表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/70

2 オープニングは星祭りの夜1

とりあえず、説明部分が多いゲーム開始までは毎日更新します。

私が前世を思い出したのは8歳の時だった。

その朝、誰かが私を起こす声が聞こえたのだ。

聞いたことはあるのに誰の声かわからない、トランペットのファンファーレのようなよく響く声。

「目覚めよ、救世の乙女よ」と。

なんか変な起こし方だ。

救世の乙女って何。

誰が声をかけてきたのだろうと思って起き上がったけど、誰もいなかった。時計を見ると、まだ起こしに来られるような時間じゃなかった。

そもそも、今日は家族はみんないないのだ。

おじいちゃんちの実家で人手が必要だとかで、一昨日から出かけているから。

私も行きたかったけど、小さい子は邪魔になるからと言われて、置いて行かれた。

もちろん、8歳の子供を一人で置いていくわけにはいかないので、普段は通いのメイドのハンナが泊まりで来てくれている。

二階の子供部屋から階段を降りていくと、ハンナがスープを温めているところだった。

外から爆竹の鳴る音がする。

それでお祭りなのだなとわかった。

「お祭りだね」

言ってみると、ハンナは困った顔をした。

「旦那さんは駄目だって言ってたでしょう。今年は我慢ですよ」

「今年はっていうけど、今年は10年に一度の大祭なのに」

口に出すとすんなりと思い出した。

星祭りの日だ。

私が住むソーンドレイク魔法王国は、魔術師たちの張った結界によって護られている。

その結界は少しずつ弱くなっていくので、10年に一度、星祭りの晩に、王立魔術院の魔術師たちが結界を張り直すのだ。

その時に古い結界が光のように剥がれ落ちて、空から星が降る様に見えるのだという。

結界の張替が行われるのは10年に一度で、残りの9年はただのお祭り。

王宮から魔力を使った美しい花火があがるくらい。

今年は10年ぶりの大祭がある。7歳の私は当然、魔法の行われる大祭は見たことが無い。


先週、おじいちゃんちから手紙が来るまでは、家族で河川敷まで見に行く予定にしていたのに。

急に行けなくなってがっかりだ。

夜だから子供だけでは出かけられない。

ハンナもお祭りの手伝いをするので、私は家で大人しくしていなければならない。

兄たちがいればよかったのに。

私には2人の兄がいるが、残念ながら2人とも寄宿制の学校に行っているのだ。

「昼間に行くのはいいでしょう?」

メインは夜だけど、屋台なんかは昼から出ている。

「ユーリの家は屋台を出すって。手伝いに行っていい?」

「メイスンさんとこの?」

ユーリの父親、メイスンさんは近所のパン屋さんだ。お祭りにはパンを売るし、商店街のまとめ役なのでイベントを仕切りもする。

長男であるユーリは面倒見がよくて、商店街の子供たちみんなの兄貴分だ。

「パンを包む紙を折るのをやらせてくれるって言ってたの」

「ずっとみんなの近くにいるならいいですよ」

「もちろん」

私は子供らしく微笑んだ。ハンナは通いで、普段はあまり私と接することが無いので、これで大体通用する。

母さんなら私を信用しない。


リリーナ・ウィレット7歳。

今朝、思い出したけど、私には前世の記憶、令和に生きた日本人としての記憶がある。

もちろんリリーナとしての7年間の記憶もあるんだけど、更にその前の分の人生も覚えてるという不思議な感じで。

ただ、その日本人としての記憶を手繰るのはちょっと難しい。

普通に8年以上前の記憶になるからだ。

世界自体が違うので、情報量が多すぎて処理しきれていないのか、固有名詞も出てこない。

世界を救え、その為に乙女として知識を与えてあると女神に言われたけど、ゲームをやっていた時期となると、更に15年くらい前の話なので、合わせて20年以上前の記憶だ。

前世で死んだのは40歳だったけど、その時に中学生時代の思い出をクリアに覚えていたかと言えば全然だし。

何も覚えてないけど、性格というか人格の一部分だけ残っている感じ。

どこかふわふわした不思議な気持ち。

どうしたものかと思いつつ外を歩く。

よく晴れた青い空。

祭の準備ももう終盤で、街には星の飾りがついて、イベント会場も出来上がっている。

ふと、目の前を鮮やかな画像がよぎった。

暗闇の中、流星群が降っているような空を眺める子供が三人。

王子と騎士と救世の乙女。

そう言えば、大事な情報は必要に応じて思い出せると言っていた。

女神様はちゃんと思い出せるようにしてくれたらしい。


ああ。

これは『星の導き~救世の乙女は愛を探す~』、略して『ホシミチ』の世界だ。

『ホシミチ』は、魔物が存在する中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で、人も魔力を持ち、魔物と戦う。

