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15 1年生夏 夏休みはレベルアップ1

1年目の前期が終わった。

この世界では入学式や卒業式こそあるものの、始業式とか終業式と言った無駄な式典は行われない。

ただ、休暇中の注意みたいなことはある。

先生が生活態度について語ったりするのはあまり変わらないようだ。

聞く気もないので、窓から外を見ている。

世界を破滅させる邪竜出現まであと2年とちょっと。

空が割れ、真っ黒な竜が落ちるように飛んでくるのだ。

こうしてのんびり過ごしていると、そんなものが本当に出現するのかという疑問は常にあるが、楽天的にとらえることもできない。

更なるレベルアップをはかりたいところだ。

休暇は実家に戻って魔物退治に勤しむのもいいかもしれない。

本来なら、乙女ゲーム的な展開に備えて、学園に残って、攻略対象と交流しなければならないのだが

フィリップは休暇は旅行に出かけると聞いた。

エドワードやクリス様も領地に帰るという。

それはそうだ。

何故、15歳の子供が、せっかくの夏休みに、学校に残らないといけないのだ。

ちなみに私は8月生まれなので、休暇中に16歳になる。

誰も残っていないと誕生日おめでとう、2人きりでお祝いしよう、みたいな素敵イベントも発生しないよ。

「トーマスは休暇はどうするの?」

隣の席を振り返る。

「うちは特にどこにも行かないよ」

王都が実家だし、休暇中は家の手伝いをしなければならないのだそうだ。

それでも、合間を見つけては勉強に勤しむらしい。

「商会の巡回当番があるらしくて憂鬱だよ」

「何、それ」

「最近、商店街の外れのあたりに魔物が出るって話があって。みんなで警戒してるんだ」

「王都なのに?」

それは驚きだ。

魔物は基本的に人のいない僻地にでる。

山とか海とか森の奥深くとか。

人の使う魔法が、それだけで魔物除けになるという学説もあるくらいで。

特に、王都には幾重にも結界魔法がかけられていて、魔物はあまり出てこないものだ。

「びっくりだよね」

王都生まれ王都育ちのトーマスはあまり魔物を見たことがないらしい。

どこか危機感が薄い。

「それ、トーマスが巡回してどうにかなるものなの」

「なるわけないよ」

トーマスが首を振った。

「騎士団から人が来るんだよ。僕らは魔物を見つけたら魔法石で足止めして騎士を呼ぶ」

種類によっては魔法石で間に合うものではないのだが。魔物は素早いし、飛んだりするのだ。

「本当にやりたくない。剣術してるって言っても、まだ素振りとかだからね?無理があるよ」

「じゃあなんでやらされるの」

「だから、当番のノルマがあるんだってば」

騎士団は国内で一番の武力を誇る組織ではあるが、基本的には魔物には自警団が対応している。

うちのような伯爵領であれば、伯爵家の兵士たちが領内を守る。

領主の居ない都市は、騎士団と商人たちで自警団を作っている。

商人は剣が使えない人も多いので、お金で警備の冒険者を雇ったりしているのだ。

それでもどうしても人手が足りない時は、商店街などに要請がある。

クレイン商会は大きい商会なので、王宮や騎士団からの頼みで人手を供出させられるのだそうだ。

「夏場は忙しいからさあ。そこそこ大人で学生って便利屋だよね」

「へえ。面白そう。私もやってみたい」

そう言ったのは冗談ではなかった。

私は常にレベルアップを図らねばならない身の上なのだ。

常に我流というか、実家の伯爵家の流儀で魔物退治をしていたが、騎士団や警備の冒険者がどうやっているか

見てみたい。

「それって私も参加できる?」

「遊びじゃないんだよ。そんな危険なところに女の子を連れていけないよ」

「街中に出るんでしょ?どこに魔物が出るかなんてわからないじゃない」

危険そうな場所を騎士たちが警戒していても、安全だろうと思われたところに出現したりするのが魔物というものなのだ。

「でも、実際に魔物が出たら、守ってあげられないかもしれないし」

そんなことを言われても。

