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22 2年生春 春はトラブルの季節2

この学校は国内で最高のエリート校で、素行不良などの問題を起こす生徒はあまりない。

なので、教室の管理も厳しくないし、早く帰れと怒られることもない。

適当な教室で勉強したり、ダラダラ残ったりは基本自由である。

1年1組平民組の根城は化学準備室だ。

1組の教室はほどほどの貴族の生徒が使っている。

ちなみに、フィリップ殿下とそのお仲間はカフェとか応接室とか、もうちょっとグレードの高いところでくつろいでいるらしい。

女子は女子でまた別の場所がある。私は基本1人でレベルアップに勤しんでいて、グループに所属してないのをいいことに、いろんなところに出入りしている。

化学準備室に出入りして何も言われない唯一の女子なのだ。


化学準備室の本日の議題は戻ってくるロブをどうするか、だった。

ロブは1週間ほど休んで、明日から戻ってくることになっている。

学校側からは何も言われていない。

ただの、体調不良などと同じ扱いのようで、何もなかったかのように扱われている。

ロブが責められるようなことにはなっていないものの、加害者側からの謝罪もない。

結局は泣き寝入りみたいな形だ。

そんな状況で戻ってきて、またテリーに絡まれても困る。

「もう一度、テリーとロブでガチでやりあえばいいんじゃねえの」

ハンスが言った。

それが主流派の考えのようだった。

今回のことは、ロブが強くなってきたのを疎んだテリーが、そこそこ卑怯なやり口でロブの隙をついたもので、テリーの実力自体はそこまででもない。きちんとやりあえば、勝ち目はあるということのようだ。

