運命の歯車には二種類がある『希望』と『絶望』だ
既に『決定事項なんだからねっ!』って感じに言ってのけたエクスシーアに、『ちょ、待てよぉ!』って言いたかったんだが、それに続く『高位貴族と我が君の『対決』だ、話題に成らぬわけが無かろう?』と言う言葉に、少しだけ納得してしまった。
まぁ、公爵家ご令嬢が俺に喧嘩を吹っ掛けて来たってぇ話題については、俺も公爵家の醜聞じみた感じに喧伝しときたかった所なんで、乗っても構わないかな? と、思ったんよね。
まぁ、こっちの色々な思惑に引きずり込まれるご令嬢には若干の同情心が無い訳でもないが、まぁ、そこは『君の御父上が悪いのだよ』って事で。
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「え? 『対決』大会の大トリですの?」
「そうです、それとも自信はおありに成りませんか? 同じ時期に始めた者同士ではありますが……まぁ、私の方は充分に訓練も出来ますから、実力に差がついてしまうのも仕方ないとは思いますが」
「っ! そそそそそそそんな事ありませんですの!! ワタクシにはアベルが付いているのですの!! 対策はキッチリして居ますの!! ……アベルが」
「ならよろしいですね」
「良いですの!!」
『お嬢……』
ここまで乗せられ易いと、色々心配しちまうんじゃが? 一応にも公爵家の御令嬢だよね?
『ゴーレム関係でなければ、もう少し理性が働くのだがね』
呆れていた俺の表情を読んだのか、アベルがそう言った。だとしても、これだけ分かり易い弱点を晒すってのもどうかと思うんだわ。いや、そこに付け込んでる俺が言えた義理じゃ無いんだが。
『御父上も、その辺りの事を心配していてな、ご当主なら、良い様にしてくれると、陛下からアドバイスされたのだよ』
国王陛下ああぁぁぁ!!!!
元凶アンタかいいぃぃ!!!! てか、自分の家臣同士を対立させる様な事吹き込むとか、何考えてるんじゃあぁ!!
『公爵も、『娘の成長に繋がるなら』と、『下手な貴族と絡んで大火傷を負う位なら、国王陛下の言に従って見るのも良いだろう』と……』
国王陛下からの期待が重い。俺ならそこそこ凹ませる位で手を打つだろうと思われてるってぇ事だよな。まぁ、否定はしないが。肉体的な瑕疵を残さず、精神フルボッコにする事には定評があるさね。
『【嘆息】マイマスターは“真正”ですから』
何が!?
『【確認】言っても?』
……そして、公爵さんの方も、そこまで織り込み済みって事なんね。恐らく、俺が公爵さんにやる程度の事じゃ、公爵家は揺るぎもしないだろうってぇ自信の表れでも有るんだろうけど。
まぁ、下手な貴族連中だと、公爵さんは兎も角、お嬢様の心身に瑕疵を付ける様な輩が居ないとも限らんからな。
その前に痛い目を見ておけば、そう言った弱点を突かれたとしても冷静に対処できる様に成るだろうって事なんね。
詰まりは、俺は出汁に使われた挙句に教育の為の教材でもあったと。いや、ある程度は想定して居たけど、どれだけ一つの行動に意味を含ませてんだか。
「公爵さんは、ここまで大事にされるって所まで読んでるんかね?」
『【ドラゴンスレイヤー】の知名度と、大会等と言う舞台が用意されている等と言う事までは読んではいないだろう』
つまり、公爵さんにも予想外だったと。まぁ、商人や冒険者に広まってるTCGの影響力ってのは、未知数だが、少なくとも結構な広範囲に、噂ってのは広まってる様だし、エクスシーア自身も広めようとしてるからなぁ。
そのプロ―モーションでもある『対決』の大会の注目度は、結構高いんよね。そのクライマックスともあなれば注目度的には、かなりの物な訳だ。
そして、それを観戦した商人やら冒険者やらは、ソレの噂を広範囲でばら撒いてくれるだろうよ。支店でカードパックを売る為に、製造工場を作る心算のエクスシーアにとっては、そう言った噂話の拡散は、むしろ望む所な訳だが……
「公爵さんにとっては、タイミングが悪かったってぇ事だな」
『今頃、頭を抱えているかもしれぬな』
まぁ、俺の知ったこっちゃ無いけどさ。




