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23 2年生春 春はトラブルの季節3

アルは、後で揉めないようにする方法として、魔法で約定書を交わすことを教えてくれた。

なんだかんだ面倒見がいい。

お役所の公式文書では、魔法で改変できないような書類をつくるのだそうだ。

あくまで、生徒同士の交流試合であって、それで学校の処分とかを訴え出ないことや

後々遺恨を残さないことなんかを盛り込むことにした。

敵側は勝つ気でいるから、かなり細かく決めても平気だろう。

それと、クリス様にお話ししてくれることも約束してくれた。

生徒会長なので、生徒の自治ということで押し切れば、教師たちの介入を防ぐことも可能だと。

それをアルが約束しちゃうのもどうかと思うけど。

いつもいつも引っ張り出してすみませんクリス様、という気持ち。

兄を利用して騎士団長のスケジュールも確認した。

抜き打ちの査察というのは学校側に対しての話であって、騎士団の中では当然きちんと周知されている。

こういう時に、理由を聞かないのが兄のいいところだ。


当日はものすごい晴天だった。

私の心のようだ。

いくぜ!

私の意欲をそぐように、教室にハンスが飛びこんできた。

「大変だ。トーマスが襲われた」

なんだって!

慌てて保健室に行くと、またまた保険医はいなかった。あいつマジでコロす。

トーマスは落ち着いていて、足に湿布を貼っていた。

階段を下りているところで、急に顔に覆面をして棒を持った2人組に殴りかかられたらしい。

何、その古典的なスタイル。

近くにロブとハンスがいたので、そのまま逃げて行ったという。

足を狙われたようで、さほど重傷ではない。

トーマスが対戦相手だと思って、試合前に痛めておこうというつもりだったのだろう。

「卑怯だなあ」

さくっと魔法で治すけどね。もう、平民組にはバレバレだけど、一応、包帯は巻いておいてもらう。

「なんかもう、切れそうだよね」

「そんな、イライラしないで」

トーマスに釘を刺される。

何だろう、逆じゃん。トーマスが平然としてるから、私がイライラしちゃうんじゃん。

「リリーナが仇をとってくれるから平気だよ」

「そうだけどさあ」

会場に指定した運動場についたらますますムカついた。

剣術の教師と魔法の教師がいた。


運動場はサッカー場みたいな長方形で左右に陣営がある。

剣術なんかの模擬試合で左右にチーム分けをすることがあるからだ。

左側にフィリップの取り巻きの上位貴族10人程度がなんか豪華な敷物を敷いて座っている。

そこから下位貴族たちがゆるゆると中央の観客席にばらけている。

先生方はがっつり王子側だ。

「先生方がなぜいらしているのですか」

トーマスがわざとらしく首をひねる。

「見届け人がいるだろう。おまえらが卑怯な真似をしないように」

どっちが。

卑怯なのはそっちだろう。

「魔法で約定書を交わしたではありませんか。それで卑怯な真似をするわけがない」

「どうだか。平民には騎士道精神などないだろう」

フィリップは失礼なことを言う。おまえらのほうがよっぽどないだろう。

「それで?代表はトーマスか」

「それが、さっき、暴漢に襲われてしまってね」

包帯を巻いた右足を軽く上げる。

「代表は、リリーナだ」

ハンス達が道を空けてくれて、ずずいと前に進み出る。

スカートの制服のままだが、下にズボンをはいている。

騎士団長が見たときに、遠目でもすぐに女性とわかるようにとの配慮をしてみた。


「女じゃないか」

フィリップが言う。

「剣など使えるのか」

「私は実家が魔物の出やすい田舎なので、剣も多少は嗜んでおります」

「だからと言って」

「条件は『この学園の生徒』ですよね?」

平民の男性でという指定はなかったはずだ。

「女とは戦えないということでしたら、そちらの不戦敗でもよろしいですよ」

にこやかに笑って煽る。

正直言うと、ここで止められたら困るよ。

クリス様だって待機してくれてるし、騎士団長もそろそろ案内されてくるはずだ。

ちなみに、案内役が視察の運動場を間違えて、連れてくることになっている。

本当は道を迂回させて誘導しようとしていたのだけれど、不確実だということで、案内役の3年生を懐柔した。

剣術に長けていて騎士団にも知り合いの多いその3年生は、「エドワードが鍛錬しているところを騎士団長に見てほしい」という、友情に厚いクラスメイトのお願いを快く聞いてくれた。

