空が落ちてくるかもしれないと思い悩む
俺の懸念事項ってのは、この世界独自の文明の発達を阻害しちまわないかってぇ事なんよね。
実際、今までもこの世界にない知識なんかをマトスンとかにヒントとして与えては来た。だけど、それらの知識を発展させ、独自の文化として構築して来たのは、確かに変態でありドワーフ達でもあったからな。
パーツ式工法だとかTCGなんて、俺、教えて無いからな?
ただ、これから教えようと思ってる技術……いや、実際、ある程度は既に開示して居る技術ではあるんだが、それでもそれを開示する事を躊躇っちまうのは、所謂、産業革命が起こった以降、製品としての精度が上がったおかげで、精密な加工が安易に行えるってぇ事によって、武器や兵器の開発も活発に成ったって言う、前世の歴史が俺の頭ん中に有るからなんよね。
この世界には魔法なんて物が有って、前世で言う大量破壊兵器並みの威力のある殺傷手段が既にある。それでも魔物何て脅威があるおかげか、それが人に向く事は、全体的なパーセンテージで言えばそうは多くない。なんで、それ程気にし過ぎなくても良いかもしれないんだが、それでもやはり、影響がない訳じゃぁ無いだろう。
何せ、それらを行える魔法ってのは、確かに学術的技術体系によって研究はされて居るとは言え、それでも、個々人の技術や知識、そして才能に依存する部分が多い為に、ソレを有効に扱える人間ってのは限られて居るからな。
ただ、武器と言うのはまた別なんよね。誰でも容易に扱えるからこそ、その危険度ってのは跳ね上がる。
まだ、その技術そのものを開示もしてない内に、ソレの連なるであろう“先”である武器やら兵器の事を思い悩むってのも、もしかすれば杞憂であるかもしれない。
ただ、確実に歴史的ターニングポイントの一つではあるとは思っている。
かつて、ダイナマイトを発明したノーベルは、それを工業的に使う前提で開発した。にも拘らず、ソレの威力を目の当たりにした人々は、結局それを軍事的に転用したんだ。
彼は、それを死ぬほど後悔して、ノーベル賞を設立させたんだそうだし。
人ってのは、それが許容される前提と土壌さえあれば、何処までも冷酷に、非情になれる。
話が逸れた。俺の心配しているのはつまり、前世での知識由来の技術を開示し過ぎた為に、この世界独自の文明的な発展を妨げるんじゃないかって事と、技術を革新させる事によって、容易に大量に殺戮の出来る手段をもたらしてしまうんじゃないか? ってぇ事な訳だ。
いや、まぁ、すでに開示し過ぎかもしれんし、そもそも人間戦略兵器が何言ってるんだってぇのは言われんでも分かってるんだがさ。
温故知新とはまた別なのかもしれんが、それでも前世のそれと同じ様な時代の流れをなぞるかも知れんって思えば、及び腰になるのも仕方ないとは思うんだよ。
ここで、躊躇いなく進めるやつが、ファティマ達の言う“覇道を進むもの”なんじゃないかなぁ。
まぁ、俺には無理だと改めて認識したわ。




