力を合わせて
遅くなりました。
申し訳ない。
一気に邪神の懐へと飛び込み、振るった掌底で勢いを乗せて押し込む。
人間大は有りそうな巨大な掌のインパクトで、邪神が空間ごとひしゃげ、後ろの空間に叩き付けられた。
まるで“蚊”の様に潰れた邪神は、しかし、未だに厭らしく嗤いながら、破裂した身体の、その皮膚の亀裂から黒い靄の様なオーラを噴出させ、“腕”に纏わり付いてくる。
あぁ、そう言えば、コイツの目的は【プラーナオリジン】なんだったか。いや、それと決まった訳でも無いのか? ただ、この様子を見てると、どうも正解っぽいよなぁ。
そもそも何で、邪神が【プラーナオリジン】なんざ求めてるんだか。っと、そんな考察をしてる場合じゃ無かった。
こうしてる間も、プレッシャーがとぎれてるってぇ訳じゃ無い。
空間で押しつぶしちゃ居るが、死亡させたって訳じゃぁ無い以上、コイツの権能も失われてるってぇ訳じゃぁ無いからな。
いや、多分、死なないんだろうけど。
肉体は滅んでも、精神は別次元に居るんだし。文字通り。
それはそれとして、この次元世界からは居なく成って貰うのは既に決定事項だ。可及的速やかに、居ね!
俺はウゾウゾと蠢いてる邪神に対し、“腕”の力を籠める。流石と言うか何と言うか、“腕”は、俺の意思で空間そのものに干渉できるらしく、邪神の周囲と、コイツが出て来た空間に対して干渉し、その歪みを固定しつつ、ソコに邪神を押し込める様にと空間を収束させて行く。
あれだ、所謂ワームホールってぇ場所に無理やり押し込んでるってぇ感じだわ。感触的に。
だが、邪神の方もそれに対抗し、ウゾウゾと蠢きながらも、押し返そうと……いや、押し返そうとはしていないのか?
むしろ、ここに留まって、俺の“腕”を取り込まんと、じわじわと侵食しているってぇ感じか?
いや、俺の“腕”ってぇか俺の【プラーナ】、もっと言えば【プラーナオリジン】をか。
だとすると、やっぱり、コイツの目的は【プラーナオリジン】だったってぇ事か?
いや、そんな事など、どうでも良い。侵食して来たとしても、こっちのやる事は変わらない。このまま押し通させて貰う。
そう思いながら、更に“腕”に力を籠める。だが、邪神の方もこの場に留まろうと、激しく抵抗して来る。
ギリギリと軋みながら、ワームホールに押し込めようとしている俺と、この場に留まろうとする邪神とでの力比べ。
その上で邪神の方は俺の“腕”に侵食し、恐らくだが【プラーナオリジン】を貪り食っているのだろう。少しずつ、この次元における存在感を増して行ってる気がする。
拮抗している状態ではあるが、それでも、押し込んでいる俺の足元も、ギシギシと軋んだ音を立てる。
「かせいするよぉ」
『おしかえせぇ』
「ワンワン!!」
「ワオン!! ワン!!」
『【宣言】物理的にで在れば、私も、支えに成れます! マイマスター!!』
ラミアーが【念動力】で、俺と邪神の押し合いに干渉し、セフィも、蔦で邪神のオーラを絡め捕り、無力化してくれる。ミカとバラキも俺の“腕”に自身の【プラーナ】を添わさせて、俺の後押しをする。
そして、ファティマは、俺の背中から文字通り身体を支えてくれた。
「トール、様!!」
イブも、俺の横に立ち、腕に手を添え、支えに成る。既にほぼ、力なんざ使い果たしているだろうに。
拮抗していた力が、ジリジリとこちらに有利に傾いて行く。
だが邪神も、そのオーラをブワリと激増させると、最後の抵抗とばかりに、こちらを飲み込もうと襲い掛かって来た。
『させないよぉ』
だが、それはさらに増やしたセフィによって、止められた。が、ほんの数秒で上回れる。
けど、その数秒が有れば。
「そんなに欲しいんなら、くれてやる!! 持ってけや!! 邪神さんよぉ!!!!」
俺とイブが、グンッと、腕に力を籠め、そしてそのまま振り切る。足元から、膝へ、そして腰へと連動させる動き。
腰から肩へ、そしてそれは掌底の形と成って居る“腕”そのものへと、威力を伝えきった。
常に傍らにいて、俺と言う人間の動きを見続けてくれていたからだろう。イブは、俺の動きに合わせ、むしろ、後押ししてくれる様に、俺の“腕”へと更なる力を込めてくれた。
ミシリ、と空間が軋みを上げる。
次の瞬間、邪神の背後の歪みが、割れ、そして、そこに、俺は、俺達は、“腕”ごと邪神を押し込んだ。