しかし、私はあまり賛同できない。

「正々堂々と勝っちゃうと根に持たれちゃうんじゃないの」

最近すっかり忘れているが+40歳なので、そんなにすがすがしい方法で解決するとは思えない。

負けたら逆ギレが一番ありそうだ。

皆で顔を見合わせる。

妙案は浮かばない。

「生徒会はなんとかしてくれないかな」

トーマスが言った。

「こないだクリストファー様に呼ばれたじゃないか」

そういえば、私が紹介したな。

クリス様は細かいいきさつなどを聞き取っていた。

貴族側だけじゃなく平民側にも話を聞いてくれたのはポイント高い。

ではあるが。

期待するのは楽観的すぎる。

「生徒会は生徒同士が対立しているのが、学校運営的に困るだけじゃないかなあ」

私が言うと、他の生徒たちも頷いた。

「俺らは会ってないからアレだけどさあ、そこまで味方になってくれねえと思う」

「そうだよ。生徒会長は公爵家だぜ。絶対、向こうの味方だって」

不信は根強い。

クリス様にとても良くしてもらっている私でも、クリス様がロブの味方になってくれるとは思わない。

「生徒会自体は、学校側と交渉とかできる権限があるんだけどねえ」

所属する人間が高位貴族ばかりなのだから、あまりあてになるものではないだろう。

「へえ」

トーマスがちょっと興味を引かれたようだった。

「だったら入ってみたいな」

「何に?」

「生徒会。所属したら権限が使えるんだよね?」

はあ?無理無理。

「来年の生徒会長はフィリップ殿下だよ」

「選挙じゃないのかい」

「ちょっと前にやったじゃない。超、出来レースのやつを」

ものすごくご立派な高位貴族の候補者が出て、そのまま当選する。

そもそも定員と候補者が同数だった。

事前の調整が十分になされているようで、公正な選挙って何だろうと思わせられる。

「それは残念だな」

「そもそも、選挙は終わった後だし、今から入っても、間に合わないよ」

私たちは、今すぐできることをしなければならないのだ。


とはいえ、平民の生徒に出来ることなど、特にない。

ロブが戻ってきてから2週間ほどが経った。

戻ってきても、相変わらず学校側は何事もなかったかのようだった。

それはどちらにも微妙に不満をもたらしたようで、教室は不穏な空気に包まれている。

それで、結局、仲直りというテイで2人で試合をすることにしたらしい。

正々堂々やりあうという案が採用された形だ。

勝負は剣術の授業の後、放課後に行われることになった。

クラス以外には内緒ということで、もちろん私は見に行った。

ロブの身のこなしを見て、テリーは驚いたようだった。

ものすごい大怪我だったので、先生の前で完治しているところを見せるわけにもいかず、戻ってきてから2回ほど、剣術の授業は休んでいた。

要するに、テリーはロブが病み上がりだと思っていたようなのだ。

それで、勝負を受けるというのは、いささか卑怯な気もするが。

テリーが打ち込んでくるのをロブが受ける。

そのままロブが打ち込む。

兄の教えをきちんとこなした美しい軌跡だ。

打ち合う間に、情勢が見えてきた。テリーが押されている。

このままいける。

その瞬間、何処からか小刀が飛んできて、双方が後ろに引き下がった。

観客がざわめく。

エドワードが手を出したのがハッキリ見えていた。

「負けそうになったら邪魔するなんて卑怯だ」

どこからか声が飛んだ。

「違う」

エドワードが言う。

「実力が拮抗していて、これ以上斬り合うと危険と思ったから介入しただけだ」

「ロブがやられたときは大怪我させたくせに」

「今、誰が言った」

取り巻きの誰かだろう、魔法が舞った。

「おまえら、この前からうるさいぞ。この際、決着をつけたらどうだ」

立ち上がったのはフィリップだった。

そこで、出るか、おまえが。

「だから今、やりあってるんじゃないか。邪魔したのはエドワードだ」

トーマスが言った。

「当事者の2人が直接やりあうと、加熱しすぎて危険なんじゃないかと言ってるんだ」

フィリップが威圧するように立ち上がった。

「先日、怪我をさせたのはテリーが悪かったと思うし、同じことを起こしたくない。

なので、我々とそちらの代表者を出そうと言っているんだ」

我々。

その物言いは、彼の立ち位置をはっきり示していた。

平民の生徒たちは彼の思う我々ではないのだな。クラスメートなんだけど。

国王の息子であるフィリップが言い出すと、反論するのも難しいというのに。

「双方の代表者がこんなところじゃなく、ちゃんと立ち合えばいい。

 ただし、この学年の生徒に限るが」

さすがにそれはない、という空気が漂った。

向こうには騎士団長の息子の、将来を嘱望されているエドワードがいる。

人格的には非常に問題があるが、剣の腕だけは確かだ。

エドワードより腕の立つ同い年はいない。

と、いうことになっている。

向こうはそう思っているから、こんな提案をしてきたのだろう。

ムカつく。

私はそっとトーマスの後ろに忍び寄った。

受けろとささやく。

