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24/70

24 2年生春 春はトラブルの季節4

翌日、学校に行ったら、普段通りで逆にびっくりした。

学校側もフィリップ達も『ちょっとした手合わせ』として、騒ぐことではないということにしたらしかった。

学友同士で模擬戦をして、エドワードが勝手に負けたということだ。

フィリップが「あいつが弱いのが悪い。他のやつを出せばよかった」と言ったという話を聞いた。

だったらおまえが出てくればよかっただろうと思ったが、それを口に出さないくらいの見識は身に着けている。

他の平民組は私よりもはるかに処世術に長けているので、なにかあった?知らないけど、のスタンスだ。

エドワードだけが欠席していた。

転がしたけど怪我はさせてないと思ったのだが、精神的なショックなのかもしれない。

しかし、翌日も、その次の日も、エドワードは学校に出てこなかった。

トーマスに訊くと、エドワードは寮にもいなくて、騎士団長に連れられて屋敷のほうに帰ったらしい。

「あんまり休むと、かえって出てきにくくなるんだけどなあ」

「辞めるかもな」

トーマスはさらりと言った。

「ええっ、それはちょっと」

ちょっとというか、ものすごく気が咎める。

「気にすることはないよ」

実際に襲われたトーマスは厳しかった。

「だって、あいつ、どうせ将来は騎士団に入るんだろう。ここを卒業しなくても騎士学校に行けばいい」

貴族でも、魔力が少なかったり、最初から騎士になることが決まっているような次男三男はそうすることもある。

そのくらいここは限られたエリート校だから。

エドワードは跡継ぎの嫡男だから人脈作りの為にも学園に来ていたが、ここでなくても構わないのだ。

そして、ここよりもエリートの少ない騎士学校だと、騎士団長の息子ということで丁重に扱われて、騎士団にも優先で入ることが出来る。

平民からしたら、『恵まれた奴』ということだ。

しかしまあ、私は彼を産めたかもという年齢の前世があるので、青少年の未来を閉ざすのはとても駄目だ。

転校して騎士になって幸せになるかもしれないが、それまでモヤモヤして過ごすのもとても嫌だ。

っていうか、攻略対象がそんなことになったら、ラスボスに勝てないかもしれないんですけど。

翌日、学校に行ったら、普段通りで逆にびっくりした。


しょうがないので、アルに怒られに行くことにした。

図書館で騒ぎになるのは避けたいので、こっそり音楽室に呼び出す。

この間の試合の後、ずっと避けていたし、向こうも近づいてこなかった。

怒られたくなくて避けてたけど、それも、時間がたつと気まずさが増す。

大人だから、パパっと頭を下げるほうが結局は楽なのだとわかっている。

呼び出したのは私だったが、アルは先に来ていた。

ソファに座って、優雅に本を読んでいる。

「ごきげんよう」

声をかけたが無視された。

大人げないが、アルだってまだ18歳だ。私の基準では、さほど大人ではない。

「心配かけてごめんなさい」

ぺこりっと頭を下げる。

「心配はしてない」

「ええ?」

それはちょっと冷たくないかしら。か弱い女の子が騎士団長の息子とやりあっていたのに。

「見てすぐ、技量に差があるとわかったからね」

そうですか。

「でも、君は嘘をついたよね。ああ、嘘ではないのかな。自分が出ると言わなかったし、あんなに剣が使えるとも言わなかっただけで」

なんだか空気がとても冷えてるよ。

「ごめんなさい」

こういう時に言い訳せずにただただ謝るほうがいいのかディベートしたほうがいいのかは相手によるだろう。

残念ながら、アルに怒られるのは初めてなので、どっちのタイプかはわからないが。

しかし、私は結構粘り強いのだ。

今日は特に、最初から長期戦の我慢比べをするつもり出来ている。

黙ったままアルの反応を伺う。

アルは珍しく不機嫌を露わにして本のページをめくった。

そのめくり方で、読んでないのはわかった。

そして、人生のキャリアの差で我慢比べに勝利した。

というか、アルが早々に諦めた。決断が早いのと比例しているのか諦めも早い。

「君は…。まったく、かなわないよ」

ため息とともに場の空気が緩む。

いつもすみません。

「まあ、今回は気づかなかった自分にもちょっと腹が立っている」

アルは私の手を取った。

「剣を使うこと自体はわかってたんだ。君も、剣を使う人の手だから。でも、まさかエドワードに戦わせないほど強いとは思ってなかった」

へへへ。こう見えても強いんですよ、私。

「それで何?要件があるんだよね?」

「そうなのよ。ちょっと相談があって」

何故わかったの?

