あ…ありのまま 今 起こした事を話すぜ!
見た所、体幹の芯はしっかりしてるし、剣先に迷いもない。成程、自信を持てるだけの何かは有る訳だ。それが才能故の物なのか、努力で勝ち取ったソレなのかは分からんが。
両手剣を正眼に構えるのはこの国でもオーソドックスなスタイルだが、ミノース少年も同じ様な感じで構えて居る事を考えると、“この国”ってよりかは“この世界では”って事なんかね? そう言えば、余所の大陸に行っても、まともに相手の構えとか見てって事はやって無かったな。
まぁ、今回はミノース少年の性格考えれば、先手取りたがるだろうから、あえて譲るんだが。
あの単純熱血型で、 後の先狙いってこたぁ無いだろうし。
始め!! の合図も無く、お互いに対峙する。少年が正眼に構えているのに対し、俺は斧こそ前方に持って来てはいるものの、ダラリと力を抜いた状態。下手すりゃ棒立ちにも見えるだろう。
持ってるのがファティマだったら、石突を地面に着いた状態なんだが、如何せん柄が短いんで、前方に頭を向けて居る何て言う一寸間抜けな感じ。やっぱり普段の獲物とバランスが違うとサマに成らんな。
短く吸い、長く吐いていた呼吸が刹那止まる。と、ミノース少年が一気に俺に近付いて大刀を振りかぶる。
呼吸のソレもそうだが、迷いが無い分単純で分かり易い太刀筋。振りかぶって打ち下ろすってのが丸分かりな攻撃。薩摩示現流の理合いと同じで『二の太刀要らず』なんかね?
そんな剛剣。
これ、正眼よりか上段の方が合ってるんじゃねぇかな?
「けど、甘い」
一撃必殺の心算なのか、力を込めた一撃は、逆を返せば筋肉が強張っている一撃とも取れる。それを振りかぶってなんてやってるから、折角ダッシュで間合い迄入り込んでるのに、一瞬の瞬発力を殺しちまってる。
間合い云々で言えば、俺の手にしてる斧の方が圧倒的に短いが……半歩左前に踏み出し、斧の側面を滑らせる様に大刀をいなすと、がら空きの顔面に斧の横っ面をフルスイング。
いっそ気持ち良いほどに空中一回転を披露してくれたミノース少年にそこから追撃の蹴り上げ、ソバット。落ちて来た所での再びの蹴り上げからの、今度は踵落としで地面に叩き付けて、そのまま踏み付け。ついでに回復。
一連のコンボの最後まで大刀を手放さなかった根性は認めるが、それ以外は予想通り過ぎて、最早、苦笑しか出んわ。
回復させたら軽く蹴り上げ、各関節を蹴って立たせ、崩れ落ちん様に微調整した後に再び対峙位置に。
少しばかり意識が飛んでた様だったが、ハッとして、目の前の俺に気付く。が、一瞬、何が起こったのか分からんと言った様子で呆然としている。
そりゃ、斬り掛かって行ったら、気が付けば、斬り掛かる前と同じ場所で、同じ様に立ってる訳だから、理解が出来ないんだろうさね。おまけにダメージも回復してやってるんだから、痛みすら無いだろうよ。
だが、『敵』が目の前にいて、自分が武器を持ってる状態で、そんな風に呆けてるってのは、致命傷だからな?
呆けていた時間的には、瞬きを2.3回する程度。まだ混乱したままっぽいが、それでも兎に角『攻撃をしなけりゃいけない』とか思ったんだろう。再び一足飛びで向かって来る。が。
「いや、全く同じ攻撃ってどうよ?」
スピードも太刀筋も、焼き直しの様な同じ行動を取って来やがったんで、俺の方も、全く同じ様にいなしてフルスイング。で、蹴り上げて側転蹴りからの蹴り上げと踵落とし。踏み付けと回復して立ち上げるまで同じ流れで“ふりだし”に戻す。
意識としては攻撃二回目。だけど、立ち位置は攻撃開始時と全く同じ場所。何が起こっているか分からないってぇ混乱っぷりが手に取る様に分かる表情のミノース少年。
いや、いや、戦ってる最中にそれってどうよ?
ただ、周囲の野次馬共も、呆気にとられて居るのか、鍛錬場内は静寂に包まれている。
コレが立会人の居る試合とかだったら、状態の確認とかされるから、まだ、自分に起こった事を理解出来るんだろうけど、そう言ったファクターは、オマエ、自分で外したんだからな?
さてさて、どのくらいで、自分が瞬殺され続けてるってぇ事実に気が付くかねぇ?




