知名度が上がればこう言う事も有る
「アハハハハハハハ!! まるで虫けらの様じゃぁないかぁ!!」
「ギャギャ!!」
「ギャギャギャ!」
「ギョホ! ギョホホ!!」
「ギャホッホ! ギャホゥ!!」
「アウン!!」
「ワオンワオン!!」
「グルル!! アオーーーーン!!」
「バウバウ!!」
「ガウーーーン!!」
『【通達】マスターの精神安定の為です。大人しく狩られなさい!!』
俺にどんな事情があろうとも世界は回って行くんだってばよ。チクショウ。
と言う訳で、今回もミカ達やファティマとでゴブリンを狩っている訳ですが……八つ当たりだよ! 文句あるか!!
色々と溜まった鬱憤をゴブリンの集落を壊滅させる事で晴らした俺は、その他にオーク1頭とアルミラージ4匹、その他に野鳥6羽を襲撃して、何時もの様にオスロー達に荷車を引かせた。
公都の入場門は既に顔パスで、公都の道を歩く人々も温かい目で眺める、まぁ、すでに1年以上繰り返して来てるしな。
時折ギョッとした目で見るのは、公都に馴染みが無いか、初めて来た商人や冒険者だろうさね。
そんな日常生活だが、最近はそれに噂をする様な素振りがチラホラ。これが以前の様な“赤銅色のゴブリンライダー”とかだったら眉を顰めた所だが、聞こえてくるのは“ドラゴンスレイヤー”って言葉だ。
これに関しちゃ魔人族の国が積極的に噂を流してるし、その立役者が『冒険者のトール』だって事は隠していない。
それでも噂話をされるに止まっているのは確証がないからだろう。
公都の『冒険者のトール』は、12才になるかならないかの成人前の少年なんだからな。それもD級冒険者の。
若輩で中級と言って良いランクの冒険者がドラゴンをスレイヤーできるとか思う訳が無いんよ普通。
なんで、今、公都では『本人説』と『同名の別人説』とどちらも出ている。
『別人説』の方に傾ききらないのは、俺が毎日の様に魔物を大量に狩り続けてるからだろうな。うん。
「毎日あれだけ魔物を狩り続けられるなら、ドラゴンくらい……」ってな訳だ。
******
オスロー達に解体場へ運んでもらってる間に、俺は討伐証明を出しに行く。まぁ、こっちは常設依頼の魔物じゃ無けりゃ意味無いんだがね。
入り口をくぐり、いつもの受付のおっちゃんを見つける。
「おう、お前がトールか?」
「……」
なんか角刈りの脳筋そうな大男に絡まれたんだが? ご指名で。まぁ良いけど。
ドラゴンスレイヤーの話が広まるにつれ、こういう輩が増えてきた。
コイツ等は別に俺が本当にドラゴンを倒したのどうかは関係なく、『冒険者のトール』が『ドラゴンスレイヤー』だって事が重要らしい。
特に、鎧姿の俺を見て、上から声を掛ける様な奴は、その『ドラゴンスレイヤー』って言う箔が欲しいだけだからな。
俺に勝って『ドラゴンスレイヤー』より強いと喧伝したいのか、俺をパーティーに入れて『ドラゴンスレイヤー』のパーティーだと言いたいのか。
さて、コイツはどっちだろうな?
「そうだが、アンタは?」
「おう!! 口の利き方に気を付けろ!! D級!! この方はB級冒険者、『剛腕武断』のヴァイス様だぞ!!」
最初に俺に絡んで来た男の取り巻きなのか、ヒャッハーが俺にそう言う。
『剛腕武断』のヴァイス、ね。
うん。分からん。
「喜べ!! お前をこの俺様の配下に加えて……」
「ひげ剃って、歯ぁ磨いてから一昨日きやがれ」
そう言って、俺は受付のおっちゃんの所に向かう。
なんだろうな。この手の勘違い自己中は。なんで断られるって選択肢が無いんだろうな。正直、思考回路が意味不明だ。
「お前!!」
後ろから掴み掛って来るも、当然予測できてたんで、それを避ける。ついでにその勢いを利用して入口の方へと誘導し、軽く背中を押して、外へと追いやった。
「え? あれ?」
いつの間にかギルドから出ていたヴァイスはポカンとした顔をしていたが、それが俺の仕業だと理解すると、顔を真っ赤にして、建物の中に戻って来た。
てか、これで力量差を理解出来ないってんなら、筋肉バカか脳筋、もしくは馬鹿かバカで決定だな。
さっきと同じ様に飛び掛って来たんで、ヌルリと躱してその場でクルクルとまわす。
と、バレリーナの様に回っている内に足を縺れさせてバタンと倒れた。
ヴァイスがそんなパントマイムをやっている間に受付に行った。
「これ、討伐証明ね」
「はい、と、じゃ、これが割符ね」
「あんがと。じゃ、ちょっと、アレとOHANASHIして来るわ」
そう言ってヴァイスとやらを指さすと、おっちゃんは「ほどほどにな」と言った。分かってるって、武器を使うまでも無い。
******
ヒャッハーを巻き込んで『剛腕武断』をスイングして来ると、今はC級に上がった『緑風の調べ』の面々が酒場から声を掛けて来た。
「相変わらずの様だね」
「まぁね」
アルトの言葉に、軽くそう返し、肩に手を掛けようとしたダンダをヒョイッと躱す。
相変わらずこの獣人のオッサンは、俺の肩を叩く事に躍起になってるようだな。
飽きないんじゃろか?
「……相変わらず、肩に触らせねぇな、テメェは」
「まぁな」
「だが、その余裕も今日までと知れ!!」
「やめなよダンダ」
ジリジリと間合いを詰めようとするダンダだったが、その後頭部にユーネがチョップを入れた。
「龍殺しのえーゆー様だよ? あたし等とは格が違うさ」
ちょっと拗ねた様にユーネがそう言った。等級で言えば俺のが下なんだがな。まぁ、ユーネの言ってる事はそう言う事じゃないんだろう。
「と言うか、アンタ達は、俺が龍殺しだって確証を持ってる様な言い方だな」
「そうだね、君達が公都に居なかった時期と、龍殺しの話が出た時期が一致するし……」
「わたしの実家からも、ドラゴンスレイヤーの話は正式に通達されたと連絡が来ましたので」
アルトの弁にリシェルが補足を入れた。実家? 魔法学校に通ってた事と言い、リシェルはやっぱり、良い所のお嬢さんなんかね?
ドラゴンスレイヤーの事については殊更喧伝する気も無いが、別に隠してる訳じゃない。
言って良いのか悪いのかと言う視線で、リシェルが、俺の方を見る。
「『冒険者のトール』の特徴として、その、赤光を漏らすスリットの入った黒鎧と言うのも聞いてますので」
ああ、魔人族の国から帰った後は、冒険者活動に行く時は必ず黒鎧を纏ってたからな。その特徴を知ってたら当人だと分かるか。
なんか、リシェルは変に恐縮してるけど、俺としちゃ、知られてたとしても構わんのだから、変に距離を取るのはやめてくれ。マジで。




