表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
917/1157

このトールゥ容赦せん!

 先行での一撃必殺が必勝パターンだったんだろう。

 結局、同じ攻撃をそのまま5回程繰り返した所で何かに気が付いた様子で、ようやっと攻撃のパターンを変えて来た訳だが、それでも先行必殺は変わらないらしく、振り下ろしが横薙ぎに成り、打ち上げに成り、最終的に突きへと変化。

 だとしてもスピードは変わらずで、最初のソレが最短最速であるのだから、タイミングの変化は誤差範囲な上、何なら遅いくらい。なんで、既に対応済みと言って良い攻撃に合わせるのなんざ、さして苦労もないんだと気が付いて欲しい。

 最初の()()()場所だけ違えど、その後はさほど変わらずでソバットがムーンサルトに成ったり、逆さ延髄切りに成ったり。


 流石にオーディエンスが居るのに変化が少なすぎて、放送事故ギリギリかなぁとか、一寸俺が、前世の『エ◯ドレスエイト』を思い出し始めた辺で、ミノース少年が、攻撃する事に躊躇し始めた。


 成程、攻撃パターンを変えて来たのは、その辺りから、ようやっと意識の途切れる時間が、多少は短くなって来たからだな?


 ただ、ここでフェイントを織り交ぜて、とか、タイミングとリズムを変えてとかじゃない辺、『浅いよなぁ』とか思っちまう。

 何と言うか、本気の対人戦闘は、経験があまり無さそうだな、と。


 正統派で上り詰めると言うなら兎も角、少年の剣術は、恐らく彼の周囲の人々……もしかすれば親から引き継いだモノらしい特有の“クセ”が見て取れる。つまりは正統派の剣術では無いし、正統派を目指してるってぇ訳でも無いって事だろう。


 実は正当な剣術ってのは、無駄を徹底的にそぎ落とした末に作られた物だから、その()()()突き詰めると『人の反応速度』なんて物を無視して動く事が出来る。これは身体の『反射』だけで動く事が出来るってぇ位に、体に染み込ませる事でその領域に至れるんだが、ソレの意味する所は、純粋な剣の技術に『思考は必要ない』ってぇ事に成る。


 考えて、手足にその思考を送って居たら、それは既に遅いってぇ事だな。

 だからこそ、思考を介さない『反射』だけで動ける様に反復練習での技術を磨く。それこそ比喩抜きに、血のにじむ様な訓練の果てに至れる訳だ。

 ただそれでも、技術だけを研ぎ澄ませたってぇだけだと、それは【名人】って呼ばれる領域でしかないんだわ。

 しかしその領域であっても、俺みたいに【プラーナ】使って、身体の反応速度や、思考そのものすら加速して居るなら兎も角、突き詰めた剣術を破るってのは、一筋縄じゃ行かんのだがね。


 そして、そのさらに上の段階に成ると、今度は逆に思考ってのが必要に成るんだが、まぁ、これ以上の領域の話は、今は置いておくとしよう。


 そもそも、【名人】ってぇレベルまで熟達している人間なんてのも、早々お目に掛れるもんじゃぁ無いが、それ以上の【達人】ってぇレベルに至ってる人間なんざ、身近だと、ルーガルー翁くらいじゃないかね? あのジジイ、それを踏まえた上で、邪道も使えるから更に厄介なんだ。

 魔人族国だと、ゴドウィン候とエリスパパも、そのレベルらしいけど、あの二人の戦いって、俺、見た事無いんだよなぁ。


 それは兎も角、基本的な剣術の技術は有れど、明らかに鍛錬不足で、一撃を受けられてからの反応が遅い上に、どう返すのかってぇ判断も出来て居ない。あの位の基本が出来て居るんなら、本来有り得ないレベルだわ。

 普通、初心者ってぇ段階突破して、対人技術に目が行く様に成れば、フェイントやリズムってのは、自然と身について来るものだと思うんだがね。


 普通であれば、反応で対処できない相手と対峙したなら、何百通りもある剣筋とフェイント、それらを組み合わせて、相手の思考の幅や行動の幅を削って行く筈なんだが、その為の組み立てが全く出来て居ないんだよな。こればっかりは人相手の練習の繰り返しと、その反省を踏まえての思考実験が有ってのものな訳だから、結局は『経験不足』ってぇ話に成る。


 さてさて、このまま手を出しあぐねてるってのなら、こっちから行かせて貰いますがね。


 出だしはゆっくり、しかし、全身のバネを使って一気に加速。緩急に目が追いつかなければ、一瞬で目の前に来たように見えるだろう。

 実際、俺が小柄だって事も相まってか、ミノース少年の視線は懐に入られた今でさえ、さっきまで俺が居た場所に固定されている。


 ああ、いや、駄目だ、全く駄目だわ、既に、集中力すら切れてやがる。攻めあぐねているだけじゃぁ無く、攻撃に迷いすら出ちまってる。

 “どう”攻撃して行くべきか。じゃぁなく”どうやったら”攻撃が出来るかってぇ所にまで落ち込んでちゃ、勝負どころの騒ぎじゃぁ無い。

 普通なら、こう成っちまってたら、立会人は止めるか、『降参』するもんなんだがね。立会人は自分で排除しちまってるし、プライド故か『降参』の判断もつかないんだろうさ。


 まぁ、けど、手は抜いてやらんがね。


 俺は、ようやっと俺が懐に入って来たのだと気が付いたミノース少年の、その無様に晒された顎を手に持った模擬斧でフルスイングした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