私とトーマスだったらトーマスのほうが守られる側だよ。

「言っておくけど、田舎育ちの私のほうが魔物慣れしてるからね。バンバンやっつけちゃうよ」

「だとしても、来てくれる騎士団の人が許可を出さないんじゃないかな」

それは。

私は自分の見た目を知っている。

とびきり可愛い15歳の少女。

これは連れて行ってもらえないかな。

そう思ったが、世の中というのは救世の乙女に都合よく出来ているものらしい。

当日、待ち合わせの場所現れたのは、とても見知った顔だった。

「なんだ、リリーナ。休みなのに、まだ家に帰ってないのか」

颯爽と現れたのは、騎士団の若き鷹、将来を嘱望される騎士、クロード・ヴェルデガン。

私、リリーナ・ヴェルデガンの実兄である。

「父さんが寂しがるぞ。母さんは兄貴の嫁取りに夢中だけどな」

「結婚するの」

「まだ見合いだな」

じゃあまだいいか。兄嫁様がいらっしゃるというなら、急いで帰らねばならないが。

私は年に2回しか帰省するチャンスがないので、次のチャンスが春になってしまう。

「兄さんは帰らないの。騎士団も交代で夏休みでしょ?」

「ここの魔物が片付いでからだな。騎士団内でノルマがあるんだよ」

ここもノルマか。

大変だな。

集合場所には私とトーマス以外にも10人くらいいて、数人ずつ組になっているようだ。

兄はあまり騎士団っぽくない人と一緒だった。

年齢は兄と同じくらいか。大柄で筋肉質、ガタイはいいんだけど、あんまり剣を使う感じの人ではない。

日焼けもしていなくて、屋内で仕事をする人のような肌だ。

そして、どこか見覚えがあるような。

「大きくなったなあ。俺のこと、覚えているか」

覚えていません。

大きくなったということは、子供のころの知り合いか。

「ユーリだよ。パン屋の」

考えている間に兄が正解を答えた。

「ユーリ!」

幼馴染で攻略対象の。

こんなところで出会うとは。

「なんで、こんなところに?」

「商店街にもノルマがあるんだよ」

ユーリは今は父親と一緒にパン屋をやっているらしい。

規模を大きくして、かなり儲かっているそうだ。

それもあって、商店街のリーダー的な役割を任せられて、必然的にこういうときも駆り出されるという。

「リリーナは店に行ってないだろう。かなり変わったぞ」

「俺が菓子も始めたんだ。単価の高い物を売りたいと思ったんだが、なかなか評判がいい」

へー。

兄とユーリがそんなに親しいとは思わなかった。

しかし、よく考えなくても、私の幼馴染は兄の幼馴染だ。

男同士だから、兄のほうが親しくてもおかしいこともない。

そうか。兄と出かけたりしていたら、ユーリとも会ったりしたのだな、と、結局、合わなかったゲームを思い出した。

兄の指示で、私はユーリとトーマスと組むことになった。

2人は絶妙に微妙な顔をしていた。

君たち失礼だよ。

私は世界を救う女なのだ。

それ以前に、地元で魔物退治をしていたのだから、おまえらみたいな都会っ子より経験値を積んでいるのだよ。

「クロードは来ないのかよ」

ユーリが不安そうに言った。

「一緒に行くつもりだったんだけど、今朝になって、川でバジリスクっぽいものを見たって話になってんだよ。

 それで急遽、騎士団長も来るらしくて」

バジリスク。トカゲのような魔物で水際に出るらしい。

大きくはないが猛毒を持つ危険な生き物だ。

見たことはない。見たい。

気持ちが顔に出ていたらしい。

「おまえ、今、見たいとか思っただろう。おまえが言うと本当に出てくるから勘弁しろよな」

実の兄は遠慮がない。

言われてドキっとした。

私はものすごく魔物に遭遇するのだ。

レベルが上がりやすいのはヒロインのチートだけど、魔物と遭遇するのもおそらくチート。

遭遇してやっつけるとレベルが上がる。

訓練でも上がるけど、実戦だとものすごく上がる。

私はレベルを上げねばならないので魔物とも遭遇しなければならない。嫌な話だ。


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