一寸むしり取ろうかと思ってます
流石にこの仕打ちはどうかと思うんだわ。俺に対してって事では無く、第二夫人に対してのそれがさ。
確かに抑止力としての兵士こそ居た訳だが、実際問題として機能しているとは言い難い状態だった訳だ。
これ、俺が居なかったら、下手すりゃ、家の娘達も、第二夫人さえも犠牲になてった訳だからな。
これが事前に、そう言った危険が有るってぇ説明をしていたなら兎も角、来てから初めてこっちが認識できる状況だったってのがさ。つまりは襲われても構わないってぇ事な訳だよ。
どれだけ第二夫人を馬鹿にしてるんだか。
いやしかし、道理で一行の中に侍女やメイドが居ない訳だわ。被害者を出す事前提な訳だからな。
と言うか、やっぱり事情なんざ聞かなきゃ良かった。聞きさえしなけりゃ、速攻で再起不能にした挙句、向こうの国に対してシカトを決め込む事も出来たんだがね。
送った厄介事のその後の行方が分からないとなれば、ファルトヘルト王国としても気が気じゃ無かっただろうに。
その上で正式な外交筋から事情を得る事も出来ないと言うね。つまりは、切り札を握れる立場に成れたんだが……
「いっその事、全部始末しちまった方が楽なんだがなぁ」
俺の言葉に、使者がビクリと反応する。いや、まぁ、そんな事はしないけんどもさ。
「取り敢えず預かりましたってのは、伝えてくれるかね?」
「は、はい」
「……トールちゃん?」
あからさま安堵した様子の使者さんと、訝し気な第二夫人。
「じゃぁ、しばらくゆっくりして、旅の疲れを癒したら、戻って貰って構わんよ? 当然、兵士は置いてってくれるんだろう?」
「は?」
驚いたような使者さんの様子に、俺は片眉を上げる。
「だってそうだろう? あの数の兵士が居なけりゃ抑えられないってんなら、置いて行ってもらわなけりゃ、対処の仕様がない訳だからな」
「そ、それは!!」
「【ドラゴンスレイヤー】が居るから大丈夫だなんてことは言わんでくれよ? そもそも、そっちの言う【ドラゴンスレイヤー】ってのが、あの令息を抑えきれるってぇ確証があったのか?」
「しかし、実際に!!」
使者の言葉に、俺は大きく溜め息を吐いて見せる。
「それは、結果論だ。そもそも、こちらが抑えきれると言う確証があったならば、この人数の兵士を同行させる事など無かっただろうし、お世話をさせる為のメイドも付けて居た筈だ」
「そ、それば長旅に成ると言う事を考慮して……」
「ならば、なおの事、世話をする者の存在は不可欠だったと思うが?」
恐らくだが、先に説明をしなかったのは、こちらに被害を出させる為だったんだと思うし、万が一抑えきれた場合でも、甥っ子君を無傷で捕えるなんて事は不可能だったと思ってたんだろう。
だからこそ、いや、下手すりゃその事に付け込んで、甥っ子君が理性を失ってる事すら、こちらの所為にする心算だった可能性だってある。
弱ってる所にとことん漬け込むのが外交ってもんらしいし。いや、俺はあまりそう言うのは好きじゃぁ無いけどさ。
「目録の品々と、謝礼の金は、慰謝料として貰っておこう。何せ、こちらに絶対に必要な情報を明らかにしていなかったんだからな」
「そ、それは……」
「まさか、そもそもこちらに被害を出させようとして居たと?」
そう言うと、使者さんは黙ってしまった。いやいや、外交としてそれはどうなんよ。まぁ、この使者さんは伝令以上の役割は無かったんだろうけどさ。
そもそも今回の目録も謝礼金も、所謂『見せ金』
のツモリだったんだろうさね。存在はあって、ちゃんとやる気はあるってぇポーズは見せて、でも、実際には渡さないって言う。
ちゃんとした外交官が入れば、こんな簡単には行かなかっただろうけど、ただ逆に本当の外交の人間とか混じってたら、それこそ問題になる。
『何故、秘密裏に外交官が我が国に? まさか、間諜目的ですかな?』って感じでなぁ。
「まぁ、最低限、旅に必要な人数の帰還は認めますから、残りの方は、私の領地でゆっくりなされば良いですよ? 事が全て済むまで」
俺の言葉に使者さんが口の端をわななかせる。とは言え、流石に穏便にとは出来んのよ。これをなあなあで受け流してたら、向こうは増長するだろうし。
こっちとしても、たった一回こっきり、損をするだけでは済まさせる気は無いんだからねっ!