「わかった。その代わり、今回みたいなことがないように条件は決めさせてもらうからな」

「もちろん、次は途中で止めることはしないさ」

エドワードが嫌な感じのニヤニヤ笑いを浮かべる。

おまえ、吠え面かかせてやるからな。

「もしかして、マジでエドワードをやっつける気かよ」

トーマスが耳元でささやいてきた。

「もちろんだともー」

ムカつきすぎてキレた。だってさー。

ゲームの通りに上手にイケメンを攻略して、邪竜をやっつけて王妃になる。

なんだろう、忙しくて大変なばっかりで、全然モテモテじゃないし、

フィリップもエドワードも人間性が駄目すぎて攻略する気になれないよ。

王妃になる気もどんどん薄れていくんだけど。

もういいかな。邪竜を倒すだけで。殿下とエドワードがいないと厳しいけど、私がレベルを上げればいいだけだし。

そっちのほうが手っ取り早いし。

そういう気持ちになったので。


練習場で見た限り、今の時点ではエドワードは全然強くない。

真面目に修練を積んでいるふうでもないし。

ゲームの中のエドワードはもっと頑張ってたよ。

騎士団長の父を尊敬して憧れつつも、周囲の期待をプレッシャーに感じているエドワード。

フィリップの強さに、自分には才能がないのかと嘆きながらも諦めなかった。

ヒロインと出会ってから鍛錬を積んで、どんどん才能を開花させた。はずだけどなあ。

頑張れよ、おまえ。

っていうか、フィリップが駄目だからおまえも駄目なのか。

本当に二人して、もう。

こっちは魔物で実戦を重ねているのだ。

あんな普段から練習してないやつに負けるもんか。

徹底的にやってやる。

「おまえ、悪い顔してる」

「いいこと考えついちゃったからですー」

ゲームのエドワードと思いだしたおかげで、素敵なイベントを思い出したよ。

「シメてやろうと思ったんだけど、ただシメるより怒られてもらおうと思って」

「誰に」

「エドワードの敬愛するお父様に」

イベントであったのだ。

騎士団長が学校の訓練設備と上級生の練習をチェックしに来る。

お忍びだったが、騎士団の兄経由で偶然知ったヒロインが、エドワードに参加するように勧める。

父親に良いところを見せようとしたエドワードだったが、上級生にやっつけられてしまう。

しかし、そのガッツを父親に認めてもらい、ヒロインとの親密度がぐぐっと上がるイベントだ。

ただ、今回は、父に怒られてもらおう。

高潔な騎士団長が、息子が女性と決闘をしている現場を見たらどうするだろうか。

しかも負けてるところを。

まあ、試合自体は中断するかもだけど、それはそれで願ったりだ。

と、いうかお父様に途中で止めてほしい。

「この先もクラスメイトとして付き合っていくわけだし、無駄に白黒つけるよりいいかも」

みんなにはタイミングよく現場に誘導するのを願いしたい。

「手伝ってくれるよね」

「もちろん。われらの女王陛下」

「それ、不敬罪だからね」


クラスだけの内緒なのに、アルはやっぱり知っていた。

おそらくだけど、アルの情報源は貴族側だな。

フィリップの近くに、しかし、フィリップに心酔していないスパイを置いている。

全く、我々が不敬罪すれすれとか思われてるかもだけど、こっちのほうがよっぽど問題じゃないのか。

「それで、どうするんだ。トーマスが出るのか」

アルの見立てでは仲間内ではトーマスが一番いいらしい。

ロブも腕を上げたがとっさの判断に劣ると。

どっちでもないんだよ。言えないけど。

「言っておくけど、トーマスじゃエドワードには全然かなわないよ」

それは知っている。

ちょっと練習した平民が勝てる相手じゃないという。

「まあ、そうなんだけど。1本入れてやったら、こっちの勝ちかなって」

嘘です。めちゃめちゃやっつけるつもりです。

しかし、クラスにもふんわりとそのような感じで噂を流している。

負けるとしても一矢報いてやるつもりだ、というやつを。

そうでないと、変に警戒されちゃうし。試合自体がなくなったら困るので。

「君は無関係なんだよね?」

アルが釘を刺してくる。

「無関係じゃないよ。気持ちは平民、トーマス達の味方だよ」

「気持ちだけならいいけど」

「向こうがなんか卑怯な手を使うのを阻止したいというのはある」

騎士団長に丸投げの予定ではあるけど、本当に清廉な人物とは限らないからね。

「卑怯って。1本入れるのも無理だと思うけどね」

向こうの不正を警戒するレベルではないと言いたげだ。

「そんなこと、やってみないとわからないじゃない?」

「よりによって、君がそんな夢見がちなことを言うとは思わなかったよ」

「ねえアル。私のことどんな人間だと思ってるの?」

時々、とても人間性を疑われているような発言がある。

おかしいよ。

真面目に世界を救いたいだけなのに。

クラスメイト多いです。

平民組をまとめてみました。

リーダー トーマス(攻略対象)

副リーダー ハンス(トーマスの仲良し)

被害者 ロブ

にぎやかしのモブ ビリー

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