気のいい彼にだけはちょっとだけ謝りたい。

目立たないように、くるぶしが二回叩かれた。

騎士団長御一行様を見張っている生徒から連絡が入ったようだ。


「引き下がるならどうぞ」

嫌な感じに笑って煽る。坊ちゃん方にはそういう耐性はついてない。

「まさか。負けたらおまえも一緒に土下座するんだな」

フィリップが威嚇するように大声を出した。

あろうことか、フィリップ殿下側の要求は平民組の土下座だった。

私はムカついたが、他の男子はそうでもなかったようだった。

それでこの上ない屈辱を与えたと思っているなんて、のんきなものだとトーマスは笑っていた。

もっと不条理なことはいくらでもあるというのに、と。

タダで頭を下げるだけなら楽なものだ、というのは実利を重んじる商人ならではか。

こちら側からは保険医の更迭を要求した。

学校の人事なんて生徒がどうこうできることでもないのだが、王子の威光で何とかしろと言ったらOKが出た。

負けるわけがないとたかをくくっていたからだろう。

保険医という重要な仕事を信頼のおけない人にしてほしくないのが一番だったが、学校側にかけあって駄目だったとして、王子の威光が効かなかった場合を見るのも面白いじゃないかというのは、トーマスの意見だ。

「はじめましょうか」

剣を抜く。

エドワードも無言で剣を抜いた。

「エド、お嬢さんが怪我しないように転がしてやれよ」

下品な野次はフィリップだったか。まったく、もう。


最初は様子見で軽く打ち合う。

打ち込みが浅い。本当に腕前はイマイチだな。

エドワードよ。おまえは本当に騎士団長の嫡男なのか。

その前に、世界の救世主であるリリーナを護る騎士なのか。

ゲームと展開違いすぎだ。

適当にあしらいながら周囲のチェックをすると、歩いてくる騎士団長御一行様が見えた。

あきらかにそれとわかるひときわご立派な衣服の男性の横に何故かアルがいて、後ろに何故かクロード兄がいた。

なんで兄まで。

しかし、こちらが目視でわかるのだから、向こうにも見えてるな。

そろそろ決着をつけてもいいか。

打ち込ませてから、軽く身体をひねって、勢いでエドワードを転ばせた。

エドワードは片膝をついて起き上がったが、足をついたせいで、頭に血が上ったようだ。

無駄に大きくふりかぶってくる。

あーあー。

雑な打ち込みだな。

タイミングを計って打ち込んで、もう一度、今度は尻から転ばせてやる。

それにしても。

騎士団長は止める気がないのだろうか。

ちょっと私が優勢のまま、止めてもらってもいいかと思っていた。

仲間のためにも負けるわけにはいかないので、勝つことは必須なんだけど。

完膚なきまでにやっつけてしまうと、それはそれで面倒な気がするので。

偉い人のメンツは潰し過ぎてもよくないのだ。

どうしようかなあ。

エドワードは気づいていないようだが、フィリップ達は騎士団長に気づいたようだ。

近づいて何か話している。

なんか、面倒そうだから、決着をつけてしまうか。

そう思った瞬間、魔法が放たれた。

魔術の教師が私に向けて攻撃魔法を放ったのだ。

なんてこったい。

か弱い女性に向けて魔法を使うなんて。

いや、私はちっともか弱くないんだけど、それはまた別の話というか。

剣での打ち合いという試合の途中で、魔法で片方を援護するというのが問題なわけで。

とことん、卑怯な奴ら。

もちろんカウンターで返させてもらう。私は元来、魔法のほうが得意なのだ。

自らの魔法が戻っていくように。

ただそれだけを念じたのに、魔術の教師はぐいっと吹っ飛ばされた。魔法の残像が宙に舞う。

どんな威力のものをぶつけてきたのだ。

エドワードは魔法に気がつかなかったのか、必死に斬りかかってきた。

本当に嫌な気分になってしまったので、エドワードの剣を跳ね飛ばして、返す刀の柄で思いっきり殴りつけた。

ピッタリ合ったタイミングで、エドワードの身体が大きく吹っ飛んで顔から地面に突っ込んだ。

そのまま首にピタリと刃を当てる。

「そこまで」

ざわついた周囲を威圧するような声が響いた。

「そのへんで勘弁してもらえるかな。私の息子なのでね」

わざとひょうきんな声音を出している。騎士団長は重くていい感じのバリトンなのだな。

「おっしゃるまでもなく、もう終わりましたよ」

剣を仕舞って、まっすぐに目を見返した。

エドワードに似た赤毛に白いものが混じっている。

身長は高く、身体に厚みがある。

隙のない立ち方は、たたき上げの兵士に通じるものがあった。

これがエドワードの父親か。

