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20 1年生冬 剣術をやろう

私がちまちまレベルアップをしている間に、季節は冬になりかけていた。

女友達が出来て、学校生活は格段に楽になり、楽しくもなった。

やはり、助け合う友達がいるというのはいいものだ。

貴族社会の常識も、ソフィア様のおかげでいい感じに学べてきているような気がする。

貴族のご令嬢には賢い侍女が必須なのだと、クリス様が力説していたのがよく理解できる。

クリス様はものすごく熟考してエミリアの侍女を選んだらしい。

個人的なレベルもかなり上がった。

学業も魔術も、学校で体系的に学ぶというのはいいものだ。

そうして、私の学園生活はいい感じに進んでいた。

攻略対象をちっとも攻略できていないということ以外は。


もう1年生も終わりに近づいてきているのに、ちっともフィリップともエドワードとも仲良くなれていない。

共通の仲良しがいない身分違いの異性のクラスメイトとさりげなく親しくなるって、ものすごく難易度高いよ。

やっぱり席が遠いのが悪い。

なんで隣じゃないの。ってフィリップの成績が悪いからだな。

ゲームで私の隣の席がフィリップだったのは、フィリップが2位だったから。

ゲームのフィリップは私が入試で一番だと知っていて、密かにライバル心を燃やしていたのだ。

それで、前期試験でも負けて、まぐれではなく実力だと注目するのではないか。

しかし、今、フィリップの席は、教室でも後ろのほう。

つまり入学試験は40位くらいだったということ。

そんなフィリップと仲間たちは今日も教室で馬鹿騒ぎをしている。

「学年があがる時に、席やクラスが変わったりするの?」

ふと思いついて、隣席のトーマスに訊いてみる。

2年になって、フィリップが2組になったら、ますます縁遠くなってしまう。

「もちろん変わるけど、上位貴族が2組に落ちることはないよ」

「なんで」

「彼らは剣術で下駄を履かせてもらえるからね」

そういえば、そんなことも聞いた気がする。

「実力的に同じくらいの生徒がいたら、剣術が出来るほうが優先される、ということになっている」

トーマスは実にもったいぶった口調で含みのある言い方をした。

「実際には剣術を理由に、高位貴族のご子息が2組にならないように調整されている」

「なにそれ」

「ほんと、なにそれ、だよ」

なんだかなあ。ゲームの中では平等な学び舎だったのに。

悪役令嬢エミリア様が親の威光と強大な魔力を笠に着て、私に厳しく当たるくらいで先生方は平等だった。

なんか、こんなにじんわり陰湿だったなんて。

「淑女教育もかしら」

「そっちはノーカウント。残念ながら、女の子を上位にするという発想はないんだよね」

ああ、そうですか。

中世ヨーロッパ風魔法世界って、なかなか男尊女卑だな。全くもう。ムカつく。

「いいなあ。剣術。淑女教育なんてつまらないよ」

かねてから、ちょっと思っていた。

淑女教育は、やってもやっても思うほどには順位があがらないのでやりがいもない。

すごく上手なダンスとすごく上手なダンスがあった場合、誰が見ても納得できるように順位を決めるのは難しい。

どちらも上手ければ、採点する側の好みが反映されるからだ。

好みで決まるのであればまだマシだ。

決めるのがレディ・ドロテアなら、踊ったのが誰かが優先されることだろう。

私がとても素晴らしいステップが踏めるようになったとしても、1位にはなれない。

ムカつく。

なんかもうちょい弱みを握れば1位になれるかもしれないけど、それならそれでムカつく。

なかなか複雑なお年頃なのだ。

それを思うと。

「剣術なら勝った者が一位じゃない?身分の差で忖度されたりしなくていいよね」

実力勝負だ。負けてもスッキリする。

しかし、それは賛同を得られなかった。

「全然よくないよ」

「そうかなあ。やったら正当に評価されるならいいじゃない」

「でも、元々の実力差が大きすぎるよ」

トーマスは左腕を上げた。

袖をまくると青い痣が見えた。

「どうしたの、それ」

「剣術の時間にやられた」

まあ、剣術なので、偶然当たることはある。

私は女の子だしちゃんとした大人に稽古をつけてもらったから、あまりそういうこともないように気を付けてもらったが

男の子だとそうもいかないのだろう。

「俺もやられた」

他のクラスメイトも加わってきた。ハンスの身体はもっと酷かった。

「保健室に行かないの?」

ここは魔法が使える世界だから、保険の先生が治癒魔法で治してくれるはずだ。

「平民を治してくれたりしないよ」

「授業で得た痛みは、教訓だから治さない、みたいなこと言うんだよな」