「ただ謝りにだけ来るはずがないからね」

それはどうなの。

アルの中の私のイメージどうなってるの。もしかして、図々しい子なのかしら。否定できないけど。

だって、何事もダメ元、言ったもん勝ちだ。

「エドワードが屋敷に帰っちゃって、学校に出てこないんだよね」

「君のせいでね」

「そうなのよ」

さすがに心が痛むというか。

前の人生をカウントしたら、余裕で産めるくらいの子供を相手に、なんと大人げなかったのかと反省もする。

しかし、今の私は同い年なので、エドワードと同じくらい大人げないのだ。

「こんなことで、学校辞めちゃうとか、駄目じゃん、と思って」

「辞めないと思うけど。騎士団長は逃げたままというのはさせないだろう」

「でもさ、親が怒ったから出てきました、は、違うかなと思って」

「じゃあ、どうするんだ」

「そこよ!」

私は意気揚々と切り出した。

「クリス様に頼んでほしいのよ。エミリア様に、お見舞いに行ってもらうように」

「クリスの妹か?なんで」

「エドワードは彼女に気があると思うの!」

フィリップは微妙な取り巻きを引き連れているが、エドワードとエミリアと3人のところもよく見かける。

そして、フィリップはエミリアに対する態度がちょっと悪く、エドワードは微妙にかばっている。

あれは甘酸っぱい三角関係的なものではないかしら。

「好意を持ってる女性に慰められてたらヤル気も出るというものではないかしら」

「君は男の気持ちを理解していない。僕がエドワードで、そんなことされたら恥ずかしくて死んでるところだ」

「えー」

「本当にエミリア嬢のことが好きなら絶対だめだ。君が行ったほうがまだマシだ」

確かに。私はヒロインだし、これがきっかけで恋が芽生えたり…するかな?無理かな?

