21 2年生春 春はトラブルの季節1
2年生になりました。なんかモブにいちいち名前がついてて、わかりにくくて申し訳ないです。
春が来た。
恋愛ゲーム的なフラグがなにも立たないまま、私は2年生になった。
剣術の授業も普通に始まったようだが、怪我人は大幅に減ったらしい。
トーマス達は上手くやっているようだ。
兄の訓練も続いていた、教えを受けた何人かは、卒業後に騎士を目指したいという話も出てくるくらいで。
まあ、めでたいことだ。
が、そうそう上手くもいかなかった。
その日の淑女教育は水彩画だった。
まあ、ほどほどに。
試験に反映されないとわかってから、意欲は若干減退している。
水彩画と音楽は今後にあまり役に立たないという情報を仕入れたからだ。
自分で行うよりも、芸術家を支援する活動のほうが良いらしい。
ただ、前世の美術教育は素晴らしく、意欲がなくても、なかなかの作品が仕上がっている。
授業の終わり際に、建物の向こうで何か怒鳴り声のようなものが聞こえた。
なんだろう。
平和な学園だが、時々スパイスとして魔物が出るのだ。
攻略対象と一緒に退治したらレベルが上がる。
だが、それはやはりゲームだからであって、実際はごくごく小物が出て、先生方がさっと駆除するので
私の出番はあまりない。
魔物出現の緊急連絡が入る事もなく、授業は終わって。
当番なので、道具の片づけをしていると、トーマスとアンナがやってきた。
「リリーナ。急いで来て」
2人とも、とても深刻そうだ。
アンナは、案内と、片づけ当番を代わる為に来たらしく、トーマスが私を急かしていく。
「剣術の最中、ロブが怪我をした」
「えっ」
ロブはクラスメイトの平民組で、夏休みに剣術の稽古を一緒に受けたメンバーだ。
中でも筋がいいと言うことで、本人も楽しそうに練習をして腕が上がるのを喜んでいた。
この前、授業も楽しくなったと言っていたのに。
授業とはいえ、剣術だ。
細かい怪我はもちろん、そこそこ大きな怪我を負うことも多い。
「テリーがわざとやったんだ」
テリーは男爵家の息子で、フィリップの取り巻きだ。
「あいつらは、最近、僕たちが腕を上げて、いいようにいたぶれなくなってたのが不満だったんだ」
「まさか、そんなこと」
保健室に入ると手前のベッドにロブが寝ていて、クラスメイトのハンスとビリーが側についていた。
ロブは真っ青で意識がない。
腰のあたりを切られたようで、止血だけしてあるようだ。
「先生は?病院の手配?」
「保険医は治療を拒否した。止血をしてくれたのは治癒魔法が使える先輩だ」
上級生は高度な魔法が使える生徒も多い。もちろん教師たちの比ではないが、応急処置はしたということだろう。
それにしたって、生徒の治癒魔法だけとは。
「学校側は、ロブが自分のミスで怪我したと認めれば、治療をすると言っている」
なんだそれ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「ロブは絶対に嫌だと言った。それだと、また同じことが起きるからと」
そのまま意識を失ったらしい。
「本人はこの通りだから、僕たちに口裏を合わせろと言ってる」
そんな、卑怯な。
「僕はロブのほうが大事だから、言うことを聞こうと思ったんだが。
他の奴らが、おまえに聞いてからって言うんだよ」
トーマスが周囲を見回すと、ハンス達が頷いた。
「だってリリーナが剣を教えてくれたんじゃん。リリーナが言うことに従う」
「ロブもそうだと思う」
口々に言われて。
そうか。
気が付いてなかったけど、そこまで信頼されていたのなら。
意気には意気で返さねばならぬ。
ずっと魔法を訓練してきた。
来るべき、世界の終わりを防ぐために。
小さい魔物を退治してレベルアップを図っていたけど、学園に来てからは意識して使わないようにしていた。
何故なら魔法は大きい力だから。
うっかり使って歴史を変えてしまう可能性がある。
ゲームの通りに進めなければ、世界の危機がゲームからずれてしまうかもしれない。
それで、世界の危機を救えなかったら困る。
女神にだって注意しろと言われていた。
だから。
その時まで、歴史を変えないように、目立たないように、していようと思っていたけど、それでいいわけがない。
ちゃんと癒しの呪文も覚えている。詠唱。
「治癒」
唱えた瞬間、激しい勢いでロブの身体が金色に光った。
そうして、ゆっくりとゆっくりと、光がどんどん薄まっていく。
光が消えた時、傷口はふさがっていて、ロブがぱちりと目を開けた。
「俺、どうしてた」
むくりと起き上がる。
「夢でも見てたんだろうか」
衣服はばっさりと切られて血がついてるのに、よく言えたものだ。本人はそんなものかもしれない。
「夢じゃない。夢じゃないよ」
ハンスが言いながらぼろぼろ泣いた。
「良かった」
うつむいたビリーも泣いているようだった。
ロブが呆然と立ち上がって腰を触る。
「どうなってんだ」
「リリーナが治したんだよ」
ハンスが恐る恐る腰に触れた。ロブ本人は不可解な顔で強めに腰を叩いた。
「平気な気がする」
良かった。
本当に良かった。
治しておいてなんだが、私も腰が抜けるくらいの気がしている。
「歩けるなら行こうぜ」
トーマスが言った。
「どこに」
私とロブが揃った。
「町に行く。誰かのコネで町医者に連れてって、そこで治してもらったことにする」
ちらっとこっちを見た。
「リリーナが治したってなったらまずいんだろう」
そうですけども。
トーマスの手配で、ロブとビリーと3人で一旦学園を出た。
ハンスが残ったメンバーに表向きの説明をする係だ。
そうして、その日の夜には、先生方にも、ロブが町医者にかかりに行ったことが伝わったようだ。
ロブを治療しないと言っていたのは、剣術の先生と保健室の医師だったので、寮監の先生やクラス担任には話を通したらしい。
原因を言わずに、ただ、怪我をしたので外出するとだけ報告して、了承を得たようだ。
実際、軽い傷や病気で、保健室で応急処置をした後に、他の医者にかかることはよくあることだから、揉めていると思われなかったのだろう。
許可証があればこっちのものだ。
とやかく言われる筋合いはない。
私はアンナと一緒に美術の後片付けをしていたことになっていた。
トーマスの段取り能力は素晴らしいし、平民組の団結力も素晴らしい。
翌日、アルからお呼び出しがかかった。
放課後、図書館に来るようにと言われている。
なんだろうな。
アルは時々、お菓子のお裾分けとかをしてくれるのだ。
ちょっと嬉しい。
しかし、行ってみたら、クリス様もいて、二人は深刻そうな顔でむすっとしていた。
「君に訊くのが適切かはわからないけど、男子生徒達は口止めされてるらしくて」
昨日の件らしい。
「フィリップ殿下の取り巻きが平民の男子生徒に大怪我させて、その生徒が適切な治療を与えられず、
町の医者に掛かりに行ったと聞いた」
「その通りです」
情報源がどこかは知らないが、実に正確だ。
「同行した生徒2人は夜遅くに戻ってきて、怪我をした生徒はまだ治療中だと」
トーマスの判断で、ロブはしばらく町医者の加療中ということになったらしい。
あの大怪我でスッキリ全快してるのもおかしいから妥当なところか。
「私が知ってるのもそんなとこです」
2人は揃ってため息をついた。
「何か問題でも?」
「大ありだよ」
クリス様が珍しく声を荒げた。
「授業中の怪我なんかよくあることだろう。保険医がさっさと治せば済むことを」
「そうですね、なんで治さなかったんでしょう」
声が冷たくなってしまったのは許してほしい。
本当に、保険医がとっとと治せばよかったのだ。
そうしていたら、トーマス達も、言い方は悪いが泣き寝入りになったことだろう。
クラスで不平は燻るだろうが。
「そこがわからないんだ」
「噂ですけど。殿下の取り巻きのせいではなく、怪我した生徒のミスということにしろと迫ったとか」
アルとクリス様は顔を見合わせた。
「なるほどね」
「なにが、なるほど、なんですか」
これは純粋にわからなかったので聞いてみた。
「剣術の授業中の怪我は、ある程度以上のものだと騎士団の監査が入るんだよ。
原因によっては加害者が希望する騎士団に入れなかったりする」
「近衛騎士団には入れないな」
アルが説明してくれて、クリス様が補足してくれた。
剣術の授業を受ける身ではないので、そういうシステムになっているとは知らなかった。
テリーは男爵家の出だが、フィリップ殿下のお気に入りなので、いい騎士団にも入れるポジションなのだろう。
ロブがわざとやられたと騒ぐと、その、テリーの未来に傷がつくということか。
なんということだ。
ムカつく。
たかだかそんなことだったとは。
テリーの未来なんか思う存分閉ざされてしまえ。
「君は被害生徒寄りなんだね」
アルは私の表情を読んだらしい。
「当たり前じゃないですか。元々問題になってたんです。貴族の一部が平民組を不当にしごいているって」
「でも、まあ、身分が違うんだから」
その先はなんとなくわかった。
お貴族様の横暴を平民は我慢しろということだ。
本当にそれってどうなの?と思う。
最近、トーマスを始めとした平民のクラスメイトと交流があるせいか、そう思うことが多い。
それに、私はやはり現代日本人の感覚が残っていて、どうしても階級社会に違和感が残るのだ。
「君はあまり興味が無いかもしれないけど、クリスは生徒会の役員長なんだよ」
アルがいきなり話を変えた。
いやいや、知ってますよ。ゲームでやったから。
秋の終わり頃に生徒会選挙があるんだよね。
去年、ものすごく無風の選挙があって、宰相閣下の息子で2年生のクリス様は生徒会長になった。
ゲーム通りに進行するなら、1年生のフィリップ殿下が副会長として参加していたのだが、フィリップ殿下は立候補しなかったようで、他の2年生や1年生が役員になっている。
まあ、それでも、来年はフィリップが生徒会長になるだろう。王太子殿下だから。
あんな奴がなるのかという気はするけど。
「今、この学園は貴族と平民の生徒で分断があって、生徒会としては憂慮しているんだよ」
分断はこれまでも感じないでもなかった。しかし、今回の件ほどのものはなかった。
確かにあまりよくない空気を感じる。
「できれば、この件は早期に解決したいんだ」
クリス様も厳しいお立場だ。
「よければ、誰か、信頼のおける男子生徒を紹介して貰えないかな」
信頼のおける男子生徒。トーマス一択だな。
トーマスが本当のことを話してくれるとは限らないけど。
クラスメイト多いです。
平民組をまとめてみました。
リーダー トーマス(攻略対象)
副リーダー ハンス(トーマスの仲良し)
被害者 ロブ
にぎやかしのモブ ビリー




