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26 2年生夏 夏休みは社交の季節2

クリス様から解放されて庭に向かうと、もうみんな集まってきていた。

大体は寮にいるメンバーなのだが、こういうところで会うと新鮮だ。

しかも、私は今日はドレスを着て可愛くしているのだ。

褒めろ、おまえら。

残念ながら、男どもは褒めてくれなかった。そんなんじゃモテないよ。

夏らしいさわやかな薄い緑色のドレスを、アンナだけが褒めてくれる。

ありがとう、アンナ。

アンナのオレンジのドレスもとてもかわいいよ。

お互い褒めあう。これが女性同士の社交なのだ。

ひとしきり騒いでから、エドワードを探す。

エドワードは端っこのほうで、1人で庭を眺めていた。

1人だとおとなしいなと思ったところで気が付いた。

今日は高位貴族の生徒が来ていないので、エドワードに親しく声をかける人がいないのだ。

っていうか、なんで来てるの。

自分が場違いだと思わなかったのだろうか。

クリス様に頼まれたからではないけど、1人でぽつんとしていればそれは気になるというものだ。

全くもう。

「なんか飲む?」

とりあえず、飲み物を持っていくという手段に出た。

困ったときのアルコール、と言いたいところだが、クリス様の采配で、ここの飲み物はノンアルだった。

「ありがとう」

ジンジャーエール的なものを受け取る。

「いいドレスを着ている。よく似合う」

は?

なに?

いきなり、なに?

私、今、ドレスを褒められた?

