普段どれだけ非常識な連中と付き合ってると思う
眼の前の青年は『やれやれだぜ』ってな表情で肩を竦める。
なんかムカつくな、コイツ。
「僕はアレキサンドリア。アッシュと呼ぶが良い!!」
うん、知らん。ギルドマスターも同じく首を傾げている所を見ると、彼にも分からないんだろう。
「……家名は、無いのか?」
「今は、無い。ただのアッシュだ」
詰まりは、“元”貴族って事かね? 名前を聞いても、やはり記憶に引っかかる所は無い。特にアレキサンドリアだなんて豪勢な名前だったとしたら、一度聴いたら忘れんと思うんよね。
恐らくは、何かやらかして勘当されたか、後継者では無かったから、市井に下ったかってぇ所なんだろうけど、圧倒的に前者な気がする。今までの言動からして。
てか、“現平民”だったとすると、俺に対する暴言もそうだが、王家に対しての批判同然の物言いも含めてかなりの罪に成るんだが、コイツ、その辺分かってるのか?
分かって無い様な気がするなぁ。
「俺が【ドラゴンスレイヤー】なのは紛れもない事実だし、百歩譲って、地位を返上したとしても、お前に譲る事は絶対にない」
「何故だ!! 僕ほど聡明で政治にも強く、領主に向いている者など居ないと言うのに!!」
いや、知らんがな。
「俺はお前の事なんざ知らんし、お前の能力がどうなのかも分からん。ただ、唐突に冒険者ギルドに乗り込んで来て、例え口論になったんだとしても、そうやって相手を叩きのめして悦に浸る様な輩は人の上に立つに相応しいとか思わん」
「何を!!」
瞬間湯沸かし器かな? アレクサンドリア……まぁ元貴族の青年は、一瞬で頭に血を上らせると、エライ勢いで、俺に殴りかかって来た。もしかして、能力を疑われるのが地雷か?
この手の奴って、口だけって事も多いけど、有能だとほのめかすだけあるのか、下手な冒険者よりも瞬発力は速い。
「とは言え、流石に音速を越えるってぇ事は無い様だがね」
なぁ、バフォメットクラスだと、攻撃だけでソニックウエーブが来るんだぜ? 俺の前までダッシュした青年は、怒りで短絡に成って居る筈なのにも拘らず、クレバーに左ジャブから入り、俺との間合いを測りに来た。が、こちとらバフォメット相手に音速でのやり取りすらして、ついには冒険者ギルドでの模擬戦を禁止された腕前だぞ? その所為も有って、バフォメット相手の模擬戦は、家の訓練場でやるのが通例に成っちまったんだからな?
そう言えば、修行の旅に出るって言ってから、バフォメットと会ってないな。まぁ、アレの事だから心配とか要らんのだけど。
それはそれとして、ジャブをあえて受け止める。素手のジャブなんて、腰の入ってない“軽い”拳の筈なんだが、結構な重さのあるパンチだ。さっきも思ったけど、結構強いわ。コイツ。とは言え、拳ダコの様な物も見当たらないから、努力してってよりは天賦の才能ってぇ奴なんだろうな。
左ジャブを受け止められた事で、少しは焦るかとも思ったが、そこは手をホールドされてる状況ってのを嫌がったらしく、俺の脇腹に膝蹴りを打ち込もうとする。俺はそれを掌で押し込むように逸らし、左手をホールドしたまま捻り込んで地面に抑えつける様に倒れ込む。
形状としては腕がらみ。ただし、立ち技から捻り落とすやり方は、相手の腕や肩を破壊する可能性も有って危険だ、が、まぁ、構わんだろうさ。どの道この領地で刑罰決めるの俺だし。
予想通りと言うか何と言うか、見た目通りにそれ程筋力は無いっぽい。その為、力で強引にひっくり返すってぇ事も出来ん様で、肩口を押さえつけられるままに唸り声をあげている。
「ぐっ、止めっ、もうっ、ぅぐっ!」
まぁ、暫く止めないけど。




