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25 2年生夏 夏休みは社交の季節1

もうすぐ夏休みだ。

試験も終わって教室の雰囲気も浮き立っている。

ちなみに、今回も1位だった。最近になって、トーマスに比べて私って全然賢くないのになあと思うようになったが、魔法が得意なので総合で1位になってしまうらしい。

圧倒的に得意なので、手加減はしているのだが。

あんまり目立ちすぎて歴史を変えてしまってゲームと展開が変わってくるのもよくないだろうという配慮の元、あまり浮かないようにはしているが、ついつい出ちゃうんだよねー魔法が。

魔法学園だしね。貴重な能力である魔法を学ぶのが第一義だ。

実家に帰るかどうかは、まだ思案中だ。

何故なら、実家ではレベルアップはできるものの、イベント的なものとは縁遠いということに気付いたからだ。

去年、残って、王都のパトロールに参加したら、攻略対象であるパン屋のユーリに再会した。

それっきりになってしまったが。

しかし、私がちょっと気を付けて、ちょくちょくパンを買いに行くとかしていれば、何らかの展開があったかもしれないと思うのだ。

今更だけど。

ゲームで設定上はあった幼馴染のユーリは出てこなかった。それはよくある前提条件を満たしていなかったと考えられる。

なにかのアイテムをGETしないと次に進めない的なアレだ。

なので、遊びつくした実家より、王都でふらふらしてみようということだ。

できれば、攻略対象と交友を深めたい。

「トーマスは休みはどうしてるの?」

相変わらず隣の席のトーマスに声をかける。

「家の手伝いと剣術の訓練かな」

「剣術?」

「リリーナのおかげで、騎士団から先生が来てくれるようになっただろう」

私とエドワードの決闘の後、騎士団長の計らいで、騎士団から講師が派遣されて来ている。

剣術の先生の補助という形ではあるが、とても人格的に優れた人なのだそうだ。

貴族も平民も分け隔てなく指導してくれるらしい。

「休みも希望者には稽古をつけてくれるって」

貴族でもあまり裕福でなかったり、身分の低い生徒は自費で習うことが無い。

しかし、魔物が出る世界で剣が使えて困ることはない。就職にも有利だ。

トーマスは実家が王都なので、家に帰っても訓練にだけ通ってくるそうだ。

「リリーナも参加する?」

「どうしようかな」

下位貴族の男子生徒たちは私を歓迎しないかもしれない。

そこを割って入って、仲良くなるのもアリではあるんだけど。

「あら、リリーナ様。帰省なさらないなら、どこか遊びにきませんか」

アンナが近づいてきた。

アンナも実家が王都なので、そのまま家に帰るだけらしい。

1年の間に私も随分人気者になったようで、王都に残る友たちから、他にもいろいろとお誘いを受けた。

しかしまさか。

クリス様からお誘いを受けるなんて。

おおう。

正確には私だけじゃなく、私とトーマス、アンナ、その他、王都にいる2年の生徒たちってことなんだけど。

公爵家のお庭でガーデンパーティーをするんですって。

素晴らしくない?

しかし、何故にそんな素敵イベントが。

ゲームではなかったと思ったんだけど、私がまわり損ねているだけかもしれないので、本当のところはわからない。

なんか、生まれて初めての華やかな催し。

前にお茶会を開催した時に、初めてドレスを作ったくらいだ。この手のことには本当に疎い。

でもまあ、今回は平民の生徒も多いし、そんなに気を遣わない集まりらしいので、気楽に行くけど。

と、のんびり構えていたのだが。

当日、早く来いと言われたので、時間前にお屋敷に行ったら、何故かトーマスももう来ていた。

ガーデンパーティーということで、お庭に用意が出来ているっぽかったのに、執務室みたいなところに呼ばれる。

「ねえ、リリーナ。私はこれまで君にいろいろ便宜を図っていると思うんだけど」

「お世話になっております」

私はクリス様に迷惑をかけたいわけではないのだが、アルが躊躇なくクリス様を使うから。

コネも常識もふんだんに持ちあわせていらっしゃるから、頼りになっちゃうのが良くない。

「その借りを返してもらおうと思う」

「私、お金はあまり持ってないです」

へそくりがないわけではないが、王都の生活はなかなかに物入りだ。

しかも、生徒たちは、皆いい家の子供たちなので、お付き合いも大変なのだ。

貧乏だからと謙遜するアンナやハンスの家だって、日々のおやつや消耗品に困るようなことはない。

「君からお金なんか取らないよ」

国内でも有数の富裕層、公爵家のクリス様はおっしゃった。

「頼みたいのはエドワードのことだ」

「ええ?」

エドワードとは春頃に決闘をしてから、特に関わることもなく距離を置いた付き合いをしている。

一応の和解にはこぎつけたが、だからと言って立場が変わるわけでもない。

向こうはフィリップ殿下の取り巻きで、こっちは、まあ、クラスの中では身分の低いほうで固まっている。

「はっきり言って、今の2年は身分差で対立している。私はそれは良くないと思っている」

クリス様は生徒会長として、今の状況を憂いているのだそうだ。

私は特に憂えていない。

人間が50人いて、みんな仲良しなんてあり得ないし、魔法学園は学業を修めるほうが優先なのだ。

それぞれがそれぞれ学業に邁進すればいいではないか。

その考えは顔に出ていたらしい。

「フィリップ殿下の学年が一致団結していないというのは、あまり外聞が良くない」

「それは無理です」

クリス様が考えるのが、統治者のフィリップと、それを支える私たちという構図なら、まずフィリップが統治者に足るところを見せてくれないと。

尊敬もできないリーダーにはついていけないよ。

もっとも、それは私が現代日本的な考えに捕らわれているだけで、この世界なら、王様がいたら、無条件で従わないといけないものなのかもしれないけど。

でも、私は異議を唱える。

「今回は、そこまで要求してない。殿下たちも呼んでいないしね」

そういえばそうだ。

殿下や高位貴族のご子息たちは、夏休みを領地や避暑地でのんびりと過ごす。

王都に残っているのは、そうでもないクラスの生徒たちだ。

「クラスの主流は貴族の男子生徒だ。そこまで殿下に近くもないけど、平民でもない」

「そういう生徒たちは、殿下たちと君たちに挟まれて、気を揉んでいる」

「気にしなきゃいいんじゃないですか」

そんな些末なこと。

「誰しもが、君と同じではないんだよ」

「なので、君たちには今日のこの席で、エドワードと親しくしている姿を、一般の生徒たちに見せてほしい」

そんなことを堂々と言わないでほしい。

「無理のあるアピールはバレるんじゃないでしょうか」

トーマスが言うのももっともだ。

「形が整えばいいんだよ」

クリス様は身も蓋もないことを言った。

「君たちが、貴族社会に歯向かうつもりじゃない、彼らとも上手くやっていけるということが示せれば」

それは遺憾だ。

思ってもいなかったことを言われた衝撃に呆然とする。

「私はことを荒立てようと思ったことはありませんが」

それはもう一回も。なんというか、そのう、意見が通らないから、ちょこっと強硬手段を使っただけで。

「殿下やエドワードとだって、上手くやっていきたいと思っていますよ」

なんたって攻略対象なのだから。

上手に育てて、いざという時は戦ってもらわねばならぬ。

ただ。

「私じゃなくて、向こうに上手くやる気がないんです」

自分たちで固まってお高く留まっている彼らに、クラスメイトと親しもうという気がない。

それが、下位の者からは声をかけるのも失礼みたいな、貴族社会のしきたりによるものだとしたら、そこには十分異論がある。

だって、そこを取っ払って、学問について論じあおうというのが魔法学園の意義ではないか。

「それだよ」

地を這うような声でクリス様が言った。

「なんで、殿下やエドワードが君に合わせないといけないんだ」

「合わせてもらう必要は無いですよ?」

私たちが何かを過分に要求したわけではない。

勉強に来ていて、それを阻害されるのはおかしいと思うだけだ。

「ここは神聖なる学び舎です。それにふさわしい振る舞いをしていただければいいだけです」

彼らには彼らの流儀と言うものがあるだろう。だが、娯楽として弱い者いじめをしたりするのはいかがなものか。

クリス様は経緯を聞いているだろうに。

「僕は貴族の皆様を敬っていますけど」

トーマスが割って入った。

「でも、それは、先端の知識を学んで領地経営を行い、魔法や剣で、魔物から我々の安全を守ってくれるからです。

 命を賭して人を守る姿勢と行動に敬意を表しているわけです」

素晴らしいですよね、と笑んだ。

つまりは。

素晴らしくない人は敬意に値しない。

その含みはクリス様にも十分伝わったようだった。

「君たちは手厳しい。これから。これから敬意を持たれる人に成長するんだよ」

「成長かあ」

「まだ子供じゃないか」

と、18歳のクリス様に言われてもな。

それに、この世界では15歳を過ぎたら普通に働いている社会人も多くて、ほぼ大人扱いなんだよ。

「子供を育てるのは同級生の仕事ではないですよね」

まあ、育てる気がないでもないけど。

『ホシミチ』は乙女ゲームではなくRPGだったところで、育成ゲームでもあったのか。

しかし、すべてのゲームはレベルアップしていくということで育成ゲーム的な側面もあるものだ。

いざとなれば、なんとかするよ、私は。

もっとも、それは本日の本旨ではないらしい。

「とりあえず、今日のところはエドワードと仲良さそうに振る舞ってくれるだけでいいから」

「りょおかいでーす」

やる気のなさそうな返事をする。

ここで、トーマスが大事なことに気がついた。

「もちろん、エドワードも合わせてくれるんですよね?」

小芝居に、ということだが。

クリス様は気まずげに目をそらした。

「僕らが親しげに話しかけたとして、エドワードの態度が悪ければ、逆効果ですよ」

無視したのしないのと、揉める元をつくるようなものだ。

だが、クリス様は困り顔を崩さない。

「エドワードとは親しくないんだよ」

「そうなのですか?家格からして、お付き合いがあると思いますのに」

現にエミリアは仲良くしている。

「派閥が違うんだよ。迂闊に仲良く出来ない。けど、没交渉にもできないので、エミリアをつけている」

「は?エミリア様がそんなことを?」

学校でのエミリアは、物静かでおとなしい。引っ込み思案と言ってもいい。

まさか、派閥争いの調整など出来そうもないのに。

「顔を立てるけど、実効性はないというやつですか」

なるほど。エミリアが何かしたとしても、あの調子のお嬢様だから、問題になりにくいということか。

それにしたって。

「じゃあ、エミリア様を介してお話すればいいですかね」

「エミーは今日は参加しない」

それは残念。

「お留守ですか」

避暑にでも行っているのかと思ったら、家にはいるようで、クリス様が首を振る。

「あの子はこういう席には出ないんだよ。不特定多数の集まる場というか」

「同級生じゃないですか」

半分は1組のクラスメイトだよ。

「おとなしい子なんだよ」

それはどうなの。

「君たちはしっかりしているから、甘やかしていると思うんだろうね」

思いますとも。言わないけど。

ここから母を亡くしたエミリアとの思い出とか始まっても嫌だからもういいけどさあ。


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