一週間の間
待っててくれと言われても、それはリティシア次第だからなぁ。
そもそも、魔人族国から聖王国って、内湾を渡ってのショートカットでも一ケ月は掛るんじゃなかったか? 陸路だけだと、倍率ドンで。
まぁ、遺跡に潜る許可を得る為に数日かかるって言ったって、流石に一ケ月は掛らんだろうな。
俺の方から、「ちょっと待って」とも言い辛い。理由を尋ねられても、念話で話したら仲間が来るって言ったからっていって、信じて貰えるかどうか分からんからな。
でもまぁ、念話って所を出土品って変えて話してみるか。
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「まぁ!! それではやはりあの鎧もアーティファクトだったのですね!!」
予想外の話の通りの良さに、少し面食らう。てか、『やはり』、ね。
どうやらリティシアは、俺の魔力装甲も、遺跡で発見された品だと思ったらしい。自力の能力なのにな。
現在のオルネスティア公爵家は、当主であるリティシアパパが聖都で宰相をやってる為に、彼女の兄が代わりに取り仕切っている。
その関係なのか、俺に係る事は、リティシアに一任されてるらしい。
うん、まぁ、ご察しの通り、リティシア兄にも、貴族だって誤解されたわ。
でなければ、一介の冒険者風の男に令嬢を付けないわな。まぁ、俺、幼児だけれども。
「そうそう、ダンジョンへの立ち入りの許可が出ましたので、その、1週間後位に、探索を行いたいと思います」
「ああ、やはり延期は出来んかったか」
ファティマからの念話を受けた時点で、メイドさんにはその旨を伝えて貰うように頼んだんだが、ヤッパリ無理だった様だな。
まぁ、こればっかりはしょうがない。ダンジョンでなんか良いものを見つけたら、お土産に……って、それは拙いか。ああ、じゃ、内湾で新鮮な魚介類とか海藻でも見繕って……あ、そう言えばただの草木灰よりも海藻灰の方がアルカリ性は強いって聞いた事が有るな。
こっちで石鹸とか作ったら、ちゃんと固形に成るんじゃね?
そうなると、ヴィヴィアンに油が採れる植物を教えて貰ってって、アイツ、ソレも植物型魔物で教えたりしねぇだろうな?
と、今はそんな事を考えてる場合じゃ無くて。
「まぁ、しょうがないだろう、こっちは依頼を受けた側なんだからな。依頼主の意向を無下にする事は出来んさ」
申し訳なさそうにしているリティシアにそう言う。
と、リティシアがマジマジと俺を見る。
「? 何だ?」
「いえ、トール様は何歳なのでしょう? と。姿は幼い子供の様なのにも拘らず、雰囲気は、その老齢されている様に感じるので」
へぇ。中々に鋭いじゃないか。俺の中身がアラフォーだと見抜いたのはグラス以来2人目か? いや、リティシアは俺の年齢に確証がもてんだけだな。
「さてな」
俺の答えを聞き、リティシアは溜息を吐いた。俺と言う存在の核心は公都以外でそれ程隠すつもりは無いが、積極的に喧伝する様なものでもない。曖昧にしとくさね。
まぁ、ファティマやオファニムが居ない状態だと、俺の戦力的には半減に近いが、なんとかするさ。
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公爵家の訓練室を借りて、折角なので音の壁を踏み越えた時の感覚をトレースする為に練習を重ねる。
それで思い知るのが、あの時はオファニムのプラーナ増幅にずいぶん助けられて居たんだなって事だ。
生身の状態でプラーナ増幅を行うって切っ掛けが全く思いつかないんで、それ以外で同じ様な効果を期待するしかない。
取り敢えず、魔力庫……これもプラーナ庫だった訳だが、言い辛いし魔力庫で良いだろう。その魔力庫のキャパシティーの増量と、魔力庫へのプラーナの充填を積極的に行う事にした。
魔力庫は何と言うか、頭分の体の中の別次元に、器を用意して、それにプラーナを注ぎ込んでいる様なイメージなんだが、その器の容量を増やしたい訳だ。
これは、ラノベなんかで良く有る魔力を使い果たしたら総量が増えるって言う、いわゆる超回復の魔力版のソレとはちょうど逆と言うか、魔力庫に無理矢理プラーナを注ぎ込んで広げて行く様な感じで、強いて言えば、風船を膨らまして行く過程に近いか。
これがね、滅茶無茶『痛い』。
肉体的に痛いって事じゃないんだが、“幻痛”と言うか、それこそ体中がパンパン張って、神経が剥き出しになった様な痛みが襲って来る。痛風って知ってる? 俺も一回やったんだけど、あんな感じ。
最初これやった時、あまりの痛みで吐いたかんな。マジで。
傍から見たら、瞑想してて突然痛みにのたうち回ってる訳だから、足がしびれてジタバタしてるように見えるかもしれん。
さて、それと同時に練習してるのが、神殿でやった魔力装甲の上に魔力外装を纏うアレだ。
仮にエクステンドとしとこう。
そっちの練習もする。
まぁ、俺に期待されてるのは戦力な訳だから、その増強はできるだけやっておくさね。後になって、「もっとやっておけば」とか、後悔したくねぇしな。
そんな感じで、ダンジョン探索までの一週間は瞬く間に過ぎて行った。




