若しくは眷属
ヘッセンバルク公爵令嬢は、カタカタと震えながらも俺の前に立ち、冒険者の青年に立ち塞がる。震えるのも当たり前だろう。相手は剣を構えて居て、お嬢様は丸腰な訳だし。ただでさえ、研究職っぽい感じだし、荒事に慣れるどころか、荒事と対面する事すら無かっただろうさ!
「おいいいぃぃぃぃ!! 後ろに下がっててくれヘッセンバルク嬢!! 俺なら大丈夫だから!!」
「と、殿方っていつもそう言いますのね! 強がりばかり!! 聞きましたわ!! 今貴方、動けないのでしょう!!」
ハッキリ言おう、そんな事は無い!! 【フォートレス】を展開してたとしても、動けないなんて事は全く無いよ? そもそも、その感想、青年の偏った知識からの意見だし! 少なくとも俺には当てはまらんのや!!
だが、奇妙な首の角度で俺の方を返り見たヘッセンバルク嬢のお目々は、その縦ロールが如くグルグルと渦を巻いていた。あ、これ、テンパって、こっちの言葉が通じて無い奴だ。
義務感で飛び出しは良いが、どうして良いか分からず思考が飛んじまってる。取り敢えず、下がらせんと!
そんな事を考えてる最中にも、青年は剣を振り上げる。
それが振り下ろされる刹那、俺はヘッセンバルク嬢の手を取ると、護る様に抱きかかえ、【魔力装甲】を発動させたが、【フォートレス】で咄嗟に使っちまった所為で、まだ【プラーナ】を練り切れていない。練度が足りんせいでか、何時もよりかなり装甲が薄。こりゃぁ多少は斬られる覚悟が必要か? まぁ後で回復すれば良いだろうさね。いや、服は大穴開いっちまうだろうけど、まぁ『仕方なし』、だ!!
ガキイィィィィィン!!!!
『その心意気や善し!』
「アベル!!」
そんな俺の悲壮な決意を打ち破ったのはヘッセンバルク嬢のゴーレムであるアベルだった。青年の剣を鋼の手で受け止め、それを引き寄せると、バランスを崩して引っ張られた青年の顔をぶん殴った。
青年がもんどり打って吹き飛んで行く。見れば、その青年の仲間だった冒険者連中も既に無力化されて居る様だった。
後は、あの、出てこようとしてる邪神だけか。
最初に召喚をした術者は倒れたが、空中の罅は消える様子は無い。それどころか、何やらその罅から、黒いドロリとしたゲル状の物がしたたり落ちて来てる。
どう言う事だ? 既に召喚術としては発動してるから、今更術者が倒れた位では、術が止まる事は無いってことか?
ああ、違う!! そうだ、そうだった!! 邪神にとって召喚術ってのは、飽くまで目印程度の意味しか無いんだった!!
そこに行こうと思えば、出現する事自体に制限なんざ無いんだったわ!!
つまり、現状、既に目を付けられている状態ってぇ事じゃんか!!
だとすると、今までと同じ様に、ゴリ押しで消滅させる以外の方法が無いってぇ事か?
と、観客から悲鳴が上がった。何だ? と思ってそちらに視線を送ると、さっきしたたり落ちて来た黒いゲル状の何か、が、ヌルリと立ち上がっている。マジか!! え、何? あれか? 落とし子ってぇ奴かぁ!?




