歌劇の始末
遅くなりました。
申し訳無い。
領館の一室に置かれたバンドの楽器の数々に、思わず嘆息する。
前世では見た事の有る楽器の数々だが、この世界では他には無い珍しい逸品達である訳だ。
まぁ、電気なんて物が、利用されていないこの世界で、エレキギターやらベースやら電子ピアノとか有るわきゃ無いんだが。
もっとも、コレ等の動力【魔力】らしいんだけんども。
いや、ドラムセットだけは、【魔力】とか使ってないんだが。
「アイツ等、コレ取りに来るんかねぇ?」
俺の呟きに、一緒に居るイブ、ファティマ、ラミアーが揃って首を傾げた。
******
演劇場のオーナーに『もう時間ですので』と、すっごく申し訳無さそうに言われるまで待ってみたけど、ファンクラブの連中、戻って来やしやがらなかったわ!
「それで、あの、このアーティファクトなのですが……我が劇場の倉庫も、それ程ゆとりが有る訳ではありませんので……」
オーナーの方も、領主の事は知ってる訳だし、そもそも俺達が連中と顔見知り以下の関係だってぇ事は察してくれているっポイんだが、それでもアーティファクトな楽器類を舞台上に置きっぱなしってのは、営業的にも精神的にも困るってのは確かな事で、そうなると、一応にでも関係者って事になる俺達に声を掛ける以外の選択肢なんざ無かったんだろう。
確かに、使用方法としては楽器のソレな訳だが、その実、古代遺跡から出土したアーティファクトでもあるんよね。
そんな物、勝手に処分なんざ出来んだろうし、かといって保管すると成ったら、その保管方法とか色々と分かっていない事が多い。その上で、破損が有れば、この劇場が弁償をしなけりゃいけないって事に成る。
全く面倒臭い事してくれやがりやる。もしかすれば、俺達と顔を突き合わせるのが気拙くて、戻っては来ているが出て来れないんだってぇ可能性もあるが、流石にこんな状況に成っても出て来ないってぇのは考えられ……いや、アイツ等の生粋のコミュ障っぷりを見てると、有り得るとか思っちまうな。
その場合、俺達が居なく成ってからノコノコ出て来る可能性もあるのか……
全く面倒臭い。
劇場オーナーが不安そうに俺の方を見る。
俺達とファンクラブの連中とは、被害者と加害者ってぇ関係に近いんだがなぁ。
「取り敢えず、荷物を持って行ける準備をしてないんで、一旦帰ってから台車を持ってくるから、それまで預かっていて貰って良いか?」
「はい!! はい!! その程度であれば!!」
嬉しそうだねぇ。まぁ、“もしも”の時の責任とか損害賠償の金額とか考えれば、持って行って貰えるなら、少しばっかしの時間の延長位なら構わないってぇ判断なんだろうな。
俺は思わずため息を吐く。全く、最初から最後まで面倒ばっかり掛けてくれやがるなぁ、アイツ等。
******
荷馬車を取りに行って、ケルブと一緒に戻って来て見たが、アイツ等、結局戻って来なかったらしい。
荷物運びくらいなら、自分一人でも充分だったんで、『付いて来なくても大丈夫だよ』とは言って見たんだか、イブにしろファティマにしろラミアーにしろ、付いて行くの一点張りだったんで、そのまま皆で小劇場まで来た訳だ。
物が物がなんで、流石に回収しに来るだろうとか思ってたんだがなぁ。
いや、どうすんだ? 楽器。




