オーナーではある
遅くなりました。
申し訳ない。
治安の維持ってぇ意味では、兵士の巡回ってのは、抑止力的な意味でも有効ではある。
ただ、人の憤懣なんかは押さえ付けてたからと言って解消するでも無く、下手をすればなにかの拍子で爆発する事だってある訳だ。
その辺の解消の上手い輩なんかは、自分自身で方法を見つけたりして、良い感じにやってる訳なんだが、個人でソレの出来ない奴等なんかは、外に解消手段を求めるしかない訳だな。
まぁつまり何の事かと言えば……
「ご紹介に与りましたミレーヌでございます」
領館の応接室で、俺の対面のソファーに座っているのは、楚々としたドレスにも関わらず、溢れんばかりの色気を纏った女性。
前世ではよく見慣れた、しかし、今世ではあまり見ない艶やかな黒髪の、おっとり系美人。
「元々、王都の方の人なんだって?」
「はい、縁が有りまして、こちらの方にご紹介いただきました」
「うむ、王都でも有数の高級店のNo.1だった女性だ。我が君よ」
エクスシーアの説明に、さもありなんと頷く。何と言うか、納得感が凄いわな。こう、母性的な意味で。
さてさて、俺の目の前に座る女性がどんな立場の人間かと言われれば、まぁ、所謂、夜の蝶と呼ばれる人種な訳なんだわ。
面会してる相手が相手なんで、今日は珍しくイブ達も席を外して貰っている。
何かもう、色々と説明して頭を下げて、一人一人デートの約束を取り付けて納得して貰たんだけんどもよ。いや、もうコレだけで疲れたわ。いや、マジで。
「我が君?」
「あ、いやスマン」
人の三大欲求ってのは、言わずと知れた『食欲』『性欲』『睡眠欲』の3つであり、その内の『食欲』と『睡眠欲』ってのは、割と全くの個人で解消出来るってか『睡眠欲』なんざ完全個人でどうにか出来る事だし、『食欲』に関しちゃダイレクトに生き死に係る事だから、解消しようとしない人間の方が珍しい位な訳だが、『性欲』に関しては、積極的に解消しなくても何とか成る類の欲求ではあるんだが……
いやこれ、実は制限しようとかすると色々と問題があったりするんだが。
まぁ、それはそれとして、積極的に解消しなくてもどうにでも成る割に、結構、溜め込むと暴発したりして危険な部分でもある。その辺は、憤懣と同じだな。
で、三大欲求に数えられる位には、人の生活とは、切っても切り離せない物な訳だ。
切っても切り離せない上に、溜め込み過ぎると危険な以上、押さえ込ませ続けるのは悪手だしな。
そもそも、変に規制だけしてたって、裏で蔓延っちまうのがこの手の産業なんだから、下手に規制するよりは、安全な場を提供する方がリスクヘッジ的にも良い筈なんよね。
ただ、俺の方に、その手のノウハウなんて無いから、こうして商人の伝手を使って、その道のプロを紹介して貰った訳だ。
今までは、冒険者向けの大衆酒場のウエイトレスが小遣い稼ぎなんかをしてるのを御目溢ししたりしてたんだが、流石に冒険者の数がなぁ。
裏の顔役が蔓るのも、病気が蔓延するのも御免だからな。
こっちでコントロールしちまおうって算段なわけだ。
「てか、良く来る気に成ったな」
ぶっちゃけお相手が、荒くれ者に成る訳だから、あまり気が進まないだろうに。
どんな縁で、No.1さん何かが来てくれたのやら。
その上、結構な後輩も連れて、だ。
「いえ、エクスシーア商会の化粧品の数々には、大変お世話になって居ますから」
あぁ、そう言えば、主力商品なんだっけ。




