第一話~Legend of guns~
荒廃した建物の間を男と女が駆けていく。男の手にはアサルトライフル、女の手にはスナイパーライフルが握られていた。
「そういえば、ヴァイオレットはHWOやらないの?」
「なにそれ」
「えっ⁉︎知らない⁉︎今話題沸騰中のあのゲームを知らない⁉︎」
「悪かったですねぇ。知らなくて!」
男と女が前方の人影をマークする。
「で、なんなのそれは」
「ファンタジー系のMMORPGだよ。仲間と一緒にボスを倒したり、ステージを探索するゲームだよっと、こいつらは俺がやるわ」
「ありがと。そっかー、で、それがどうしたって?」
男のアサルトライフルが火を噴く。
「だから、ヴァイオレットはやらないのって」
戦闘中とは思えないほど緩い雰囲気のまま男はプレイヤーの頭を撃ち抜いていく。
「私は別にいいよ。このゲームを飽きることはないと思うし」
「さいですか。まぁそんなこったろうと思った」
男が倒した敵の死体を女が漁っていく。
「別にいいでしょ。お、この人スコープ持ってんじゃん、ラッキー」
「やっと見つけたか、さっさといもろうぜ。俺疲れたわ」
「男のくせに体力ないよね」
「ヴァイオレットよりかはあると思うけどね」
「ブルークは男でしょ、女のあたしより体力があるのは当たり前」
「って言いながらヴァイオレット息乱れてないじゃん、俺と同じくらい走ってるくせに」
「あら、なんのことかしら」
「調子いいんだから。まっ、冗談はさておき、とりあえずこのマッチ終わらせようぜ」
「いいよー」
「じゃあ安地目指しますか」
「今日は負けないよ!」
「威勢がいいねえ、うん、若いって素晴らしい!」
「じじくさいよ」
ヴァイオレットは男にそう吐き捨て安地を目指して走り出し、それに続いてブルークも走り出す。
ブルークは走りながら目についたプレイヤーたちの頭を撃ち抜いていく。ブルークは簡単そうに行うが、常人ではまず無理だろう。この手のゲームは自分自身が銃を握り、走って撃つ。つまり反動は自身の腕に、走れば少しずつ疲れてくる。ゲームなのでそこら辺は結構やりやすくしてくれてはいるがここまでの射撃精度は常日頃から1日の大半を練習に捧げているプロゲーマーのブルークだからこそできることだ。
ゲームが全盛期を迎え、プロゲーマーの人口は膨れ上がっていた。しかし、人口が多ければ仕事が回ってこなかったり、大会で結果をのこすことができない選手も多数おり、不安定な職と囁かれていた。だが、本当に上手い人は年収何億と稼いでいるため、子供たちにとっては夢のある職業である。
ブルークは年収何億と稼ぐタイプのゲーマーだ。彼は幼い頃からゲームに触れ、その才覚で日本トップのプロゲーマーに上り詰めた実力者である。
「ヨシっ、今ので10キル目!」
隣を走るブルークが楽しそうに告げる。
「相変わらずはやいね?」
「プロゲーマーを舐めるなよ?」
ブルークと会話しながら私も遠くに見えるプレイヤーの頭を撃ち抜いていく。
「ヒュー、あいっかわらずおっかないねぇ」
「ブルークが近くの敵を全部倒しちゃうからでしょ」
「いいじゃん。俺が近くの敵を倒して、ヴァイオレットが遠くの敵を倒す、ほら、バランスいいでしょ?」
「こういうのは理屈じゃないの!」
「おーう、怖い怖い、っと、そろそろ安地に入るぞ」
「オッケー。それじゃあ手筈通りに」
「了解」
安地に入ってすぐ建物内に突入する。
「クリア」
「こっちもクリア」
「よしっ、じゃあ一気に終わらせますか!」
三階建ての建物の屋上に登った私は手に持っていたスナイパーライフルを構えて寝そべる。そこからはワンサイドゲームだった。
目に見えるプレイヤーたちの頭を次々に撃ち抜いていく、ブルークも建物の下で走り回りキルを拾っていた。遠くの方の建物の影に隠れているプレイヤーを見つけ、頭を撃ち抜く。すると目の前にCHAMPION の文字が浮かぶ。
「あれ、今のが最後か」
「ヴァイオレットー、何キルー?」
「12キル!」
「俺は15!また俺の勝ちだな!」
「ぐぬぬ、スコープが見つかるのが遅かっただけだし、もっと早くスコープが見つかってたら私が勝ってたしー」
「負け犬の遠吠えだなw」
「うっさい!」
と、ブルークと罵り合っているとロビーのようなところにワープした。
「もう一回!」
「うーん、どうしようかな」
「ふーん、逃げるんだ」
「そうじゃないけど、予定あるから俺はこれで落ちるわ」
「えー?まぁしゃーないか」
「わりいな、じゃ、また明日」
「ほーい」
ブルークのアバターのポリゴンが音を立ててくずれていく。
「さてっと、私はもうちょいやろうかな」
と独り言を呟き、Readyのボタンを押す。
このゲームはアラタキのフルダイブ技術を応用し作られたサバイバルゲーム『Legend of guns』で、リリースから5年以上経った今も10秒あればマッチングするほどの人気ぶりだ。ソロ、デュオ、トリオの三つのモードがあり、ランクマッチもある。ランクは下からアイアン、ブロンド、シルバー、ゴールド、ダイヤモンド、ビースト、私たちは最高ランクのビーストだ。ブルークが落ちたからソロモードに変えてまた広大なステージへとワープしていく。
「さて、あと何回勝てるかなー♪」
この後、ヴァイオレットの快進撃は朝まで続いた。