そっち系か
『D』との約束の日。招待されたのは小さな演劇場だった。
あれ? 歌だよね? もしかしてオペラとか、そんな感じ?
それだとオーケストラが必要だし、確かに後日って言うのも分からんでもないな。
今日はメイド教育が一段落したからか、イブとファティマも同行している。
脅威度が低いと感じたとしても、実際、何があるか分からんからな。
特に、相手が待ち構えている所に向かう訳だから、用心に越した事は無い。
一応、コボルト諜報部に『D』達の素性を探って貰ったのだが、結果としては“裏は無い”と言う物だったので、警戒度は一段階下げて良いとは思うんだが、まぁ、念の為だ。
調査の結果で言えば『D』以外のメンバーは、貴族の三男以下だったり、裕福な商家の……出来の良くない長男だったり。
『D』だけは素性が分からなかったらしいが、それでも、何処かの紐付きって訳じゃあ無い、らしい。
ただ、周囲との接触は無いが、集合住宅ではなく一軒家に住んで居る上、生活費そのものは何処かからか送られてきているらしいので、高位貴族の隠し種では無いか? と言っていたが。
高位貴族の隠し種って、そこまで厚遇されるものなんかね? ちょっと疑問だわ、実体験的に。隠されもせず捨てられた身からすると。
それは兎も角、少なくとも『実は魔族だった』ってぇ線は薄いのか? いや、手先だってぇ線は消えてはいないんだが。
ただ、だとするとラミアーを狙った理由が分からない。俺に直接仕掛ける事が出来ると思うんだよなぁ。そもそも、魔族の狙いは俺を倒して、自分の力を他の魔族に見せ付けるってぇ事な訳だからなぁ。
もしかして、周囲の家族を篭絡して、俺に対する切り札にしようとかって魂胆かもしれんが、篭絡、できると良いな。いや、まぁ、そうだと決まった訳じゃぁ無いが。
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演劇場の舞台の上、件の5人組がスタンバっていた。うん。スタンバっていたんよ。いや、スタンバっていた事は構わないんだが、その、姿がね。
「え? バンドマン? それもヴィジュアル系?」
「知っているのか! とーるん!!」
「知って、る?」
『【嘆息】どこの古代遺跡から出土したのでしょうね? あの楽器類は』
各々が格好良いと思っているのであろうポーズで。
何でか黒を基調としたビス打ちされたりダメージ加工されたりしたジャケットとシャツとパンツにブーツ。それにシルバー系のアクセをジャラジャラと着けて、目にシャドウ、真っ赤なルージュを引いた唇。髪もウェーブを利かせたり、バリッバリに立たせたり。
持って居る楽器もベースにギター、ピアノにドラム。なんて言うか、世界観が一寸崩壊してやしませんかねぇ? いや、まぁ、ファティマが言ってる様に発掘された物なんだろうけど、良く、それを使おうとか思ったよね?
そして『D』はどうやらボーカルらしく、マイクの様な形状の……
『【説明】形状こそ、特殊ですが、普通にタクトの様です。マイマスター』
だよね。マイクとか有るわきゃ無いよね。電気すら無いのに。なら、何の為のタクトだ? 形状が特殊だと言っても、アレがタクトである以上、魔法発動補助の媒体である筈なんだ。
「今日は、俺達のギグにようこそぉ~~~~!!」
『D』声が響く。成程、“声”を風魔法で増幅して響かせているのか。その為のタクトかっ!
てか、ギグて、あれ? やっぱりライブって事なんか? バンドマンなんか!?
てか、これから演奏される歌を捧げられる筈のラミアーの方を見ると、スッゴイ嫌そうな表情で彼らを見ていた。
いや、美少女がして良い顔じゃないぞ? それ。




