フィクサーはほくそ笑む
遅くなりました。
申し訳ない。
「我がヘッセンバルク公爵家は、代々ゴーレムの、研究開発で、財を成してきましたの」
そう、語り始めたヘッセンバルク公爵ご令嬢だが、取り敢えず、こっちの目ぇ見て話せやと言いたい。
なんぼ公爵家の家格が高いとは言え、流石に失礼過ぎんぞ、と。
まぁ、その視線はファティマに固定されてるんだけんども。
『許してやってはくれまいか? お嬢は、兎に角ゴーレムに目がないのだ。それはもう、その事以外がポンコツな程にな』
「アベル!! 余計な事は言わなくて良いですのっ!」
いや、フォローしてるんだから、余計な事ってぇ訳じゃないだろう。
寧ろ、それ以前の自身の行動を顧みて欲しいんだわ。
アベルの言葉を聞き、憤慨していたヘッセンバルクご令嬢だったが、ややして気を取り直したのか、コホンと、咳払いをする。
「それで、辺境伯領から出土したゴーレムに関する一切を我がヘッセンバルク公爵家にけ献上させて差し上げますですの! 光栄に思う事のですの!!」
「寝言は寝てから言え」
「は? ですの?」
おっと、思わず本心がこぼれ出ちまった。見ればアベルが『あちゃー』とばかりに手で顔を覆っている。つまりは、この手の失言は、良くやる事なんだろうな。
うん、これ、公爵さんは、本気で事前にアーティファクトを譲って貰おうとかは思って無いな。
まぁ、ゴーレムの販売なんぞをしているし、そもそも公爵家だ。
オークションでの出品だったとしても、手に入れられないってぇ事なんざ無いよなぁ。
だとしたら、これ、このお嬢様の独断専行……って程じゃぁ無いが、お嬢さん個人の考えってぇ事だろうな。
ただし公爵さんは、色々と織り込み済み、と。だって、家に来るってお伺いのお手紙、ちゃんと公爵家の紋章付いてたし。上手く行けば俺は甘ちゃんの若造ってぇ事に成るし、激怒してるなんて事に成れば器を疑われるってぇ所か。
で、これ、後で謝罪状とか届く流れだな。そんで、そこから縁をつなぐ系の。
多分、今、こっちが必要だと思われる様な情報なり品物なりの用意が有るってぇ感じなんだろう。
こっちとしても、まだ若いご令嬢の失言程度で目くじらを立てちまえば失笑物だし、それこそ笑って許してやる位でないと、度量を疑われる。
このお嬢さん寄こされた時点で、かなり公爵の掌の上ってぇ感じだわ。いやはや、怖いやねぇ大貴族って。
きっと今頃、自分の屋敷でほくそ笑んでる事だろうさ。
けどさ、ちょっとした失敗程度だと睨んでる、お宅の娘さんが、どうしようもない程の大失態を犯したってぇなったら、果たして、嗤っていられるかねぇ? 公爵さんよ。




