このトール、大会の中で大会を忘れた
イイウタダナァ。
いや実際、上手いな、イブ。
今迄、この世界に無かった歌い方なのに。前世のそれと比べても遜色無いくらいに決まってる。
シンセサイザーのラミアーが、触れても居ない鍵盤を動かしてるなぁとか、ベースのセフィが、手の届かない弦を蔓で押さえてるなぁとか、ファティマのドラムスのリズムがメトロノーム並に正確だなぁとか、キャルとイブ、ギター、なんでそんなに上手く弾けるねんとか、色々ツッコミ所もあるけど。
……てかイブ、歌なら、単句切りでなくても言葉が出るねんな。
じゃ、無くて。
え? こんなもん、何時練習してたんよ! マジで!
楽曲の提供はファティマか? ジャンヌだと練習時間が足りん気もするし。
古代文明時、は、俺の前世の時代よりも文明度は進んでたみたいだし、文化的にも、この位の音楽は有ったと思うし。
いや、そもそもあの楽器類が古代文明の物な挙げ句、“D”達も、同じ様に演奏してたやん。
てか、あの楽器、置いてった奴だよな!? 勝手に使って良いんか!?
そんな事を考えながら、ふと客席の方を見れば、ヴァンパイアファンなー“D”と愉快な仲間達が、ハチマキとハッピ姿で、光る棒を振り回して居やがった!
いや! 何処からそんなもん拾って……あるぅえ? もしかして、ヲタ芸セットも古代遺跡から出できた資料から復元した物だとかなのかぁ!?
前々から思っていたが、何か微妙な所が似過ぎてね? 俺の前世と古代文明と! いやまぁ、その辺、考えても埒があかんから、放置するけど。
と、言うか、何と言う完璧なヲタ芸!! コレがまんま古文書とかに載ってたものだとしたら、考古学者の面目躍如だよね! むしろ、前に演奏した時、何であんなに微妙な感じだったんよ!! 今のヲタ芸が完璧すぎて、ちょっと気持ち悪い位だわ!!
たださぁ、“D”達の周囲の観客がドン引きしてるから、止めてくんねぇかな? マジで。
てか、楽器も引き取らんで、ヲタ芸やってるって事は、もしかしたら楽器はあえてこっちに渡したままにしてるってぇ事かぁ?
まぁ、家の屋敷に置いとく限りは、それ程邪魔には成らんのだが、楽器の価値を考えれば、コレからどうすべきかは“D”とキッチリ話しといた方が良いやな。
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疾走感のある曲が終わり、観客がスタンディングオベーションをする。
この世界で初めて聞いた歌い方だろうとは思うが、そういう事を差し引いても、町の人達の心に、かなり響いた様だわ。
実際、俺も聞いてて、良い感じだと思ったし。
舞台上のイブ達は、お互いに視線を交わし合い、『うん』と、頷く。
ファティマがバチをぶつけ合ってリズムを取ると、全員が、それに合わせて2曲目の演奏を始めた。
さっきの疾走感のある曲とは違い、ビビッドな曲調へと変わると同時に、センターマイクの所にいたイブが下がってキャルが出て来る。
へぇ、曲によってボーカルを変えるのか。
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いや、一寸待て! 余りに自然に始めちまってるんでツッコミ損ねたが、これ『対決』大会であって、こいつ等のコンサートじゃあ無いんじゃが!?




