正義は正しいが正しいからと言って正義ではない
遅くなりました。
「結論から言えば、そちらの提案を受ける事は出来かねます」
「何故ですの!?」
「確実にゴーレムが出土すると言う保証は有りませんし……」
ぶっちゃけ、ゴーレムが出たとしても渡す気なんざ無い。そもそもの話、家が財政難だって言うんなら兎も角、割と潤ってるからなぁ。
伊達に商会オーナーとかやって無いし、街の税収も右肩上がりだしな。正直な所、流入者も多いんだが、それでも多少手が足りないってぇ位には、仕事も有るんよね。特に今、区画整備真っ最中だし。
それに、その手のアーティファクトが出たなら、それらを解析して、新しい品物を作り出す様な変態とか、斜め上に進化させる様な変態とかいやがるから、むしろこっちが欲しい位なんだわ。
「ええ、ええ、ですから、手付金代わりのお金を出しますから、出土した暁には、優先的にこちらに話を持って来て欲しいんですの」
アレだね、手付金がそのまま品物を差し出しても良いって位の金額に成るヤツだね。まぁ、だからと言って、別にお金が欲しいって訳じゃ無いし、長期的視線で言えば、解析した方が有意義なんで、“売る”ってぇ選択肢なんざぁ無い。
それに多分、このお嬢さんの様子から察するに、出土した“ゴーレム”はそのままの“ゴーレム”としてしか活用しないんじゃないかね?
「一時的なお金が欲しいと言う訳じゃぁ無いんですよ、こちらとしては」
『【苦笑】マイマスターが悪い顔に』
うん一寸、黙っててくれるかな? ファティマさんや。【念話】だとしてもなぁ。
「それは、我が公爵家と友誼を結びたいと言う事ですの?」
「いいえ」
ふいっと首を傾げ、それに合わせた様に彼女の縦ロールも揺れる。
ぶっちゃけ権力者ってぇだけなら、これでもかって感じに縁を結んでるし、これ以上の友誼ってのが有っても、面倒事の方が多くなりそうなんで、むしろ遠慮したい所存なんですわ。
俺の言葉に、『では何が欲しいんですの?』と言わんばかりに顔を顰めるヘッセンバルク公爵令嬢。
分からんかね? 分からんのだろうな。むしろ金とか縁とか要らんので、帰って欲しいって言う、こっちの心情なんざ。
何せ公爵。地位で言えば王家に次ぐ高い地位だ。おおよそ敵対勢力以外から疎まれるなんて事も無いんだろう。
見た感じ、公爵様自身は、娘だろうと当たり前の様に“駒”として扱えるお人の様だが、決してそれは、娘を蔑ろにしているだとか、苦労させたいと思っていると言う訳じゃぁ無い。
だからこそ大切には扱われてるだろうから、自分達が“要らない子”扱いされてるなんて事、思いも依らないんだろうさね。
「いえ、ゴーレムが出た場合、家にも研究をする人員は居ますし、それに、ヘッセンバルク令嬢の様子を見ていますと、購入されたゴーレムは、そのままお使いに成られるのでしょう? それでは少しもったいないかと思いまして」
「……どういう、事ですの?」
俺の言葉に不穏な感じを覚えたのか、お嬢様が眉間に皺を寄せる。
「ゴーレムと言うのは、高度な技術の塊ですからね。それら一つ一つだとしても充分に価値がある。いや、むしろ、まとめて一つでよりも、利用価値が有るかも知れない」
俺がそう言うと、お嬢様が目を見開いた。
「それはっ! ゴーレムをバラバラにして売ってしまおうと言う事ですのっ!!」
ゴーレムのバラ売りは許せませんか。そうですか。
いや、そうだろうね。このお嬢さんはゴーレムって物が好きっぽいからなぁ。
「なるほど? そう言う手段も有るんですねぇ。確かに、それぞれの技術をバラバラに売る方が、纏めて一つよりも、最終的に高くなりそうですものね。いや、自分には気が付きませんでした。流石は公爵家令嬢ですねぇ。極めて聡い」
「っ!!」
お嬢様の発言で、初めて気が付いたって様な言い回しをすれば、お嬢様の目が見開かれる。
『お嬢……』
「さて、さて、そうなれば、最終的にはどの程度の価値に成ってくれますかね? その、ゴーレムは」
アベルが発言しようとした所に、割って入る。今お嬢様に、冷静になられるのも、ちょっと困るんよね。
「させませんですのっ!! 貴方の様な人にっ!! ゴーレムを所有する資格などありませんのっ!!」
『おじょ……』
「資格がない? ありますよ!! 何せ、ゴーレムは、我が領地で確保できるのですからっ!! むしろ、資格が無いのは、そちらでは?」
今のお嬢さんには、俺はゴーレムを金の詰まった宝箱程度としてしか認識できない、欲の皮の張った強欲な人間に映ってる事だろうさね。
ゴーレムってぇ物に感情移入をしているお嬢様には、それを態々バラバラにして売るなんて事は我慢できないだろう。ましてや、アベルってぇ前例がある。ゴーレムにだって人格が有るって思ってても当たり前だし、実際、出土品のゴーレムには、そう言ったパーソナリティーを個別にプログラムされてても不思議ではない。
人格が有って、性格があるなら、それを害する様な事は、言わば人権を蔑ろにする様なものだとか思うだろうし、道義的に言ってそんな事を許せるはずはないだろうさ。
人間、自分に正義が有ると思った時には、それに相対する様な相手は、必ず悪だと勘違いをするし、自身が正しいのだと思っていれば、相手に対して引く事は無い。何せ、自分の言って居る事は『正しくて正義』なのだから。
「け、決闘ですのっ!! ゴーレムの所有権を掛けて、決闘を申し込みますのっ!! わたくしが決闘に勝ったら、これ以降、貴方の領地で出土したゴーレムは、全てわたくしが保護するですのっ!!」
はい、言質頂きました。




