トールくん(2歳)の冒険は今始まったばかりだ
マッチポンプが過ぎる感じだけんども、サイクロプスと言う脅威は俺の手で排除された訳だ。
眼の前には、唖然とする盗賊達と騎士団。本当なら、先ずは意思を確認したほうが良いんだろうが、さっきのサイクロプスとの遭遇で薙ぎ倒された兵士が、結構ヤバ目だ。
人間あんな風に吹っ飛ぶんだな。殴られたとこから低い放物線。
いや、俺が吹っ飛ばす場合、マンガかアニメみたいな飛び方すっからさ、ああ言う、地味にリアルな飛び方のが痛そうと言うか。
ああ、そんなどうでも良い事より、いちいち許可聞いてたら、多分持たんな。
悪いが、勝手にやらせて貰おう。
盗賊? 確かに倒れているが、そっちは放置だ。
「手を貸す」
そう言うが早いか、俺は倒れている兵士に駆け寄り、プラーナを強制活性させる。
「貴様!! 何を!!」
そう言って斬り掛かってくる兵士。
うわぁ、面倒くせえ。
俺は魔力装甲の密度を増して、無抵抗で剣を受ける。
ガキイイイィィィィィィン!
剣を振り下ろした兵士が、その手の痺れの為に剣を取りこぼした。
……『今、何かしたかぁ?』とか言うべきかね? いや、徒に煽ってどうする俺。なんかこう、悪役ムーブし過ぎだな。反省反省。
まぁ、冗談はこの位にしとくか。
「……俺にかまけてるより、盗賊を何とかしたらどうだ?」
その言葉に、騎士がハッとした顔で、他の兵に「好機だ!! 盗賊を討て!!」と号令をかけると、俺を攻撃した兵士の腕を掴んで、今にも俺に殴りかからんとしていた彼を止める。
「団長!! 何で!!」
「冷静に成れ!! 見ろ!!」
そう言って、俺が治療していた兵士を指さす。さっきまで大量出血で真っ青な顔をしていた兵士は、今は多少顔色が悪いものの、それでも穏やかな表情で気を目を瞑っていた。
恐らく、傷口も塞がっているだろう。
「あ、あああ、ああ……」
親友とかそんな相手だったのかね? 安堵した兵士が崩れ落ちる。色々と思うところはあるが、コイツだけにかまけてる訳には行かない。怪我人は、まだまだ居るんだからな。
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結果から言えば、盗賊は壊滅した。兵士の方にも幾人かの犠牲は出たがな。俺の生命力活性は、あくまで本人の生命力をブーストするだけだから、その力すら残っていない対象は助けられんかった。当然、既に事切れてた相手もだ。
当然だが、別に俺との面識がある相手って訳じゃない。だからと言って遣る瀬無さが無くなるって事じゃねえんよ。
まぁ、偽善者の苦悩ってやつだ。
「済まなかった。そしてありがとう」
俺が無力感に打ちひしがれていると、団長さんがそう声を掛けて来た。
言葉の前半は暴走する部下を押さえられなかった事で、後半は助力に関してだろう。
俺は、「いや、謝罪と感謝を受け入れよう」とだけ答えた。
ああ、駄目だな、ネガティブになってやがる。乗り越えろ、乗り越えろ、乗り越えろ、乗り越えろ!!
今が駄目なら、次に生かせ!! 今よりもっと成長しろ!! それが駄目ならもっと努力しろ!! 成長万歳!!
よし、少し前向きに成れた。
そうだ、俺には帰らなきゃならん場所があるんだ、帰還するって言う目的を達成せねば行かんのですよ!
俺は、団長に向き直る。
「俺にとっても、ここで人に出会えたのは行幸だった」
「それは?」
「ああ、実は俺は、遺跡の“扉”でここに飛ばされてきていてな」
俺が、そう話し始めたその時だった。
「ダンジョン、ですか?」
「お嬢様!!」
凛とした涼やかな声が耳朶に響いた。
見れば、騎士たちの護っていた馬車の中から、一目で高貴だと分かるケモ耳少女が降りてきた所だった。獣人かな?
うーん、貴族相手だと、流石に魔力装甲だと、失礼になるか? それとも、冒険者だと鎧姿でも普通か? って、今の俺、『冒険者のトール』じゃねぇじゃん。
ああ、いや、それでも、隠せるなら隠しとくべきか、俺自身が色々といわく付きだしな。
「もしかして、アナタ、ドワーフなのかしら?」
……あ、あー、成程、そう来たか。
俺の体格を見ての判断ね。公都にもドワーフは居る。だが、俺がドワーフに間違われた事は無い。当然だ。『冒険者のトール』は、普通に10歳前後の体格だし、素顔……と言ってもフードを深く被ってはいるが、その時は2歳児な訳だからな。
だが、この体格で鎧姿であれば、そう言う感想も出るのか。まぁ、太さ的には全然違うと思うんだがね。
「それは、答えが必要な質問なのか?」
「貴様!! お嬢様の質問を!!」
俺の答えに、お付きの侍女らしき女性が声を荒げるが、お嬢様はそれを諫める。
「よい、冒険者と言う人種は、自身の詮索を厭うと聞きます」
間違っちゃいない。実際、訳ありで冒険者なんて事をやってる連中なんて腐るほどいる。俺だってそうだし、リシェルだってそうだろう。
ただ、今の俺が冒険者かと問われれば首を捻るしかない。
何せ、今の俺は『トールくん2歳』であって『冒険者のトール12才』ではないからだ。
公都の、それも俺の所属している支部では、準冒険者の登録年齢は3歳からだが、それすらに満たない年齢な訳だな。
つまり、今の俺が冒険者と言う職業には付ける訳なんざ無いんだが……
もっとも、そんな事を目の前の御令嬢が知ってる事など有りえんからな。
だからこそ、考えうる情報の中で、最も可能性の高い物を口にしたんだろう。
でも、まぁ、挨拶もしないってのは流石に失礼だな。俺は、少し悪くなった空気を払拭するべく挨拶をする事にした。
「トール、と言う。さっきの言ったが、“扉”で飛ばされて来たんで、ここがどこなのかと、出来れば魔人族の国への行き方を知りたい」
魔人族の国と言う言葉で、兵士達が少しざわつく。およ? あまり仲の良くない国なのかね?
「トールとやら、貴方は、魔人族の所属の方なのかしら?」
「いや、魔人族の国から飛ばされて来たんで、そこに連れが居る」
「そう」
御令嬢はしばし考えてから、口を開いた。
「情報と、宜しければ帰る為の旅費を出しましょう。その代わり、冒険者として依頼を受けていただきたく思います」
神殿が崩れた今、もし魔人族国で“扉”を再建できたとしても、その出口は埋まっちまってるだろう。まぁ、俺の所為なんだけんどもよ。
そう考えると、この申し出はとてもありがたい……んだけどな。
「内容による」
「ダンジョンの探索です」
「お嬢様!!」
ダンジョンね、まぁ、遺跡の埋まってるのが魔人族国だけな訳じゃないんだから、他の国にも当然あるだろう。
……こんな話しといて、ここが魔人族国ってオチじゃねぇよな?




