脳筋のフリした知能犯
「跡形もなく爆散した?」
『【確認】僅かな【オド】すら確認できません。完全に消滅した様です』
……今まで爆散する様な相手がいなかったからこその違和感か、アポリオンが【オド】の凝縮をしていたが為に爆散したのだろう事は確かだが、その理屈に納得は出来ても、それでもついて回る何となくの違和感。
確かに、今まで魔族を倒した時って、オーバーキルでの消滅ってのが殆どだったから、ここまで実力的に僅差での勝敗が決したのってのも初めてではある。
僅差でってのはバフォメットもそうだけど、彼奴とは『その結果、死んでしまってもしょうがない』的なやり取りではあっても、『相手を何としてでも殺す』と言ったやり取りはしていない。もっとも、ここ最近は時間切れでの引き分けが殆どだったけど。
だって、彼奴とは実力が拮抗してる分、本気でやりあうと、下手すりゃ千日戦争に成っちまうから、時間を区切らんと際限ないんよね。俺、忙しいし。
それはそれとして、もしかしたら、こう言った場合には魔族ってのは爆散するのかも知れんが、何と言うか不自然さが先だって納得が出来ない。
いや、前世の特撮じみた相手ではあったし、その辺りのお約束的には爆散する物ではあるが、この世界、俺の期待を斜め上方向に裏切ってくれるから、こんな処だけ外連味が有ってもそれはそれで逆に妖しい。
逆に妖しいと言えば、アポリオンがこんな程度で、俺に戦いを挑んで来た事が、そもそも可笑しいんよね。
確かに、現状の、通常状態……とは言い難いけど、何せ俺が、ケルブを追加装甲モードで実戦投入したのは、これが初めてだし、その分はパワー的な方に乗っては居るから、スピード的にはちょっと増えたって程度ではあるんだけど、まぁ、それはそれとして、その状態の俺を上回れる位には、アポリオンは強かった。
けど、バフォメット曰く【闘神化】の方の情報も、魔族の間では噂に流れて居たらしいし、そもそも、この街で、既に【闘神化】は披露している。
にも拘らず、第二形態迄しか持って居ないアポリオンが戦いに来るのは矛盾してるんよね。何せ此奴、一方的に蹂躙するのが好きだって公言する様な奴だし。
結果論で言えば、魔力装甲を魔力魔導鎧状態に出来たとは言え、【闘神化】には遥かに届かない程度の力しかない俺が、上回れるってぇ程度の第二形態で戦いに来たのが、そもそも違和感しかない。もっとも、これはアポリオン自身が、第三者視点から見た自分の実力を測りかねていたってぇ可能性も有るんだけんどもさ。
何せ、俺を吹っ飛ばした後、必ず自分の力がこの位なのかって感じで確認してた様子が有ったし。
ただ、それでも付きまとう違和感。むしろ、何かを試してた的な? 確認をしていた的な?
…………!!
「アポリオンの爆散後の総重量って、分からないか、いや、むしろ、それ以前に戦っていた時の総重量が分からんと、意味が無いか」
『【確認】!! 成程、その可能性は捨てきれませんね』
「取り敢えず戻る」
『【了解】分かりました、マイマスター』
吹っ飛ばされた時に、随分と大森林の奥の方にまで来ちまったから、犬達やイブ達を置いて来ちまったんで、早目に戻らんと心配かけちまうだろうが、それでも、これだけは確認して置かんといかんからな。
そう思い、足早にアポリオンが地面を蹴って目くらましをした場所まで向かう。あれだけ臆病で、警戒心の高い奴が、無防備に背を向けて逃げ出した事に、疑問を持つべきだった。
いや、音速で逃げている奴に追いつける者なんざ、早々居ないだろうが、現に俺は追いつく事が可能だったし、アポリオンの身体能力以上の相手なら不可能ではない筈なんだ。そもそも“逃げる”ってぇ場合は、アポリオン自身の能力を上回ってる奴が相手の場合が殆どで、そう成ったら、普通に逃げようとしたところで、追いつく者の方が多いだろう。
だからこその目くらましからの全力逃走だとも言えるが、あのアポリオンが、そんな単純な逃げ方をするだろうか?
その答えが、今俺の目の前にある『穴』と言う訳だ。元の場所に戻った時、そこには、人間サイズの何かが入れる程度の『穴』がぽっかりと開いていた。
『【確認】第二形態では無理でも、最初の人間形態であれば、この『穴』には入れるでしょう』
「……つまりはしてやられたってぇ事か」
『【屈辱】その様です』
要するに、あの派手な粉塵の目くらましの目的は、全力逃走時の初動を隠す事ではなく、こうして、元々の場所に隠れる“本体”から俺の目を背けさせる事だった訳だ。
それに気が付かす、俺はまんまと囮の方に釣られて行き、アポリオン本体は、こうして悠々と逃げ去った、と。
恐らくはそもそも、俺を打ち倒すと言う事が最終目的では無かった、と言う事なんだろうな。戦力確認か、自身の力の確認か、多分そんな所。
【闘神化】をさせる様な心算も、最初っから無かったとみて良いだろう。だからこそ、俺に挑戦して来た。様々な確認の為に。
それが終わったから逃げた。ってぇ事だろうな。だとすると、自身が蹂躙好きってのもブラフだった可能性も有る。まったく、食えない魔族だわ。
『【嘆息】つまりは再戦の可能性も有る、と言う事ですね』
「そうだね」
次も、真っ向から向かってきてくれれば有難いんだが、そうも行かないんだろうなぁ。
やっぱり、どの魔族も面倒臭いわ。