「君が行って謝れば」

「え?私が謝るの?」

それは意外なことを言われた。

「なんで謝るの?」

トーマス達を虐めてたのに。しかも直前、トーマスを闇討ちしたのに。

「やりすぎだろう、どう見ても」

そうかな。そうかもしれません。

「でもさー、幼馴染の公爵令嬢ならともかく、私じゃ侯爵家の門もくぐれないよ」

門番に止められること請け合いだ。

「そこは協力しよう」

どうやって、と思ったけど、翌日には侯爵家からの招待状が届いた。

私的な食事会に是非お越しください的なやつ。

アルってちょっと怖い。

ちなみに、招待状はトーマスと私宛だった。

トーマスは難色を示したが、私が行くと言ったらついてきてくれることにしたようだ。

「それで、リリーナは謝るのかい?」

「どうかなあ。実はあんまり悪いとも思ってないんだよね」

日本だったらもうちょっと重大に感じたかもしれないけど、ここは現代日本より厳しい世界だ。

弱いものはあっさり淘汰されてしまう。

謝るかどうかは、会ってみてから決めることにした。

反省の欠片もないやつに下げる頭はないし。

でも、行ってみたらエドワードはいなかった。

貴族の食事会には成人していない子供は参加できないので、エドワードの弟妹も当然いなかった。

お父様とお母様と私とトーマスで何を話せというのだ。

しかし、思ったより話は弾んだ。

お父様が気を遣ってくれていたのはもちろんだけど、トーマスはとても如才ない。

学校の教育体制の問題について話し合っていた。

要するに、剣術教師の差別問題とか。

それで、騎士団長が先にクロード兄から事情を聴いて、大体の状況を把握したのちに我々を呼んだのだとわかった。

さすが騎士団長。

由々しき問題ととらえ、騎士団から指導員を派遣する案を出してきた。

騎士団から申し出ることで、学校の自治に抵触するか、とか、そういう段階に至っている。

「盛り上がっているわねえ」

お母様がおっとりとおっしゃった。

「せっかくだからリリーナさんは我が家の庭を見ていただきたいわ。秋の花がちょうど見頃なの」

よくわからないまま外に出されたが、これはエドワードを探せということなのか。

未婚の淑女に男を探しに行けとはどういうことだ。

エドワードは庭で水やりをしていた。

仕事自体は庭師がいるんだから、これもお母様の采配だろう。

エドワードは私に気が付くと、びくっとして持っていたホースを取り落とした。

「おまえ、何しに来たんだよ」

「負け犬の情けないとこ見物に来た」

「おまえ、意地が悪いな」

「自分で性格がいいとか思ったことないし、言ったこともない」

悪いとも思わないけど。普通だよ、普通。

しかし、この世界で現代日本の普通の女性は、男を立てることもしない性格の悪い女なのであろうということは推測が付いた。

知らんがな、そんなの。

「女に負けるなんて思わなかった」

エドワードがしょんぼりと座り込む。

そうしていると、まだ16歳の子供で、ちょっと可愛いと思わなくもないが、こちらも16歳なのでそこはなんとも。

「そりゃあ、いい体験ができてよかったね」

言いながらも隣に座ってやった。

かなりの妥協だ。

「そもそも、身長と腕の長さが違うのに負けるほうがどうかしてるよ」

剣を習ったことのない平民ならともかく。

騎士団長の息子に生まれて、小さい時から剣を振るってきただろうに。

ゲームのエドワードはもっと強かった気がする。

最初は確かに弱かったんだけど、コツコツと練習していたはずだ。

なんか思い出すとムカついてきた。

ゲームでも、ヒロインが励まして、やる気を出させてあげてたけど、そんな至れり尽くせりじゃないと練習しないんだったら止めてしまえ。

こっちだって、世界を救うためにものすごく頑張ってるのに。

おまえらが教室でやってるようなゲームとかしてる暇ないんだからね。

「女なんかに負けて、みっともなくて学校行けない」

「行かなきゃいいじゃん。騎士学校でも行きなおして騎士団に入ればいい。コネと金のあるぼっちゃんはいいね」

クラスで言われていたことをそのまま言ってやった。

泣きそうな顔をしているけど、知ったことか。

もしここで、エドワードが学校を辞めちゃったとして。

戦力が無くなるのは痛いけど。

でも、甘えた坊ちゃんの機嫌を取るより自分で頑張った方がよっぽどマシ。

「あのさあ。テリーが怪我させたロブはね、怪我して後遺症とか残ったら、もう本当に未来が閉ざされちゃうんだよね」

ぐったりした身体を思い出す。

ここでは割と簡単に人は死ぬ。

お貴族様は平民なんか人間だと思っていないのかもしれないけど。

私はそうじゃないし。

それに、私が救世主なら。私が救う世界ではそういうことは許さないのだ。

「身体で動かないとこが出たりしたら、仕事の選択肢も減っちゃう」

いい仕事に就くのはもちろん、底辺の労働者だったら尚更、力仕事が出来なかったらどうにもならない。

