いや、だから誰だってばよ
「いや、無理」
「何故?」
本気で首を傾げられてるけど、むしろ何故そんな事が可能だとか思えるんだろう。もしかすると、それが可能な立場に居るから理解できないとかって話か?
そもそも、未だにコイツが何処の誰かも聞いてないんだが、自己紹介を忘れてるのか、それとも、誰もが知ってて当たり前な人物なのか。
自分が譲り受けられて当たり前だとか思ってるってぇ事なら、少なくともこの国の貴族だとは思うんだが、ただ、近隣の領主で集まった時には、こんな顔は見た事が無いし、普通の貴族であるなら、余程の事が無ければ、『欲しい』『あげる』なんざ成立しないと分かるだろうが……
そもそも貴族ってのは、家臣である上で自身の領地を持つ“主”でもある。
確かに国と言う枠組みの中で言えば、全ての土地は国王の物ではあるが、だからと言って、その全ての土地を国王一人で管理出来る物ではない。
だからこそ、各土地の管理を行う者として、その大きさや重要度に合わせた爵位を決め、それを家臣である貴族に治めさせる訳だ。
この世界の通信技術は、また未発達で、各領地で問題が起こった時、一々国王に意見を聞いていては、対処が遅くなるし、国王だけに仕事が集中しちまうから、土地を任された各貴族は、ある程度の裁量の自由を認められて居る訳だ。
その裁量の自由の中には、自治やら事業やら、領地の領堺線の線引き……なんて物も含まれている。ぶっちゃけて言えば、『戦って奪っちゃっても良いよ』って言う自由も有るよって事、もっとも普通なら、力尽くで奪うなんてすりゃ、周囲の領地の貴族も黙って無いから、少し境界線が変わる位か、もしくは傘下に入るって位で治めるんだがね。
まぁ確かに、譲渡だったり、権利の売買だったりして、領地の新しい線引きも出来るは出来るけど、よっぽどの事でもない限り、普通の感性をしてれば、そんな無責任な事なんざせんのよね。
全くの手つかずの土地じゃあるまいし、領地ってぇ事は、詰まりはそこに住んでいる人間が居るってぇ事な訳だ。
領主だってのなら、そこに住んでいる人間もまた、その領主の財産でも有り、それも有って、領主はこの住民に対して生活を担保する義務がある。少なくとも、俺はそう思ってる。
だからこそ、無責任に領地や住民を放り出す様な真似なんざ出来んのだわ。
「あのさ、そもそもお前は何処の誰さんよ」
「なに?」
いや、そんな不思議な物を見た様な顔をされてもさ。
「僕の事を知らないとか、全く、これだから蒙昧無知な輩は」
あれ? 知ってて当たり前系? そう思って、ギルドマスターの方を伺ってみるが、ギルドマスターも怪訝そうな顔。詰りはギルドマスターも知らないってぇ事か。




