街を征く
遅くなりました。
申し訳ない。
俺の横を歩くイブが、果物売りのおばちゃんに『これ、食べとくれ』と、梨の様な木の実を貰う。まぁ、イブだけじゃなく、俺にもって事なんだろう。一つはイブに、もう一つは俺に渡して来た。ついでにミカとバラキにも、半分に切った何かの実を。
「領主様、ちゃんと食べて元気でいておくれよ? 何時までもここを治めてくれないと、あたしゃ困っちまうからさっ!!」
「そうだな」
軽く応えて木の実を齧る。うん、甘酸っぱい。森の中で食べた同種の木の実はもっと酸っぱかったし、えぐ味も強かった。
品種改良までしてるのかは分からないが、そう成る様に、甘みの強い木を優先的に育てたり株分けとかをしてるのかもしれない。
事あるごとに街を散策しているからか、俺の顔を覚えている町の人も多くなったように感じる。まぁ、顔以前に犬と美術品型のゴーレムを連れて歩いてる様な輩なんぞ、俺以外いないんかも知れんが。
変わって行く街並みを見ながら、ミカとバラキ、イブとファティマと冒険者ギルドへと向かう。
区画整理での歓楽街の移設は順調に進んでいる様で、それらしいお店もチラホラと。もっとも、歓楽街とは言っているが、別に、そう言ったお店ってぇばかりじゃ無い。酒場やら宿屋やらもそうだし、所謂、旅人なんか向けの、お土産なんかが売っている様な店もこちらにある。
ただ、それ以上に目立つのが、闘技場の存在だろう。当初、予定になかった施設だが、対決やらプロレス興行やらってぇ見世物が増えた事も有って、それらを行うような施設も必要だろうって事で急遽、計画に加わったんよね。
余所の街なんかだと、こう言った闘技場で、まぁ、剣奴同士や魔獣なんかを死ぬまで戦わせる様な、血生臭い様な催しなんかもしてるってぇ事も有るんだが、少なくとも俺の街では、俺基準で『倫理的にそれどうよ?』ってぇ様な事はしない予定ではある。
それに伴って、闘技場の周囲は広く取って公園にして貰った。俺の前世での記憶だと、こう言った場所は人が集まる関係上、一時的に人口密度が増える事に成る。そうなると、ぶつかったとかぶつからないとかの喧嘩やら、スリなんかの犯罪やらが横行する場合とかも有るだろうからな。
それらを防ぐ為にも、なるべくスペースが取れる様にして、見通しが良い方が、抑止力に繋がるだろう。
闘技場を作りたいと言ったのは商業ギルドを始めとした各代表なんだから、その代わりに、俺の意見も聞いて貰った形か。
急な都市計画の変更で、各所に迷惑を掛けたが、やるからには良い物を作って欲しいと思うし、何より俺の街でもあるから、そこの住んでいる人間が楽しく生活して欲しいとも思う。
住んでる住人が楽しそうで幸せそうであれば、きっとその街は良い町なんだと思うからなぁ。
「トール、様、楽、しそう」
『【同意】私も、そう見えます』
「わおん!!」
「わん? わん!!」
「そう、か?」
自分では良く分からんが、皆がそう言うならそうなんだろう。