階級社会で、貴族は強い魔力を持ち、その中でも特に魔術に秀でた者たちが魔術師となって国の守護にあたっているが、もちろんそれだけでは安心できない。

都市は魔術師の結界で護られているが、小さな綻びから魔物は侵入してくるのだ。

乙女ゲーム要素の強いRPGで、主人公は魔物を倒してレベルをあげながら、イケメンたちを攻略する。

最終的にはイケメンたちと共に、蘇った邪竜を封じて世界を救う。

オープニングは主人公が7歳の星祭りの大祭の美しいシーン。

家族に内緒で夜のお祭りに来た主人公は、一人で街をうろうろしている。

道に迷って困っているところを、男の子の二人組に出会う。これが、メインヒーローの王子様と、二番手の騎士だ。

王子様にこっそり穴場に連れて行ってもらって、三人で空を見上げる。

ちなみに、この祭りの会場には、他のキャラ達も来ていて、役割に合わせて確認できるようになっていた。

メインの攻略対象は初見でハッキリわかるように。そうでもないキャラはそこそこに。そしてモブはひっそりと。

オープニングを見返したら隅っこに○○君がいた!みたいな話題にもなっていたはず。

思い出すと次々に連鎖されて来るけど、どの辺で会ったかなど細かいところはかなり曖昧だ。

でも、日にちだけは確実だ。

星祭りの夜。

つまり今夜。

私は、攻略対象の王子と出会わなければならない。


そうと決まれば早速、下見だ。

曖昧な記憶を振り絞って現場を歩いた。

混雑に紛れてすれ違ったりするわけにはいかないので、きちんと確認しながら歩いた。

王子様の穴場も確認した。

きっと大丈夫だ。

と思う。

綿密に事前準備がしたいタチなのは、もう生まれ持っての性格だ。前世でもだけど、リリーナとしての8年間もそうだった。

前世を思い出す前からそういう性格だったので、もうそういうものだと思うしかない。

どうしようもないことは諦めるしかないけど、可能であれば、ちゃんと準備したい。

昨日までのリリーナは、こっそり祭に行くことにしていた。

そして、そのためにヘレナを出し抜く準備をしていた。

8歳児の知恵で大丈夫かと思うけど、ヘレナはちょっとのんきというか、そんなに疑い深くない。

少し安心して、思い出したゲームの内容をメモに書きだしてチェックする。

中世ヨーロッパ風の世界なのに、こんな下町の家に紙や筆記具があるのがゲームっぽいなあと思ったりもする。

筆記具は古いタイプの万年筆。インクがぼたぼた垂れてくるけど、羽根ペンじゃなかっただけマシかもしれない。


プレイヤーは下町に生まれた少女。

デフォルトネームはリリーナ。

私はデフォルトネームをそのまま貰ったようだ。

女神様が女神リリーナと言っていたけど、女神様のお名前なのだな。

下町で生まれ育つも、実は伯爵令嬢だった主人公には、生まれつき強い魔力があり、魔法学園に入学する。

そして、生まれ持った才能と努力でレベルを上げていく。

魔法学園で知り合うイケメンたちを選んでパーティーを組み、魔物を倒すと経験値が上がってレベルも上がる。

パーティーの枠は五人まで。

イケメンたちは典型的な王子様から個性枠まで、いろいろなタイプを取り揃えている。

そして、戦いながら好感度を上げていくことで、親密になり、最終的に一番好感度が高い男にプロポーズされるのだ。


王子や騎士のように、パッケージの表側に出てくるようなメインキャラは、ほどよく落とせるようになっていた。

脇役になればなるほど好感度があがらなくて攻略が難しい。

私はもともとそこまでゲーム好きではなかったし上手くもなかったので、結局、あんまり落とせずに終わった。

そもそも、攻略本にいながら、出てこなかったキャラもいたし。

盗賊とか幼馴染とかがいたはずなんだよね、と思って気が付いた。

幼馴染ってもしかしてパン屋のユーリか。

今にして気づくこの真実。

攻略本を見ながらやったのに、フィリップ王子と騎士エドワードと魔術師ハーヴィルしか落としていない。

ハーヴィルが難しくて面倒になってきてしまって、落とした達成感でもういいか、になったのだったか。

あの陰気な魔術師は本当になかなか攻略できなかった。

ゲームバランス的にはもっと簡単でもいいはずなのに。

最初を何か間違えたのかもしれないが、本当に落ちなくて、ものすごく頑張って攻略した覚えがある。

正直、そこまで好みのキャラじゃなかったけれど、最初はみんな落とすぞ!くらいの意気込みだったから。

ハーヴィルでてこずってたら二推しのクリス様なんて落とせないと思っていたし。

実際落とせなかったし。

ああ、でも、それってどうなんだろう。

もしかして、この世界でも、ものすごく頑張らないとイケメンを落とせないの?

私に与えられるのはモテモテ人生じゃないのだろうか。

確かに、複数のイケメンと知り合うことになりそうではあるものの。

ものすごく頑張らないと攻略できないなんて、モテモテとは程遠いような気がするのは気のせいだろうか。


その瞬間、何か嫌な予感がした。

私の記憶が確かならば、ホシミチは乙女ゲームではない。

イケメンがバンバン出て好感度を上げるという点では乙女ゲームの要素ががっつり入ってはいるものの、

基本的には主人公が魔物をやっつけるファンタジーRPGだ。

主人公がプロポーズされようがフラれようが、大筋には関係ない。

レベルを上げた主人公がラスボスの邪竜を倒して世界に安定をもたらす。

大事なのは主人公だけだ。

主人公のレベルを上げていかないと、普通に魔物に襲われて死ぬ。

GAME OVER という素敵な文字と共に。

そう。死ぬのだ。

そして、世界も滅ぶ。

ゲームであれば、セーブしたところまで戻ればいいが、現実だとどうなるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