頼りになる身内
「音楽でしょう? なら、私が主催するわ。サロンの音楽会の延長だと思えば、それ程負担も無いでしょうし」
「良いのですか?」
「ええ、当然、お手伝いはしてくれるんでしょう? トールちゃん」
「それはもちろん」
俺が音楽祭を行う為の人間を探していると聞いた第二夫人が、そう声を掛けてくれた。こんな事で、ルールールー経由で国王陛下に『誰か良い人いませんかね?』とか、お伺いを立てるってのも何だったし、ただ、他に音楽ってジャンルで助力を期待できる知り合いって居ないってのも本当だったんで、正直助かるんだけどね。
「そもそも、私はトールちゃんの後見人と言う事に成って居るのだから、困った事が有れば相談してほしかったわ」
第二夫人はそう言うけど、それでなくても社交界にあまり顔を出さない俺の代わりに、色々と手を尽くしてくれているんだから、これ以上手を煩わせるって事に抵抗があるんよな。
とは言え、第二夫人的には、俺に助けて貰ったってぇ事やら、血の繋がり的な事も含めて、こっちに頼られないって事の方が辛いっぽいんだが、それでもこう、男の子としての意地的な物もなぁ? 何と言うか、母離れできていない様な感じとか、特に自分をマザコンであるとは思ってはいないけど、ちょっとは格好良い所を見せたいって言う息子心とか、こう、色々とさぁ。
ただ、今回に関しては本当に他の伝手とかも思いつかない状態だったから、かなり助かるってのも確かなんよね。
正直な所、未だ一般市民に『自ら楽器を演奏して楽しむ』ってぇ文化が、あまり浸透してないって事も有って、奏者が集まらないって言う懸念も有ったから、その辺りもフォローできる第二夫人の存在は本当にありがたい。
何せ、俺の知ってる中で楽器の演奏が出来るのって、イブとキャロ、ファティマ、ラミアーとセフィ、それと“D”達くらいか? まぁ、俺もリコーダーとかオルガンとかカスタネットとかなら、どうにか? いや、前世で手にした事の有る楽器って、その位なもんなんよ、それも授業でなぁ。それ以降って、音楽アプリ使って音階入力してってのが殆どだったから、楽器を扱うって言うジャンルとは別もんだったからさぁ。
あ、個人的にハーモニカはやってたがね。そう言えば、この世界では見た事のない楽器だなぁ。作って貰うか親方に。分解メンテとかもしてた関係で、構造は把握してるし。
それはそれとして、音楽祭の企画等に関しては、第二夫人が担当してくれる事に成ったんで、一任する事にする。まぁ、手助けはするけど。
「ああ、そうだ、音楽祭を行うに際して一つお願いがあるんです」
「何かしら?」
俺の言葉に第二夫人が首を傾げる。
「平民も参加出来る様にして欲しいんです」
そもそもがドワーフ連中が作った楽器を家の子達に使って貰いたいって望みから発生したお願いだし、そうなると、一般市民が参加できないってのは、ドワーフ達の願いとも食い違っちまうと思うしなぁ。
第二夫人の人脈に何かがあるとは思っては無いが、それでもサロンの延長って事に成ると、その関係者ってぇ事な訳で、そうなると貴族連中って事に成っちまう訳だから、その繋がりでって事に成ると、市民ってか平民の入り込める隙が無さそうなんよな。
俺がそう言うと、第二夫人はくすくすと笑って言った。
「この街の住人が楽しむ為の企画ですもの、それは当然だわ」




