やらせはせんよ
観客がザワリ、と騒めく。
俺と公爵家のお嬢様が出て来たからってぇだけが原因じゃぁ無く、その場に闖入者が有ったからだ。
好事魔多しとは言うけど、ここまで大会が上手く行ってたんだから、最後まで通して欲しいよなぁ。まぁ、このタイミングを狙ってたんだろうけんども。
「くひっ、大会の大盛況、お祝いを言わさせて貰いますよ。お陰様で、良い“負”の感情が集まってくれました、有り難うございます」
そう言いながら、俺とヘッセンバルク公爵家令嬢の対戦する舞台に上がって来たのは、さっき決勝戦で負けた冒険者の青年。
俺は、その青年と、ご令嬢及び司会のお姉さんとの間に、二人を護る様に立ち塞がる。が、青年は歩みを止める事無く、俺の前まで進み出た。
そして彼のパーティーメンバーらしき男達が……いや、単一パーティーじゃあねぇな、複数のパーティーの冒険者だな。そいつらが大会の警備をしている兵士を押さえて居る様だわ。
まぁ、こう言うのが紛れ込んでるだろうとは思ってたが、何と言うか、ここまで全く尻尾を出さなかったのは、これ、この大会で負けて悔しがる人間の【オド】を集めてたからか?
勝負である以上、勝ち負けが有って、本気でのめり込んで来た人間程、それに対する悔しさってのは大きくなる。スポーツマンシップ的な物ってのは有るにはあるだろうけど、それと、悔しさってぇ感情とはまた別なんよね。
『勝ちたい』『負けたくない』ってのは、より優れた遺伝子を後に残そうと言う本能に根差した感情だし、生物としてそこに拘る事が全く無いってのは、どっちかって言うと生命として何かが壊れてると思うんだわ。
それは兎も角、この場に出て、舞台に上がって来たって事は、狙いは俺かヘッセンバルク公爵令嬢か。まぁ、十中八九、俺だろうけど。
多分、大会付近に成って、俺ってか【ドラゴンスレイヤー】の悪評を広めたのはコイツ等だろう。俺を怒らせようとかってより、多分それを聞いた人間の劣等感を刺激したかったんだと思う。『大した事のない奴が優遇されて妬ましい』ってのも、『頑張ったのに負けちまって悔しい』ってのも、現状が、相手より劣っているって言う劣等感も含めての感情だからなぁ。
つまり、集めたかった【オド】は、それらに元付いた感情のエネルギーだったってぇ事な訳だ。
さてさて、この青年からは魔族的な雰囲気は感じない。だが、人間体の時は、ソレの隠蔽が出来るんだったか。この場だと、その辺りの判断が出来ないのがキツイが、さっきまでの事を考えると魔族である可能性は低いだろう。
だとすると……
「邪神崇拝者、か?」
俺がそう呟くと、冒険者の青年が、壮絶な笑みを浮かべた。




