野生児、野生に帰る
いやぁ、ヘルメットが無かったら即死するところだったよ。魔力装甲だけど。
まさか神殿が、あんなに脆いとは思わんかったんや。
信者や神官どころか、俺まで巻き込んで神殿が崩壊しやがった。
いやね、とりあえず祭壇は破壊しようと思った訳よ。儀式とやらだって祭壇ありきの物だろうし。そうすりゃ、同じ暗躍をするにしたって、とりあえず祭壇の再建からかなぁと。まぁ、それに巻込まれる輩は居るだろうが、ぶっちゃけ、知ったこっちゃ無かったしな。
でも、神殿まで崩れるとは……いや、残すよ神殿。確かに壊しときたい物ちゃ物だけんどもよ。
帰れなくなるじゃん? 多分“扉”を発生させるガーディアンとか、神殿に設置されてるだろうし。
で、だ、その神殿が崩壊しちゃった訳さね。巻き込まれた輩については、邪神の御許に、さぁ、お逝きなさい。って事で。
まあ、それよりも……
「帰れねぇ……」
“扉”壊れちゃっただろうし。
それに……
「ここ、何処だ?」
少なくとも見た覚えなんて全くない森を前に、俺は頭を抱えるしかなかった訳だ。
******
瓦礫を押しのけて地上に出た俺は、周囲を見渡して唖然としたんよ。
そもそも魔人族国で活動してた連中な訳じゃん? それに、魔人族の国の地下に遺跡が埋まってるって話だったから、せいぜい、その近辺だと思ってたんだけんどもよ。
その風景が、木々の生い茂った岩山……前世で言う所のギアナ高地じみた垂直崖のテーブルマウンテンが点在するジャングルだったんよ。
思わず「え?何処」ってなったわ。
少なくとも、俺が旅してきた範囲で類似する場所なんて無かったからな。
ええっと、ファティマどの念話は? ……なんか言ってる様な気はするんだが……遠いな。よく聞こえん、“絆”が弱いんかね?
まぁ、森の中でのサバイバルは慣れてるっちゃあ、慣れてるんだが、流石に自分の位置が分からないってのは想定外だ。
どうにかして、人里まで出んと。
俺は振り向きざまに魔力外装を発動し、そこに居たモノを蹴り飛ばした。
えっと? 角の生えたマンドリル? 5mは有りそうだが。
一匹を蹴り飛ばした事で、他の二匹の足が止まる。
へぇ、中々賢い。それに、ここまで足音を隠して来た事も考えると、“狩り”にも慣れてる、と。
さて、これも、何かファンタジーな生き物なんかね? 顔の色彩の関係で顔面中央に巨大な目が有る様に見える。
順当に行けばサイクロプス、大穴で一目入道って所か。
…………
「見上げ入道見越した!!」
うん、消えんよな。
俺が突然大声を出したからか、角マンドリルが警戒したかの様に後退る。
知能は高そうだ。
なぁお前等、狩りは得意か? 俺はか~な~り~得意だ。
******
「アーハッハッハッ!! アーハッハッハッ!! 大人しく俺の贄となれぇい!!」
「グホッホッホ!!」
「グホグホッホ!!」
「ググーホッホ!!」
必死こいて走る角マンドリルを追いかける。
衣、食、住は、生活の基本だよなぁ!!
衣は有って、住は後回しなら、取り敢えずは食じゃあ!!
マンドリルが美味いって話は聞いたこたぁ無いが、食って食えん事は無いじゃろがね、基本、猿の類は雑食だから、棲家にまで追い立てれば、奴らの飯も有るだろうさね。できれば果物所望。
さぁ、キリキリ案内せい!!
あの【隠形】は何だったのかってくらい、押し合い圧し合い倒し合いで逃げる角マンドリル。
必死の形相を見てると、まるで俺が悪い事をしてるような気になって来るが、それは気のせいだ。
だって、襲って来たの向こうだし。
果たして走り出してからどれくらい経ったのか。おいおい、日ぃ傾きかけてんぞ?
あれ? これってもしかして狂乱状態で、まともに自分等の棲み処になんて向かって無いんじゃね? と思い始めた頃。
突然森が開けた。
「うわあ!! サイクロプスだ!!」
「そ、それも三体も!!」
「もうだめだ!! 全員喰われちまう!!」
「クッこの上サイクロプスとは、なんと言う不運」
「我らの命を懸けてもお嬢様は!!」
おう、説明台詞ありがとう。知らない人達。
うん。やっぱりサイクロプスか。大穴は無かった。
どうやら森の中を通る街道に出たらしいな。ただし厄介事付きで。
俺の追って居たサイクロプスは、何やら集団のど真ん中に突撃したらしく、大混乱に陥っていた。
ボゴッ! ドゴッ!! と言う低い音が響くたび、くぐもった呻き声が増える。
大ジャンプして眼下を観察。
おうおう、無精髭面にボッサボサの頭。粗末な皮鎧に刃こぼれした剣。だが、無駄に人数が多い。分かり易い盗賊達だな。お相手は……なんだろうこの既視感。雅な鎧を纏った騎士と兵士。豪奢な馬車を守って。劣勢に立たされていた所かね? 貴族、だよな? 御令嬢、じゃないと良いなぁ……でもお嬢様とか言ってたしなぁ……
ともかく、そこにサイクロプスが突っ込んで来たから、全員右往左往。そして善悪関係なく平等にサイクロプスの攻撃を受けてるって感じかね?
地味に吹き飛ばされ地面に転がったり、街道沿いの木にぶち当たったり、血反吐をはいて倒れたり。
うん、阿鼻叫喚。
まぁ、ともかく、残念だが、サイクロプスにはご退場願おう。
俺は魔力装甲を纏うと、暴れ回るサイクロプス達の真ん中に降り立った。全力出すと盗賊はともかく騎士さん達まで吹っ飛ばしかねんからな。衝撃波で。流石に動きそのものは音速を超えられんが、攻撃だけで言えば、超えられるかんね。俺。
ビクリとして、動きが止まるサイクロプス。そう言うとこだかんね? ダメなとこ。
戦闘中に止まるなんざ、死にたいとしか思えんぞ?
一匹目を飛び蹴りで吹き飛ばすと、その反動で飛び、二匹目を殴り飛ばす。空を蹴って反転し、三匹目の懐に飛び込むと、地面から這う様なアッパーカット。
とりあえず三匹共に森の方へと吹き飛ばしておいた。さぁ、森へお帰り。
そうして周囲をみれば、盗賊も騎士さんも、兵士の人達も、唖然とした様子で俺を見ていた。
サイクロプス三匹でここに居る全員が死の覚悟をしなくちゃいけない様だし、それをぶっ飛ばしたんだ、その反応も分からくは無い。
あ、いや、ここはこの台詞を言っとかなくちゃいけんのかね? 転生者として。
「あれ? 俺、何かやっちゃいました?」
………………
…………
……
ちょっと羞恥で消えたくなった。相変わらず周囲の反応は無いがな!!




