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人生大体不条理

 目を覚ますと、眼前に覗き込むイブの顔があった。瞬きもせずに、こっちをジッと見つめている。

 ……ちょっと怖いんだが。


「……で」

「ん?」

「何で、……いの?」


 掠れてひび割れた様なダミ声。それが幼い子供の口から出た事に、俺は眉をしかめる。

 イブは、どのくらい声を出せなかったんだろう。

 俺の表情に、自分の言葉が気に触ったと思ったのか、イブの瞳に怯えが混じる。


「あー、大丈夫だ、気にするな。で、何だ?」

「あ、う……な、なんで、あか、なる、です?」


 うん? 赤、成る? どういう事だ?

 その後、つっかえ、つっかえ、なぜか泣きそうになりながら語ったイブの話を纏めると、眠っている間の俺は、どうやら普通に白い肌であるらしい。

 それが、目か覚める少し前に赤く染まっていったと言う。

 成る程、意味のわからん現象だ、フ○イズシフトか?


 そうなると、俺が起きた時に彼女が目を見開いてたのは、驚いていたからか。

 怖いとか思って悪かったな。


 ジッと手を見る。


 うん、赤い。


 俺自身は、赤ん坊なんだし、この肌の色で普通だと思っていたのだが、考えてみればもう乳児だ。

 赤味が落ち着いていておかしくない時期だな。

 いや、もっと早い時期に落ち着いていなければおかしいのか。

 これは盲点だった。


 もしかして、この赤味を押さえられれば、赤銅のゴブリンライダーと呼ばれなくなるのか?

 いや、赤から白に変わるだけな気もするな。

 穴堀計画(プロジェクト)は続行だ。


「ふむ、一人では気付けなかったな、イブ、ありがとう」


 そう俺が礼を言うと、イブは少し目を見開いた後、恥ずかしそうにはにかんだ。


 ******


 ガブリとラファを貧民街まて送り届けた後、いつもの朝の巡回をして、屋台で情報収集。


 出がけにイブが心細そうな顔をしていたのだが、流石に連れて行く訳には行かない。

 セアルティやイグディ、バラキも残っているからと説得して我慢してもらう事にした。


 さて、いくつかの屋台で呪文をメモしながら聞き耳を立てていた結果だが……


 うぬぅ、赤銅のゴブリンライダーの噂話は、順調に広まってやがる。

 もっとも貧民街の方の噂話は自業自得だが。いや、そんなに吹っ飛ばしてはいないんだよ? でもスッキリしたので後悔はしてない。

 ただ、これは憲兵の介入待ったなしか?


 まぁこっちは、できる事をするしかないんだがな。

 その後、冒険者ギルドにも寄ったが、こっちは目ぼしい情報はなかった。


 順調に行けば、後2、3日で防壁の外に繋がる。そうなれば、リスクは少しは減るだろうし、食事事情も改善……すると良いなぁ。


 ******


「アールム・フェータ・ベベール・マルクル・ディット・メウア!!」


 ぬぅ、やっぱり火が点かない。タクトか? タクトが必要なんか!?

 人間の住人が増えた訳だし、いつまでも生肉、生野菜って訳にも行かないだろう。

 今まで無事に生きてきたんだ、もしかしたら平気かも知れないが、生水も危険だしな。

 木を擦り会わせて火を熾すのでも構わないんだろうが、せっかく魔法なんてファンタジーツールが有るんだ、これを使わない手はない。

 そう思って、さっきから練習している訳なんだが、どうにも上手くできない。


「な、何……」

「うん? あぁ、魔法の練習だ」

「魔、法……」


 興味深そうに眺めていたイブに、そう答える。

 「お前もやってみるか?」と訊ねると、頷いたので呪文を教えた結果……


「こ、これ、ど、どうす」

「と、とりあえず、『消えろ』とか念じろ!! 慌てるな! 落ち着け!!」

「キャイン! キャイン!」

「ギャウ~ン!!」

「ヒャンヒャン!!」


 イブの掌から火炎が吹き出し、犬達も含め大パニックに。

 結局、火炎の向きを誰もいない上空に向けさせ、何とか消せないかと念じさせ続けてみたんだが、成果は上がらず、イブが気持ち悪くなって、ぶっ倒れたと同時に火炎が消えてくれた為、事なきを得た。

 少し壁が焦げたが炎上はなし。良かった。マイホームを失わずに済んだ。

 多分、魔力枯渇とか、そんなんで火炎は消えたんだろう。

 額に濡れタオルを乗せ、涙目で臥せっているイブを宥め透かして落ち着かせ、犬達ももふり倒して何とか一段落付いた。


 しかし……


「タクト、関係ないんか~い!!」


 え、何。今まで魔法が発動しなかったのって、ただ俺に才能がなかったからなんか? こんちくしょう!!

 思わず四つん這いで地面を叩く俺に、イブがオロオロし、ミカとバラキが顔を舐めて慰めてくれる。


「……そうだ、貧民街(スラム)に行こう」


 すくっと立ち上がった俺は、目から流れる心の汗を拭きながらそう言った。

 これは、気分転換だ。決して現実逃避じゃない。進捗も気になるし、補強もしなきゃいけないしな!!


 ******


 俺が貧民街の脱出トンネル工事現場までやって来ると、そこには困惑しな様な表情で「くう~ん」と弱々しく鳴くガブリの姿があった。

 あれ? ラファは?


 そう思ってキョロキョロしていると、ガブリが俺の服の裾を噛んでグイグイ穴の方へと引っ張る。


 そのただならぬ様子に、俺の背中は一瞬で嫌な汗をかき、慌てて穴蔵に飛び込んだ。

 見たところ、崩落した様子は見当たらない。なら、何があった?

 昨日、補強した場所まで着くと、その数メーター先の足下が崩れ、ポッカリと穴が開いている。

 まさか、地下空洞でもあったのか!?

 地面に手を付けて、穴に頭を突っ込む。


「…………坑道?」


 俺の第一印象はそんな感じだっだ。明らかに人の手の入ったトンネル。


 坑道に降り立ち、周囲を見回す。ややカビ臭い地下特有の空気。

 あ、変なガスとか出てないか確認してなかった。

 まぁ、ミカ達が何も反応してないんだから、問題はないんだろうけどな。

 俺の後から坑道に飛び降りたミカ達が、フンフンと鼻を効かすと、坑道の中を走り出した。


 ラファが居るのか!?


 そう直感した俺は、ミカとガブリの後を追った。

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