権力は行使する為に有るんだと彼女は言った
また、寝落ちしていました。
遅くなり、申し訳ない。
ラミアー自身にかなりの戦闘能力があるし、【魅了の魔眼】もあるから、早々、不覚を取る事も無いだろうけど、不利を覆すだけの知恵を持つのもまた人間と言う物なので、油断は出来んのよね。
まぁ、可能性としては、魔物だとバレて襲われるより、その外見の見目麗しさやら白子と言う珍しさ、後はもしかすると、光教会的禁色だからってぇ理由で襲われる可能性の方が高いかも知れんのだが。
油断ができんのが人間だが、同じ位、愚かしいのもまた人間だから、義憤より欲望って輩も多いからなぁ。
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「ん?」
俺が眉を顰めると、ミカとバラキが窺う様に俺の方を見た。俺は2頭の耳元をカシカシと掻いてやりながら、耳元に口を近づけると、『待て』と囁いた。
取り敢えず、気配は5つ。知らない気だな。
さて、どうするかねと頭を捻ると、ラミアーが俺の方に頭を突き出した。
「いや、何やってる、ラミアー」
「あたしもぉ~」
何を犬達に対抗意識燃やしてるんだか。
取り敢えず頭を掻いてやると、ご満悦そうに笑みを浮かべた。
さてさて、あんまり気負い過ぎて空回りすると、いつぞやの二の舞だ。取り敢えず、どっちなのかを見極めねぇと。
素行の悪い冒険者が増えてるってぇ報告は受けてたが、だからと言って、今、俺達の周囲を囲もうとしてる輩が、そうだとは限らない。
俺狙いだとするなら、魔族連中の可能性だって有る訳だしな。
この街は隣国や“扉”での移動の通り道でもあるんで、商人やら旅人とかも多いから、街に入る人間をそれ程規制しては居ない。だけど、それ故に、それ以外の目的を持った連中も、出入りはし易いだろう。
出入りはだけれども。
注意はせにゃ成らんが、疑心暗鬼も良く無い。その辺の加減が難しいやね。
出来れば捕まえっちまいたいが、こっちに手出しして来て無い以上、こっちからも手出しは……
「そおおぉいぃ」
「って、うおおい!! 何やってんのぉ!?」
俺が手を出しあぐねて居る内に、ラミアーが【念動力】で、隠れていた奴等を全員引きずり出した。いや! ホント! 何してくれやがっちゃってる訳!?
「とーるんは考えすぎぃ」
考えすぎ? いや、まだ何の罪も犯してない奴等を縛り上げるとか、その方が不味くないですか? ラミアーさん!!
引っ張り出された連中は、ラミアーの【念動力】で空中に縛り付けられ、あたかも不可視の十字架に張り付けられているかの様に見える。
その姿は流石に目立つらしく、ここが領主館から続く大通りだって事もあって、既に、結構周囲がざわ付いて居る。
「あのねぇ、領主である貴族の後をコソコソ覗ってるってだけで、充分怪しいし、不敬だと思うよ?
それこそ、何が企んでるだろぅって疑われるにも充分だし。とーるんの優しさは美徳だと思うし、あたしも好きだけど、貴族としての権利の行使を躊躇っちゃためだよぉ?」
…………あー成る程、確かにそうだわ。ちょっとまだ、前世の価値観を引き摺り過ぎだったわ。
前世の、特に一般市民だと、『疑わしきは罰せず』が基本な上、“具体的な被害”ってぇヤツが無いと、捕まえる事すら儘成らなかったけど、今の俺は貴族で領主な訳だから、“後を付いて回る”なんて、事やらかせられてるんだから、捕まえる位なら問題無いのか。
てか、前世でだって、後を追い回してれば、立派にストーカーだよな。
まさかラミアーに、人間社会のルールで忠告貰うとは思わなんだわ。
「すまん、ラミアーの言う通りだわ。有り難う」
「ん~」
俺の感謝の言葉に、ラミアーが頭を差し出す。
俺は苦笑しながら、ワシャワシャとそれを撫でた。




