視えている邪神の手
遅くなりました。
申し訳ない。
俺が無茶すると、泣きながら文句を言うのに、イブだって結構な無茶をする。【プラーナ】を高速循環させてる俺達ですら膝をつきそうなプレッシャーの中で、その邪神の圧力を抑える為に【魔法障壁】を張ってる訳だからな。
とは言え、イブがそんな無茶をするのも“俺の為”な訳だから、その事に関しては感謝しかない訳なんだけれども。
とは言え、そもそも、身体的に、人間のソレとは違っているラミアーやセフィ、【プラーナ】で強化している俺とか犬達と違って、イブは身体的には普通の女の子でしかない。
こんな無茶は、それ程、長くは維持できないだろう。
いや、イブだと、俺ってえファクターがある以上、限界なんざブッチする勢いで【魔法障壁】を維持しそうなんだよな。
俺も大概、家族に対して過保護な自覚が有るけど、皆も俺に対して結構な過保護だからさ。こればっかりは、本人がどれ程強いかとか関係なく、兎に角、心配だから、そう思っちまう。
それだけって訳じゃぁ無いが、イブの負担を軽減する為にも、速攻で終わらせんと!
そうは思うんだが、これ、予想以上に厳しい!!
多分、このまま発動すればそれだけで【闘神化】までは行けるんだろうが、そのままだと、周囲を吹き飛ばす勢いでのサイズに成っちまう。
だから、この容量を保ったまま、サイズを小さくしなけりゃいけない……つまりは、濃密に凝縮させるって事に成る訳だが、これ以上に濃縮しようとすれば、途端に制御が怪しくなる。ってか、【プラーナオリジン】が暴れ回る。
まぁ、当たり前だし、予想はしていた。ただ、予想以上に暴れっぷりが激しいが、な。
「おお!! 歓喜!! 求めしエネルギー!! 永劫なる祝福!!」
俺の【プラーナオリジン】の動きに気が付いたのか、邪神が俺の方へと手を伸ばす。てか、コイツの目的は【プラーナオリジン】の方なのか!?
「ワン!!!!」
「ワオン!? ワン!!!!」
「やらせないよぉ!!」
「ん!!」
『【警告】それ以上の接近は許しません!!』
『やらせはせんぞぉ!』
先程よりプレッシャーは減ったとはいえ、それでも脂汗が滲む様な圧力が充満してるってのに、ミカやバラキ、ラミアーとイブ、ファティマとセフィが俺と邪神の間に立ちふさがる。
いや! 嬉しいし、有難いけど、無謀だぞ!!
邪神が無貌の笑みを浮かべる。まるで抵抗される事が嬉しいとでも言うかの如く。
俺達と邪神との間の空気が、質量を伴ったかの様に重く、昏く、色付いた様に見え、しかし、現実に密度が増したと感じられる。
実際、パチパチと火花が散り、空気の圧力によってだろう、風が周囲の軽い物を巻き上げている。
随分と余裕がありそうな邪神の表情に比べ、こちら側の人間の顔は、皆が皆、険しい表情で邪神を睨む。いや、実際、余裕なんざ無い。
それだけのプレッシャーが、俺達を襲っている。
ミカとバラキが【プラーナ】を放出しながら、邪神のプレッシャーを押し返し対抗し、イブとラミアーが各々の【障壁】で、邪神を抑え込まんとする。その度に火花が散り、風が逆巻く。
セフィ―も蔦を使って邪神を物理的に拘束しようとしているが、しかし、それは邪神側の……【障壁】にも成って居ないであろうオーラの様な物と拮抗し、ギリギリと音を鳴らしている。
その彼女らの後ろで、ファティマが物理的な【壁】として、立ち塞がっている。
状況はやや劣勢。てか、俺達がここまで押し込まれた状態になるなんざ、早々ない。まるで本気を出していない様に見えるってのに、どれだけの力を有してるんだよ!!
これですら、セフィに言わせれば、邪神としては『雑魚』レベルだってぇ事なのにさ!!




