いざ! 魔人国スルフォブルーローズ
「お前に正式な指名依頼が来ててな」
「魔人族国からか?」
俺の言葉にグラスが頷く。何と言うか『やっぱりな』と言う感想しかない。
何時もの様に狩りをこなしてきたギルドで、受付のおっちゃんから「ギルドマスターからの呼び出しです」と言われた時に、あの事かな? って言う予測はついた。
ファティマ達を通じての連絡だけじゃ無いって事は、エリス個人じゃなく、国を通じての正式な物って事な訳だ。
これを断るって事は、魔人族の国も、ウチの国もないがしろにしてるって事になる。確かに冒険者ってのは自由人だし、その責任は個人に帰る訳だが、その実、何の柵も無いって訳じゃない。
結局は、周囲の影響力の大きい相手に従わなけりゃいけないって場面は、どうしても出る。
「内容は?」
「魔人族の国、スルフォブルーローズの女王戴冠式の出席及び、新女王の警護だ」
まぁ、その辺も聞いてた通りだな。
「オッケー、分かった」
「んじゃ、これ、依頼書な」
そう言って渡されたのは一枚の羊皮紙と、数個の封書……おそらくエリスからの身元証明及び入国許可証だろうな。これがなけりゃ、正式に国境を超えられない。
普通は各種ギルドが入出国の許可証を領主の名の下に発行するんだが、冒険者だけはその機能がない。その代わり、冒険者に限っては、お金を積めばどうとでも成るんだけどな。世知辛いやねぇ。
ちなみに、その領主も王の名の下に発行してるらしい。何だろね。要は代理の代理? その辺は色々あるやね。
そんじゃま、招待も受けた事だし、式典に向かいますか。
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教会に戻って、イブ達に旅の準備を指示する。あ、イブの式典用の服、どうすっかね。
ちょっと頭からスッポ抜けてたわ。
俺はオファニムに搭乗してりゃ良いが、イブはそうは行かんからな。
ふむ、……ファティマ、エリスにイブの服の事、分投げてくれる? 料金は出すからって。
『【了解】分かりました。マスター』
今回も俺とイブ、犬達6頭で行こうと思ってる。また走ってだ。ぶっちゃけ、馬車使うよりも早いからな。
今から行けば、式典1か月前くらいには着くはずだから、向こうでエリスに服屋を押さえて貰っておけば、間に合うじゃろ。
滞在は俺的に宿屋でも良いんだが……
『【報告】マスター。個体名【エリステラレイネ】からの返事です。「仔細了解したのじゃ、王城の貴賓室を用意して待っておるのじゃ」との事です』
ああ、うん。そうだよな。そうなるよな。
良いんじゃろか? って気もするが、一応『冒険者のトール』さんは国を救った『ドラゴンスレイヤー』って事になってるしな。まぁ、分からんでもない。
それに、エリスの護衛って建前も有るんだから、王城に居ないとむしろ問題が有るか。
いや、建前か? 『怖いのはむしろ人間』『のど元過ぎれば熱さ忘れる』って話もある。そうならない事を祈るしかないんだが、こう言った希望的観測って、むしろ破られる為にあるからな。
それに……いや、杞憂に終わって欲しいなぁ。
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「お帰りなさいなのじゃ!! ご飯にするか? お風呂にするか? それともワ、シ?」
そう言って出迎えたエリスと俺の間に、ファティマとジャンヌが割って入る。
ここに居るのは割と親しいい連中ばっかりとは言え、そんな兵士なんかもドン引きしてんじゃねぇか!!
いや、ゴドウィン侯だけは「姫様、成長なされましたな」て、感涙を拭いてるけんどもよ。おじいちゃん、むしろ止めれ。
俺は、周囲を見回し、兵士達の後ろから、コッソリと逃げようとしていた聖弓を瞬間に加速してひっ捕まえると、回転四の字固めを決めた。
「お前は、自分の使い手に何、教え込んどるんじゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『【悲鳴】ギブギブギブッ!! ギブアップですわぁ!!!!』
アーカイブだな!? アーカイブからの情報だな!? てか、一国の女王が口にして良い台詞じゃないんじゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
何と言うか聖弓。聖女に変形する割に下世話と言うか、ゴシップ誌好きなオバはん感半端ないんだよな。
てか、アーカイブ内のそう言った情報集めたの、確実にコイツだよな?
『【頭痛】聖弓、貴女……』
『【溜息】ボク、恥ずかしいデス』
同じ聖武器にまで呆れられてんぞ? 聖弓。
「どう言う了見でこんな事した? 怒りはするが、言い訳を聞かせてみ?」
『【驚愕】結局怒るのですか!? それだと言い訳をする意味が無いじゃないですか!!』
「『温故知新』だ。過ちを繰り返さない為だな」
『【理解】納得できる理由ですわ!?』
予想は付くが、被疑者の口から理由を聞きたい。見れ、大スベリしたエリスが、羞恥で蹲ってるじゃねぇか。初対面で生肉をバリバリ食ってた様な豪快姫の反応じゃなくなってんぞ?
『【弁明】恋のサポートですわ……中々距離を詰められない二人をこう……周囲から外堀を埋めて行く感じで……』
「距離の詰め方がおかしい!!」
何故、新妻風? いやさ新妻風。なる程、それで新妻風か!!
謎は全て解けた!!
「犯人はこの中にいる!!」
「げん、こうはん、たい、ほ?」
聖弓をジト目で見てるイブにツッコミを貰っちまったぜ。犯人は逮捕されてたわ。俺に。
つまり、『すでに二人は結婚してるんだから~』的な事を周知させようとしたって事だな。してねぇけど結婚。
多分だが、通い妻のソレ的な、事実婚を見せつけて、周囲の認識を外堀から埋める? みたいな?
前世の学校とかでも居たよな。『もうお前ら結婚しちゃえよ』みたいな。でもただの幼馴染で、恋人ですらなかったみたいな。
つまり、そう言う状況を作る事で、聖弓は、エリスの恋の後押しをしたかったってこったな。
HAHAHAHAHAHAHAHA!!
台詞のチョイスとか時間とか場所とか、全てがおかしいんじゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!