「でも侯爵家の坊ちゃんはなんとでもなるじゃない」

王立の最高峰のエリート校にいられなくても。騎士家系で騎士になれなくても。家の跡取りになれなくても。

どんどん下に落ちていっても、それでも、最後は親戚に養われることが出来る。

ロブよりはるかに恵まれているのだ。

しかも、まだその段階まで行ってない。

「ちょこーっとプライドが傷ついたくらいで何を言ってるんだか」

「ちょっとじゃない」

顔を真っ赤にして怒鳴る。

「ええ?ちょっとじゃなく、ものすごく傷ついたって?」

それはそれで面白い。

「なんで傷ついたの?負けたから?」

でも、剣を交えて、エドワードにはわかったはずだ。

私がきちんと修練を積んだ剣の使い手だということを。

そりゃあチートな世界の救世主だから、上達は早いけど、何もせずに上手くなったわけじゃない。

毎日毎日剣を振るった。今でも練習は欠かさない。

だったら、負けたのはエドワードの努力不足だ。

それに、もし、相手が私の兄だったなら、負けて悔しくは思っても、傷ついたりはしなかっただろう。

弱いと侮っていた女に負けたからなのだ。

自分でもそれに気が付いたのか、何か言いかけたのを止めて無言で項垂れる。

それっきりうんともすんとも言いやしない。

全く甘やかされた坊ちゃんは。今日、何回目かの感想を抱く。

「まあ、どうでもいいけどさ。学校はおいでよ」

謝る気はなかったので、それだけ言った。

「一回、試合に負けたくらいで辞めるとか馬鹿馬鹿しいよ。みんなすぐ忘れるって」

人の噂も75日という日本語の諺は、英語圏だと9日なのだという。

それを知った時に、随分短いなと思ったものだったが。

この世界だと、どのくらいかな。もっと短いかもしれない。

「殿下の不興を買ったかもしれない」

エドワードが呟くように言った。

フィリップか。まあ、それはそうかもしれない。

心の狭そうな男だから。

「気にすることないよ。殿下が戦っても良かったのを、あんたに任せたんだから」

それが任命責任というものだ。

「それに、殿下が出てきても、私が勝ったと思うんだよね」

フィリップが出てきたとしても。同じようにけちょんけちょんにしてやったのに。

「そうだな。俺もそう思う」

フィリップがやられるところを想像したのか、エドワードもちょっと笑った。


翌日、学校に行ったらエドワードが自分の席に座っていた。

大人しく教科書を開いている。

フィリップと仲間たちは、エドワードが来ていることには突っ込まずに、

いつもどうり楽し気に騒いでいたけど、エドワードを気にしているのは一目瞭然だった。

これで意地悪するようであれば止めようかなと思うのだが、そこまでの緊迫した空気でもなさそうで。

エドワードは私に気づくと、つかつかと寄ってきた。

トーマスが警戒するように立ち上がる。

他のクラスメイト達もそれぞれ見守っているのが空気でわかった。

しかし、エドワードは私の前まで来るとすっと片膝をついた。

そのまま頭を下げる。

おおう。

「御手を取らせていただけますか」

えええ。

そのまま手をとられて、手の甲に口づけられたよ。

おおう。

さすがに。

リリーナ・ヴェルデガン16歳。

ものすごく動揺しています!!

これはお仕えする偉い人に対する騎士の忠誠の礼。

本来は我が身を賭してお守りします的な意味合いだけど、若者の間で男性から女性に対して行われる場合は恋愛的な感じに行われる作法というか。

って言うか、私は見たよ。ゲームのスチルで。

いきなりイベントっぽいものキター!!でいいのか。

頭をさげられたままで、どうしていいかわからない。

喧嘩なら買うけど、いきなり下手に出られてもさあ。どうしていいかわからなじゃない。

「殿下は、俺が負けたのは俺のせいだから殿下には関係ないと言っている」

エドワードが言った。

相変わらず無責任でずうずうしいな、フィリップめ。

「俺にはそれをどうすることもできない」

エドワードはしょぼんと頭を下げた。

「なので、俺個人として謝罪の意を示したいと思う。リリーナにも、他の皆にも」

そんなことを言われたって。

悲し気に伏せた目のまつげが長かった。

そんなことに現実逃避してしまうくらい固まっていた。

「俺を斬ったのはテリーだ。君じゃない」

後ろからロブが出てきた。

「しかし、皆を巻き込んで騒がせてしまったのはあるから、謝罪は謹んで受けよう」

「じゃあ、これで手打ちだね」

トーマスがまとめて。

とりあえず、このゴタゴタは片付いたのであった。


クラスメイト多いです。

平民組をまとめてみました。


リーダー トーマス(攻略対象)

副リーダー ハンス(トーマスの仲良し)

被害者 ロブ

にぎやかしのモブ ビリー


思いのほか登場人物が多いので、次回、登場人物をいれます。

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