物理さんは仕事する
上手く纏められず、時間が掛かってしまいました。
遅くなり申し訳ない。
「くくく、離しはせん!! 離しはせんぞぉ!!」
「なら、絶対に離すなよ?」
背部大型バーニアと肩部噴出孔からの噴射で、俺はその場で回転を始める。そうなれば、当然アポリオンは振り回される事に成る。さぁ! 物理学の世界にようこそ!! アポリオンさんよぉ、慣性の暴力に、どれだけ耐えられる?
「ぬぅ!!」
そのまま振り回わされればどう成るかが分かったアポリオンが、それを阻止すべく、足と腕に力を入れる。
あぁ、確かにお前の膂力は凄まじいだろうさ、俺よりも遥かに高い筋力を有しているのは確かだ。それを振り絞れられれば、俺の方に成す術なんざ、有りゃしないだろうよ!
さっきまでだったらな?
俺と言う【プラーナ使い】の特性として、【プラーナ】を循環精製しながら、次第に効率を高めて行くと言う物が有る。
何が言いたいのかと言えば、その性質上、俺はスロースターターにしか成りえないと言う事な訳だ。つまりは、俺は時間が経つほどに、【プラーナ】での強化率が高くなるってぇ訳だ。
さて! 今、俺の【プラーナ】の出力とアポリオンの膂力、どっちの方が勝ってるか、勝負と行こうか!!
「ぐぅっ」
「ぬうぉおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
白羽取りをするアポリオンの腕が、脚が、ボコリと言う音を立てて肥大化する。外骨格の隙間が広がり、その分筋力が増加したのだろう。
成程、向こうも余力は残していたってぇ訳か。だが、俺も、体内循環を加速させ、【プラーナ】を濃縮、精製、純化させ、【プラーナオリジン】へと昇華させながら、更にそれを濃縮加速させて行く。
全身の、そのスリットの赤色光が暗褐色へと変化して行き、その光度も高まって行く。
「うぐぅっ!!!!」
「ぬがぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その均衡が崩れた瞬間、アポリオンは一瞬、地面を掴む様に足を大地にめり込まさせるが、しかし、それも無駄な足掻きと成り、次の瞬間にはその巨体が、物理法則に従って慣性の暴力に曝される。
「うっがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一度回転を許してしまえば、その渦から逃れる術は手を放す事しか無いだろう。だが、この状況で自ら手を離すと言う事は、自分から吹き飛ばされると言う事と同意味であり、その結果は吹き飛ばされ、木々に叩き付けられると言う未来しかない。
大地に叩き付け、バウンドさせた時の反応から、恐らく斬撃には強いが、打撃に、特に体内にダメージが響く系の攻撃は、避けたいのだと察せられる。要は、ソレが弱点と言う訳だ。だとしたら、この勢いで木々や崖に叩き付けられるのは避けたい所だろうが……
俺は、更に回転を加速させる。
「ぐぬうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
それに振り落とされまいとして、アポリオンが腕に力を籠める。
なぁ、お前、その考えに、居付いちゃいないか?
次の瞬間、俺は一気に逆制動を掛け、強引に停止した。
「なっ!!」
肥大化したせいも有って、その重量を増していたアポリオンは自らの重量エネルギーに耐えきれなくなり、吹き飛ばされる事に成った。




