流石に詩の朗読ではないとは思ってる
遅くなりました。
申し訳ない。
「いや、歌を捧げさせてくださいって……」
何と言うか、うん。好きにすれば良いんじゃないかな? 確か『剣を捧げる』とかだと、『一生をあなたの為に使う』的な意味があると思うけど、“歌”だとそんな意味とかって無かったよな? 貴族的な意味での言い回しとかでも、確か。
ならつまり、自分達の作った歌を聞いて欲しいってぇ事か。
なんかなぁ、なんかなぁ。色々考えちまってた分、肩透かし感が酷い。
いや、完全に気を抜いちゃいけないんだろうけど、ただ、ギャップがね。
実際、彼らが本当にファンだったとしても、本来なら非公認の彼らが態々表に、それもラミアーの前にまで出て来るって事の理由が、要は『俺達の歌を聞けぇ!!』な訳だよ。裏を疑うにしたって、どう考えれば良いのかすら分からなくなって来たわ。
だって、害する為の思惑があったとすれば、既に接近してる以上、どうにでもなる話だろうし……いや、俺と言うファクターを考えなければ、だろうけど。害させやしませんよ、俺は。
逆に、御近づきに成りたいんであれば、初手でかなり間違ってるからなぁ。そっちは挽回……出来ると良いね。
まぁ、兎に角どちらが目的だったとしても、失敗してる様な気がするんよね。
その上で歌な訳だ。本当に何がしたいんやら。
いや、その歌の中に、ラミアー=吸血鬼的な意味合いの物が出て来るなら、脅しとして使えるとか考えてるとも取れるのか? いや、弱いなそれじゃ。ラミアーが吸血鬼だとばらしたとしても、実際、ラミアーもこの街じゃぁ結構受け入れられてる。いや、領主の身内くらいに思われて居る訳だし、受け入れられていない方が可笑しいんだが。
ラミアーが受け入れられないって事は、すなわち、俺の言ってる事を否定して居るって事と同じな訳だしな。
まぁ、それでも最低限の警戒はしておくけどさ。俺としちゃ、歌を聴く位ならしても良いと思ってるんだが、ただ、あくまでコレはラミアーに捧げられる物な訳だから、俺が適当に『聞くよー。聞きますぞぉ』とかって決める訳にゃいかんのだけんども。
「ラミアーはどうだ? 聞くくらいなら構わないとか思うか?」
「それで帰ってくれるなら構わないぃ」
「あ、うん」
見れば、ラミアーの腕に鳥肌が立ってる。あ、よっぽど嫌なんな。まぁ、館着くなりクンカクンカし始める輩とか、放り出したくなるけんどもさ。
「で? ここでやるのか?」
「あ、いえ、準備も有りますので」
「準備?」
歌ってあれだろ? こう、吟遊詩人のやる様な、リュートかき鳴らしながら滔々と歌い上げるみたいな。ああ、そう言えば、誰も楽器とか持ってないな。
「リュートとか必要か? 確かあったと思うが、貸すぞ?」
「はい? あぁ、必要なのはそれだけではないので、出来れば、日を改めて貰えると有り難く」
「それだけじゃない? てか、他に楽器が必要だってんなら、色々揃えてあるぞ?」
リュート以外にも必要? 吟遊詩人的なアレとは違うって事か? ただ、何か用意して後日とか言われると、疑惑の方が大きく成るんよね。
「今すぐって訳にゃ……」
『いかんのか?』と続けようとして、ラミアーに服を引っ張られる。振り返ると『それでも良いから、今はとっとと帰しちゃって』と言う表情で、俺を見上げて来た。
……まぁ、ラミアーがそれで良いっちゃ、それで良いんだろうけど。
そもそも、脅威度で言えば、殆ど感じられない訳だし。
俺は嘆息すると、『D』と後日、歌を聴く約束をして、その日は帰って貰った。