それは酷い。

「でも、貴族の奴等は裏でこっそり治すんだよ。代わりに金を貰って」

とても酷い。

「貴族のやつらとは腕が違うのに、稽古をつけるとか言っていたぶってくるんだ。あいつら最低だよ」

「剣術の先生は止めないの?」

「止めると思う?」

逆に聞かれて言葉に詰まる。

「トーマスは目の敵にされてるんだよ。成績がいいし、最近腕をあげてきたから」

ハンスが言う。

前期の間は良かったのだ。

平民の生徒たちは全然剣を使えなくて、最初から訓練を受けている貴族の生徒とは分けて指導されていた。

1年近く経って、彼らもそこそこ使えるようになってきたので、貴族の生徒と打ち合うことが増えてきたらしい。

そうなると、実力差もあって、打たれっぱなしなのだそうだ。

「騎士道ってなんだってなるよな」

「せめてもうちょっとマシな人に教えてもらえればなあ」

「かわせるだけでいいのに」

続々と不平が出る。

そうだろうな、と思う。

それを目の当たりにしたのは、その話をした少し後のことだった。

理由は何だったか忘れたが、レディ・ドロテアがダンスの授業を休講にしたのだ。

それで、図書館に寄って帰ろうとして、近道をしようと剣術場に横を通りかかったのだった。

目に入って、思わず、茫然と立ち尽くしてしまった。

彼らの愚痴は現実のほんのわずかな部分に過ぎなかった。

エドワードが華麗な剣さばきでトーマスを打ち据えている。

トーマスも運動神経自体は悪くないようで、うまくかわしているが、エドワードのほうが数段上だ。

一方的に打ち込まれている。

周囲にはフィリップや取り巻き立ちがいて、聞き苦しい野次を飛ばしている。

おまえら。

貴族としての品格はどこへやった。

講師を目で探すと、端っこの方で貴族の生徒同士の指導をしているようだ。

なんということだ。

なるほど。これは本当に良くない。

私は世界の救世主であるリリーナだが、まずは身近な友人たちも救わねばならないだろう。


そんなわけで、平民組を集めて剣術の訓練をすることにした。

場所は私が入学式の日に迷い込んだ(わけではないが)森の奥の開けた場所を使う。

校舎からは森にさえぎられていて、あまり人目もないのでうってつけだ。

講師には私の次兄、王立騎士団の小隊長、騎士団の若き鷹と呼ばれるクロード・ヴェルデガンを用意した。

長兄と違って領地の後を継がないので、騎士として身を立てようと、王都で出世競争に明け暮れているのだ。

トーマス達だけでどうぞ、というわけにもいかないので私も参加だ。

「おまえが教えればいいのに」

めんどくさそうに兄は言った。

「無理無理」

なんだかんだ言っても私はチートの持ち主だ。

頑張れば、その努力に応じてレベルアップするので、どうしても感覚で剣を振ってしまう。

人には全く教えられないのだ。

「リリーナも剣を使うの?」

トーマスが驚く。

「魔法がすごいのは知ってたけど、剣まで扱えるなんて」

「そこそこやるな。普通に騎士団に入れるレベルだぞ」

兄の返事にクラスメイト達が感心の眼差しで見て来る。

いや、やらないからね。

でも、練習には参加するので、結局は腕前を披露することになってしまった。

田舎でずっと剣を振っていたので、学園に入ってから始めたようなクラスメイト達とは比べ物にならない。

「なんで、隠してたの?」

隠していたつもりはなかった。女性が剣をふるう機会がないだけだ。

でも、彼らは違う。

「みんなは上手くなっても隠しておくのよ。フィリップ達ににらまれてもいいことないから」

これは本当に厳しく伝えておかねば。

「上手く逃げるのはいいけど、勝っちゃ駄目」

あの甘やかされたご子息たちは、平民に打ち込まれたら逆切れするに決まってる。

「おまえの学年って騎士団長の息子がいるんだろ。そんなことあるかな」

クロード兄は騎士団長に甘い。

「その、平民をしごく馬鹿がその息子なのよ」

「まさか。騎士団長はとても高潔な方だぞ」

「親が高潔でも息子も同じとは限りません」

クラスメイト達がうんうんと頷く。

偉い人達が高潔とは限らないからこそ、身を守らねばならないのだ。

そうして私たちの冬は剣に明け暮れて過ぎていった。

勉強もしないといけないし、淑女教育もそこそこにはやらねばならぬ。

アルは厳しいし、ソフィア様にも逆らえないから。

忙しいなあ、もう。

春休みが始まってフィリップ殿下もエドワードもご旅行に出かけているというのに。

何故?攻略対象は学園に残って、きゃっきゃウフフするんじゃないの??


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