どう反応した物だか
遅くなりました。
こう、オチが、オチが決まらず……
申し訳ない。
「できれば、我々にもその英知を分けて頂きたく……マイロード」
「え? 何が?」
「何やら隣国の公爵子息に、マイロードの戦闘英知の一端を授けられて居られるとか」
「あー、プロレス技の事か」
俺にそんな風に声を掛けて来たのは、誓狼騎士団のアルフレド。そう言えば、コイツも公爵子息だったっけか。
取り敢えず、高身長で美形なコイツが、俺と視線を合わせる為か片膝をついて頭を下げて居るのは、あたかも騎士物語の様な感じでサマに成ってるのは確かだ。
ただ、どうせなら執務室とかでやって貰いたかった。領主館の廊下でやりやがるから、目立ってしょうがない。
遠巻きに眺めるメイド達がキャイキャイと耳打ちし合ってるしさぁ。
一緒に歩いてるミカとバラキも、『どうするの?』みたいな感じで俺を見上げる。後ろに侍ってるファティマは佇んでるだけだけど。
ミカとバラキをワシャってから一呼吸吐く。
元々貴族令嬢からの圧倒的な支持を受けて、熱烈な秋波を受けてたアルフレドは、もう、こう言った視線は慣れてるんだろうが、俺はあんまり熱のこもった視線で見られるのって、慣れんのよね。
『【嘆息】いえ、マイマスターも結構な物ですよ?』
え? そうなの? 俺、もしかして鈍感系?
『【解説】敵意と殺意が無い気配には疎い方かと』
いや、好意だって分かってるねんで? その上で、あえて触れない様にしてると言うか……だって現状、恋愛感情的な物に対しては応えられんし。
ああ、そんな風に考えてるから、無意識に流す癖に成ってるのか。でもなぁ……まあ、その辺は色々と藪蛇に成りそうだから置いとくけど。
「……取り敢えず、話を聞くから、執務室行こうか」
「イエス! マイロード!!」
そう言ってとろける様な笑みを浮かべるアルフレドに、眺めていたメイド達が黄色い悲鳴を上げた。
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「とは言え、良いよって言うだけじゃ終わんないよね?」
「そうですね、出来ればマイロードに御指導頂ければ」
結局の所、技自体は見せなきゃ分からんだろうし。指導は構わんのだが、その為の時間を取られるのがな。俺の、と言うより、アルフレドの方の。
プロレス技ってのは、ある種のエンターテイメントであり、ショー的要素を含んでいるって事も有って、技一つで必殺って様な効果の有る物はほぼないんよね。それでもやはり、相手を痛めつけられる物な訳だから、決して危険が無いってぇ訳でもないけどさ。
騎士、兵士ってのは、ある種の暴力装置であり、その武力を背景にした治安維持装置でもある。だからこそ、効率よく相手を倒す事が自身の身を護る為って事でもあって、より殺傷能力を高められる様に、その修練を行う訳だ。
「そう言う意味ではプロレス技ってのは、その対極にあるからな」
エンターテイメントであるがゆえに、アピールし、派手に魅せる。殺傷するリスクは抑え、だからこそ、単純な“痛み”を与え、スタミナを消耗させる為の技に特化する。
それ故に、前世では『八百長だ』『見世物だ』なんて誹りも受けた訳だが。
そもそもプロレスが、そう言った痛みやら疲労によって相手を動けなくさせて、その勝利を掴むってぇ闘技なんだから、それらは見当違いも甚だしいんよね。
取り敢えず、そんな事を言う輩は、最低3分間は全力で動き続けたり、鉄板とまでは言わんが、板の間でダイブして全身をを打ち付けてなお、それでも即座に動けるかって事を試してから言って欲しいんだわ。
だって、プロレスラーってのは、そう言う事をやり続けている人達でもある訳なんだから。
話がそれた。兎も角、最終的には一撃必殺であるべき騎士達の訓練と、対象のスタミナと自身のスタミナを削り続ける事に成るプロレスとでは、この方向性ってのが違って来るからな。まぁ、護るってのも騎士の仕事ではあるけど、プロレスの技ってのは、また、それとも違ってる訳だろう? そもそも、俺が甥っ子君にプロレス技を教えても構わないと思ったのは、殺傷を目的にするは即効性の薄い技術でもあるからなんだし。
「騎士団が、その目的の方向の違う闘技の練習に時間を使うのもどうかと思うんだわ」
俺がそう言うと、アルフレドが苦悩してるかの様に眉間に皺を寄せる。
「ですが!! あの無法者達だけがマイロードを優占してる等、耐えられないのです!! 私がっ!!」
えぇ……