早く止めろ。馬鹿。と、思ったけど、そのまま軽く一礼する。

「殿下。約束は守っていただきますよ」

フィリップに向きなおる。

呆然としていたようだ。

何か言いかけて、そのまま押し黙る。

教師たちのほうをちらりと見たら、2人とも目をそらした。

彼らにかける言葉はなかった。

深呼吸。深呼吸。

私がイライラしていたらよくない。

前世と合わせたら騎士団長より年上の自制心を発揮するべき時だ。

「帰ろうか。お腹すいちゃったよ」

さっき騎士団長がやったみたいに。なるべく軽く。

トーマス達に声かける。

息を止めて見守っていたクラスメイト達が、ほっと緩んだ。

「どっか繰り出したい気分だな」

ハンスが軽口をたたく。

この世界では飲酒に対して制限がない。平民だと我々くらいの年齢でも酒場に繰り出したりするのだ。

もちろん学園のエリートは卒業するまで自粛だが、内緒で飲んだりはあるようだ。

「淑女だから参加しませえん」

私が言うと皆がどっと沸いた。

大した仕事はしてないが。なんかとても疲れたよ。

帰って寝よう。

と、思ったのになあ。

「リリーナ」

後ろから呼び止められた。

お兄様だね。

「あら。お兄様。ごきげんよう」

とてもとても猫を被った淑女モードで振り返る。今更過ぎるが。精一杯だ。

「いらしていたのね。教えてくださればよかったのに」

トーマス達に先に行くように合図を出す。

お説教かな?

まだ一仕事あるようだ。

騎士団長の視察と聞いていたし、予定も調べてもらったけど、クロード兄本人が来るとは聞いてなかったよ。

お兄様は怖い顔をしていた。

アルも、とても怖い顔をしていた。

にこやかなのは騎士団長だけだ。

「わが小隊長の妹御だったのだな」

妹御。そんないいものじゃありませんが。

「素晴らしい腕前だね。今度、我が家に招待するからゆっくりお話を聞きたく思う」

「光栄でございます」

招かないでください。なんかすごく怖いから。

兄は何か言いたそうにしていたが、騎士団長がいれば、何も言えないようだ。なので、そそくさと逃げたよ。後は知らない。


翌日、学校に行ったら、普段通りで逆にびっくりした。

学校側もフィリップ達も『ちょっとした手合わせ』として、騒ぐことではないということにしたらしかった。

学友同士で模擬戦をして、エドワードが勝手に負けたということだ。

フィリップが「あいつが弱いのが悪い。他のやつを出せばよかった」と言ったという話を聞いた。

だったらおまえが出てくればよかっただろうと思ったが、それを口に出さないくらいの見識は身に着けている。

他の平民組は私よりもはるかに処世術に長けているので、なにかあった?知らないけど、のスタンスだ。

エドワードだけが欠席していた。

転がしたけど怪我はさせてないと思ったのだが、精神的なショックなのかもしれない。

しかし、翌日も、その次の日も、エドワードは学校に出てこなかった。

トーマスに訊くと、エドワードは寮にもいなくて、騎士団長に連れられて屋敷のほうに帰ったらしい。

「あんまり休むと、かえって出てきにくくなるんだけどなあ」

「辞めるかもな」

トーマスはさらりと言った。

「ええっ、それはちょっと」

ちょっとというか、ものすごく気が咎める。

「気にすることはないよ」

実際に襲われたトーマスは厳しかった。

「だって、あいつ、どうせ将来は騎士団に入るんだろう。ここを卒業しなくても騎士学校に行けばいい」

貴族でも、魔力が少なかったり、最初から騎士になることが決まっているような次男三男はそうすることもある。

そのくらいここは限られたエリート校だから。

エドワードは跡継ぎの嫡男だから人脈作りの為にも学園に来ていたが、ここでなくても構わないのだ。

そして、ここよりもエリートの少ない騎士学校だと、騎士団長の息子ということで丁重に扱われて、騎士団にも優先で入ることが出来る。

平民からしたら、『恵まれた奴』ということだ。

しかしまあ、私は彼を産めたかもという年齢の前世があるので、青少年の未来を閉ざすのはとても駄目だ。

転校して騎士になって幸せになるかもしれないが、それまでモヤモヤして過ごすのもとても嫌だ。

っていうか、攻略対象がそんなことになったら、ラスボスに勝てないかもしれないんですけど。

クラスメイト多いです。


平民組をまとめてみました。


リーダー トーマス(攻略対象)

副リーダー ハンス(トーマスの仲良し)

被害者 ロブ

にぎやかしのモブ ビリー

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