ソコニイルモノ
遅くなり申し訳ない。
てか、何しに来たんだバスト?
俺が首を傾げて居ると、バストがチラリとセフィの方を見た後、俺の方を見て、口を開く。
「来るニャァ」
「は?」
いや、来たのはおまいで、ってか『来る』?
『う~ん、ざこぉ』
はい? さっきから何を言ってるのかが分からんのだが。
『らみあー、ばりあー』
「うん? 誰と誰にぃ?」
『ぱんぴー』
「おっけぇ」
と、イブとヘンリエッタ王女、それとマリエル、ついでとばかりに執務室全体にラミアーが【念動障壁】を張った。
てか、パンピーって一般人って事だよな? この三人、一般人枠なんだ。ってか、いや、確かに一般人なんだけどさ、他って魔物と精霊な訳だし。てか俺は一般人の枠に入ってないのな。まぁ、良いけど。
「いや、それよりも何?」
『とーるんも、まだまだだねぇ』
「は?」
いや、マジで何なの? と、その次の瞬間、俺の背筋に冷たい物が流れる。瞬時に【プラーナ】を活性化させ、体内を高速循環させた。ミカとバラキも、そっちを向き、低く唸り声をあげる。
いったい、何時から居た?
執務室のソファー。そのラミアー達が座って居ない一角に、そいつが座っている。気配なんぞ、感じなかった。だが、そこに突然現れたって訳でもないのは確かだ。何せ、空気の揺らぎすらなかった訳だからな。瞬間移動したってぇ事じゃぁ無いって事な訳だ。つまりは、最初からそこに居たと言う事に成る。
だが、何時から? 何時の間に? いや、セフィがラミアーに備えさせたのは、ついさっきだ。つまり、そこに存在したのは、ついさっきからって事に成る。
美少女、美幼女を見慣れている俺の目からしても、酷く整った美形に見える。だが、そう認識できて居るにも拘らず、その顔の全体像はぼやけて印象に残らない。全体的に敗退的で背徳的な黒い装いをしている。いや、黒か? むしろ、あらゆる色彩を放っていると感じられる気もする。
その美貌、装いも含めて、存在感が半端ない筈なのだが、むしろ背筋が寒くなる程に印象には残らない。
【プラーナ】を純化、精製させ、【プラーナオリジン】を循環、加速させて、ソレの圧力とも強奪とも言える威圧に抵抗する。
ああ、厭な感じだ。ラミアーが執務室にも【念動障壁】を張ったのは、コイツのコレを防ぐ為か。確かに、こんな物、外部に漏れれば、どれ程の被害が起こるか分からない。
背筋が凍り付く程の怖気を感じながらも、俺が冷静でいられるのは、向こうからの敵意を全く難じないからか?
いや、コレはバストの権能が効いているが故の敵意の無さなのか? 見れば、バストからも威圧感の様な物が感じ取れる。多分、通常パッシブでしか発動して居ない、戦意や敵意を無効化する【凪の空間】とでも言うべき権能をアクティブで発動してるんだろう。
脳内お花畑なだけかと思えば、それなりにちゃんと【精霊】として働いてるってぇ事か。
まぁ、コイツ相手だと、そうしなけりゃいけないってぇのも理解は出来る。で、なけりゃ、どれ程でも被害が広がるだろう。なんだかんだ言っても、バストが『ラブアンドピース』なんて物を掲げているのは、そう言った平穏を愛するが故だろうしな。
そして、それ程迄にバストが、いや、セフィもか。彼女達が警戒するコイツを……いや、コイツと同じ存在の事を俺は知っている。
「邪神……」
そいつは、無貌の笑みを零すと、手に持って居たカップから、一口、紅茶を口に含んだ。