「社交辞令だ」

「ああ、そうですか」

一瞬、どこかおかしくなったかと思ったよ。

「驚いちゃったよ、もう」

あまりに意表をつかれたので面白くなって笑ってしまった。

「父からは、そういうこともできないとモテないと言われている」

「モテたいの?」

それもびっくりだ。

「特にモテたくはない。貴族の婚姻は家柄や損得で決まることが多い。対象外の女にモテても困る」

「ああ、そうですか」

しかし、言っていることはわからなくもない。

家柄が良く、見た目もよく、王立魔法学園に通うエリートだ。

そりゃあ、モテすぎて困ることのほうが多いだろう。

だが、身分が高ければ高いほど選択肢はない。結婚できない女性にモテても先が無いというのは正しい。

変な女に引っ掛けられて意に染まぬ結婚を強いられるのは良くないし、遊んだ女をポイ捨てと言うのは私が許さない。

軽率な行動をしないのはとても大事だ。

本命が出来るまではモテなくていい。

あれ、でも。

私の日本の中年女性の観察眼からしたら、エドワードはエミリアに気があるように思うわけだが。

こんな場違いなところに来ているのも、エミリアの家だからじゃないの。

夏休みにちょっと顔が見たいとか、そういうのじゃないの。

「今日は何で来たの?」

にまにましながら直球で聞いてみた。

しかし、そういう浮ついた話ではなかったようだ。

「クリスに呼ばれた。ものすごく嫌味な伝言付きで」

「ええ?クリス様が嫌味とか言うの」

「殿下が配下の者と上手くやれない時は、仲を取り持つのが良い側近だ、みたいなことを」

ううん。微妙だ。

言わんとすることはわかるし、正しくもあるけども。

「殿下が自分で上手くやれよって話だよね」

「おまえなあ」

「違う?」

「違わないけど。殿下には殿下の考えがあるんだと思う」

あの男に、何の考えがあるというのだ。そんな盲目に従っては駄目じゃないのか。

それとも騎士というのは、そのくらいの信念で主君に従うものなのか。

ちょっと呆れて物も言えないが、今日はクリス様の顔を立てて、こいつとなごやかに話さないといけないのだ。

うちの実家だとちょっと出ないようなごちそうも食べさせてもらった。

奢ってもらったなら、それなりの仕事をしないと。クリス様のご要望に応じて、エドワードと仲良さそうに振舞うことにする。

「そういやさあ、エミリア様、今日は家にいるらしいよ」

とりあえず共通の知り合いの噂話を持ち出す。エドワードは不思議そうに首をひねった。

「なんで、参加しないんだ?」

そうだよね。普通はそう思うよね。

「まあ、あいつは引っ込み思案だからな」

「それで済ませていいものなの」

貴族の仕事は社交じゃないのか。

「まあ、我々だと社交の価値もないってか」

「エミーはそういうやつじゃないよ」

ひがんだ発言は即座に訂正された。

なんだなんだ、クリス様もエドワードも。エミリアには甘いな。

悪役令嬢、大人気じゃないの。ちょっと面白くない。

「仲良しなんだね」

「幼馴染だから」

えー、やっぱり好きなんじゃないの。

「じゃあさあ。様子見に行く?」

「はあ?おまえ、マジで言ってるのかよ」

「いいじゃん、ちょっとくらい」

純粋な好奇心だった。

国内でも有数のお金持ちの公爵令嬢のお部屋を見てみたい。

クラスメイトの家に突撃訪問くらい、許されていいのではないだろうか。

そんなわけはなかった。

公爵家なので。

なんだか、武装した兵士が経ってるんですけど。

と、ちょっとびっくりしたが、その人たちは外部からの侵入を警戒しているようだった。

ガーデンパーティーの参加者は魔法学園の生徒ということで客扱いのようだ。

入口の人には挨拶をした。

「わたくし、ヴェルデガン伯爵家のリリーナと申します。エミリア様にご挨拶を」

にこりと笑うと、私がさっきクリス様と話していたのを見ていた警備兵は、すんなり通してくれた。

エドワードがいたのも大きいかも。

警備兵は騎士学校を出ていたりすることも多く、騎士団ともつながりがあったりする。

騎士団長の息子は有名なはずだ。

中もすいすい入っていけたが、さすがにご令嬢のお部屋なので、ちゃんと最終関門はある。

誰かが来たとしても、侍女が時間を稼ぐのだ。

ただ、最終関門はソフィア様だった。

「まあ、ソフィア様。ごきげんよう」

夏休みの間はお会いできないと思っていたので、純粋に嬉しい。

「ごきげんよう、リリーナ様。お庭ではなかったの?」

「せっかくクリス様にお招きいただいたので、エミリア様にご挨拶だけでもと思いまして」

「まあ、それはきっと喜ばれるわ」

取りつがれて部屋に入ると、エミリアは窓から庭の様子を眺めていたところで、私たちのほうに歩み寄ってくる。

いつも教室で見る通り、上品で控えめに動く。

「リリーナ様にわざわざお立ち寄りいただけるなんて、光栄ですわ」

軽い気持ちで来たんですけど。

「エドもありがとう」

にこにこしている。

さすがご令嬢だけ会って、家でも普通にちゃんとドレスを着ている。このまま外に出られそうだ。

本当に、なんで参加しないんだろう。

「せっかくだから、エミリアも庭に出ない?」

誘ってみた。怒るかな。教室で見るエミリアはおとなしくて怒るイメージがない。

しかし、私はゲームの悪役令嬢であるエミリアを知っている。

実は裏で怖い人であるとか裏設定的なものがあるのなら、今後の展開的に確認しておきたいというのはある。

でも、エミリアは教室で見るエミリアのままだった、

「わたくしが行ってもいいものでしょうか」

不安そうに言う。

意味が分からない。エミリアの家で、エミリアの兄が主催するパーティーなのに。

「え?なんで?来てるのクラスの子が大半だよ。女子もいるし」

エミリアがちょっともじもじした。

「皆様が楽しんでいらっしゃるのに、わたくしが参加するのはどうかと」

「なにそれ」

「わたくしがいると、皆様が気を遣ってしまわれるので」

そこか。確かに、エミリアがいると周囲も緊張してしまうかもしれない。なんだなんだ身分社会だから失礼があってはならない。周囲が黙ってしまったら、エミリアもやりにくいだろう。

「何をお話していいかわからなくなってしまって」

「別に話さなくたっていいじゃない」

確かに話が面白いに越したことはないが、このくらい美少女の公爵令嬢なんて、本来は見れたらラッキーくらいのものなのだ。

いいもん見た、で帰っていただければよろしい。

ああ。いいことを思いついた。

「じゃあ、いいドレスを着ていこうよ。すんごいやつ。そしたら、見ただけで得したってなるから」

「得、とは?」

「素敵なものを見て目を肥やしました、みたいなやつ」

エミリアは戸惑っていたが、ソフィア様にお願いして、ものすごくいいドレスを着つけてもらった。

薄い紫のつややかな生地に、レースがたっぷりとついたやつ。色を合わせたショールと素敵なアクセサリーも用意した。

庭に連れて行くと、本当に空気が変わったので、効果はあったと思う。

男子どもが口を開けてエミリアを見ている。

おまえら、正直だな。

私を見ても同じように感心しろや。

おかしいな。これでも、ヒロインなので、見た目はものすごくかわいいはずなのに。

しかし、この男子どもをエミリアに近づけるのはいかがなものか。

男子と同じように見とれているアンナに目配せをする。

アンナは小走りで寄ってきた。

「まあ、エミリア様。本日はお招きをいただきましてありがとうございます」

きちんと淑女の礼をする。

「素敵なお召し物ですね」

ちゃんとドレスも褒める。

アンナはそういうところ、とてもちゃんとしているのだ。

普段から真面目で控えめなアンナなので、エミリアも安心したようだ。

控えめな女子同士が交流しているとなんだかとても可愛らしい。

エドワードがエミリアを守るように横に立つ。

まさに姫君と騎士。

一応私も責任上、隣で目配りをしながら脇を固める。

それで、結果的に、ぼそぼそ話していたせいで、リリーナとエドワードは確執を経て、逆に関係を深めたのではないかというとんでもない噂が立ったのだけはどうにかして欲しい。

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