なことを言われたような。

それにしても。

クリス様とソフィア様にはよくしていただいているけど、エミリア様とは付き合いがない。

この前のガーデンパーティーでちょっとお話ししたくらい。

1年半もずっと同じクラスでそれはどうなの、というレベルである。

まあ身分社会なので。

向こうは向こうで、高位貴族のご令嬢と仲良しだし、私もなんだかんだで同じくらいの家柄のご令嬢と仲良しだ。

「エミリア様はリリーナ様とお近付きになりたいようなのです」

それはとても意外だ。

正直、上位貴族の間での私の評判は悪い。

平民育ちの田舎者。平民と馴れ合っている。成績がいいのを鼻にかけて威張っている。云々。

あまり、エミリア様が付き合って得になる相手でもないだろう。

「エミリア様はエドワード様とお親しいので、お話を聞く機会もございまして」

エドワード経由か。

それならわからなくもない。話が弾まない時に共通の知人の噂話をすることもあるだろう。

いいことか悪いことかはともかくとして。

「あと、わたくしもお勧めしました」

ええ?ソフィア様が。

「今、お付き合いされている方たちは、立場上、どうしても対立いたしますので」

言われて戸惑う。

エミリアは誰と仲良かったっけ。

教室では侯爵令嬢と一緒にいるのをよく見かける気がするが。

「あの方は、王妃の座を争うライバルなので」

「あの人と争っているんですか」

それはまたびっくり。


この世界はいくつかの点でゲームと違う。

一番は同じクラスに攻略対象の魔術師がいなかったことだ。

大幅な戦力ダウンが見込まれるので、どうなっているのかと不安に思うものの答えは出ない。

しかし、世界が違うだけで、人間が生きて生活しているのだから、全くゲームと同じというわけにはいかないのはわかっている。

私もうっかり変えるなと女神様に言われているが、違う選択を取ったこともあるのだろう。

自分でもわかるほど変えたのは、厩番の子供を助けたくらいか。

キャラの違いもいくつかある。

フィリップとエドワードは性格の悪い乱暴者で、エミリアは引っ込み思案のお嬢様。

ただ、最近のエドワードは、身を慎み訓練に勤しんでいるので、どんどんゲームに近くなってきている。

ちなみに、攻略対象の中で、クリス様とトーマスは割とそのまま。

なので、そこまで大きくズレているというほどでもないのだろう。

そういう微細な違いのなかに、フィリップの婚約者が決まっていないことがあった。

でも、エミリアが一番の候補であることに変わりはないし、よく一緒にいるので気にしていなかったが。

まさか、フィリップの婚約者の座を狙う令嬢が他に、それも同じクラスの中にいたなんて。

「適齢期の女性の中で一番ご身分が高いのがエミリア様です」

他の公爵家は女の子がいないか、まだ幼いのだそうだ。

「なので、一歩リードなさっているのですが、いかんせん、ご本人がおっとりとされていて」

ソフィア様によると、学園内だけでなく、他のご令嬢たちもフィリップを狙っていて、

彼を招くお茶会などを催しているらしい。

そして、皆が、エミリアを仮想敵としてライバル視しているようなのだ。

「上手く捌くのも、上の立つものの器量ですし、ご自身はあまり気にされていないようなので、見守っていたのですが」

些細な嫌味とか問題に出来ないような微妙な意地悪をされているらしい。

通じているのかいないのか、エミリアは鷹揚に構えているが、ソフィア様は敏感に感じ取っているようだ。

「まあ、度が過ぎるようなら、本人が何とかするんじゃないですか」

私は曖昧に笑った。

「もうちょっと我の強いところがおありになっても宜しいのではないかと思うのですが」

「それはそうかも」

なんであんな感じなのかなあ。

宰相である公爵やクリス様も気にかけてはいるらしいのだが、2人ともソフィア様ほどは気にしておられないらしい。

「公爵様は、まるでお人形のように真綿に包んでしまっておきたいようにも感じますわ」

ものすごく過保護なんだそうだ。

危険なことはもちろん、それほどではないことも過剰に制限されているようにソフィア様には見えているらしい。

「あれも駄目、これも駄目では、息が詰まっておしまいになるでしょう」

「でも、本人は平気そうなのよね」

「そうなんですの」

普段から、ひっそり読書などをして過ごしているらしい。

らしい、というのは、ソフィア様がいつもついているわけではないかららしく、一番親しい侍女は他にいるのだ。

それこそ、子供のころから姉のように付き従っている侍女が。

身の回りの世話などは彼女がして、ソフィア様は刺繍やメイドへの指示、お父上やクリス様との連絡などを務めているのだそうだ。

その人はエミリアの引っ込み試案を案じて入るものの、この人もエミリアのようにおとなしいタイプだという。

「これでは王妃になる前に足をすくわれたり、気鬱になったりするかもしれません」

その程度には激しい王妃争いなのだそうだ。

ソフィア様が何故、こんなにも熱心かというと、まったく理由のないことでもなくて。

エミリアが王妃になった暁には、おつきの侍女として付いていって、王宮を牛耳るのがソフィア様の野望らしい。

なんだか、さらっと怖いことを聞いてしまった。

「なので、リリーナ様のような、まったく違うタイプとお付き合いされるのもいいかと存じまして」

いや、大胆だな。

父親も兄も本人も望んでいないのに。

それに、私は、どうだろう?

恐らく、貴族令嬢としては破格にやんちゃだよ。

普通に仲良しだと紹介されたら、家人は止める感じの『ご友人』だ。

「それに、実は、これはエミリア様のご意思でもあると思うのです」

まさか。

「夏休みに、ガーデンパーティーにご一緒されたじゃないですか。あれが楽しかったらしくて」

「楽しかったの」

皆がわいわい騒いでいる横で1人なのは寂しいかもしれないと引っ張り出しはしたが、ものすごく緊張していた。

それでも皆と話はしていたし、アンナやトーマスや話をできたクラスメイトの側は喜んでいたので

私の中では雑に成功でくくってあったが。

そうか。エミリアも楽しかったならよかった。

「なので、わたくしが、リリーナ様を推薦しました。付き合うに足る人として」

ううん。

それはありがたいけど。

私はどうだろう。問題はもうひとつあるのだよ。

とびっきり大きいやつが。

なんと、私はエミリアからフィリップ殿下を奪い去る女なのだ。

水面下で王妃争いが行われているとして、私もそこに参加するのだ。来年。颯爽と。

世界を救ったという手土産つきで。

女神から救世主になることを打診された時にに、今度はモテモテになって、他の女から男を奪う人生を過ごすと決めたのだから。

でも。できれば、仲良しの友達からは奪いたくない。

断らなければ。

断らないと駄目だと思ったのに、ソフィア様にお断りができなかった。

ソフィア様は意外と押しが強い。

ちょっと自分で驚いたのですが、まだ半分です。意外と長い。

ちまちま書きためていたので終わるのは終わるのですが。

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