手を出すと被害を受ける系の変身シーンだと思う
「うむ、うむ、壊し合いには、良き日であるな」
「佐為ですか」
街からそれなりに離れた大森林の中、俺とアポリオンが対峙する。俺の後ろにはミカ、バラキ、ウリ、ラファ、イブとティネッツエちゃん。ラミアーとセフィ、それとネフェル王女とヘンリエッタ王女、ついでにクッ殺さん。
……いや、俺の弟子的立ち位置のネフェル王女は分かるとしても、ヘンリエッタ王女とマリエルは何で居るねん。
「愛し子様の居られる所なら!!」
「ヘンリエッタ様にここまで思われているのだ!! 感謝しろ!!」
何によ。てか、家の家族達なら兎も角、ヘンリエッタ王女とマリエルは現実問題として無関係だから帰ってくれねぇかね? マジで。
「まぁ、良いや、障壁よろ、イブ、ラミアー」
「ん!!」
「らじゃぁ~、りょうかぁ~い」
イブとラミアーが、それぞれ魔法障壁と念動障壁を張ってくれる。
アポリオンの力がどれ程かは知らんが、俺が感じているプレッシャーから考えるとバフォメットに勝るとも劣らない。
おおよそ、【フォートレス】を使っている余裕は無いだろうからな。そもそもアレ、自分以外の対象に対する防御と、周囲に攻撃ばら撒く範囲攻撃特化でもあるから、こう言う一対一だと、余り効果的に使えんのよね。
オファニムを纏い、ケルブ第二形態、つまりはファティマがやって居た、オファニムの追加装甲形態で接続し、【プラーナ】を循環加速する。
別に第一形態でも良かったんだが、あっちは機動力重視なんで、それ程広範囲の移動を前提としないなら、防御力を高めた方は良いだろうって言う判断。一対一だしな。
【身体能力向上】【ブースト】【アドアップ】と全ての能力を【全能力起動】する。それと同時に【プラーナ】を【プラーナオリジン】へと精製純化。
手に持った聖斧形態のファティマ、オファニム、ケルブが漆黒へと染まり、ガシャリッと開いたスリットから赤色光が迸る。
「ほう?」と言うアポリオンの呟きが聞こえ、見れば、壮絶な笑みを浮かべたアポリオンが、周囲にパリパリと言う放電現象を起こしていた。
ありゃ、【オド】を凝縮してるってぇ事なのか? 一瞬の放電と、その後、それらを巻き込むかの様にアポリオンの方に突風が集まる。周囲が少し暗く見えるのは、光すらもエネルギーとして吸収したからか? 弾ける様にその薄暗い闇は晴れると、光と同じ様に熱エネルギーも吸収したのだろう。氷つき、結晶化した空気中の水分がアポリオンの周囲に舞い散る。
「ああ、やっぱ、そう言う感じなのか」
アポリオン……アバドンってぇ存在だと分かった時点でそうだろうなとは思ったが、アポリオンの怪人形態は、人間の形に無理やり押し込めたイナゴの群れの様な姿。二、三匹の巨大なイナゴを人間の形に成る様にこねくり回して造形し、まるでポイントポイントを護る様に普通サイズのイナゴが、そこに密集して居る様な形状。巨大な数珠と僧衣が引っかかる程度に残ってて、何と言うか韮沢ぁって感じ。
集団恐怖症の人間が見たら悲鳴上げそうだわ。
実際、マリエルが顔を引き攣らせているし、ヘンリエッタ王女の方も、やや顔色が悪い。
ネフェル王女も顔を顰めているが、生理的嫌悪と言うより、魔族の、それも怪人体と言う物を始めてみたが故の嫌悪感だろう。
【オド】吸収や、魔族固有の【恐怖】の影響は無い筈だ。イブとラミアーが二人で障壁を展開してるしな。
さて、お互いに戦闘準備は整った。俺は手に持ったファティマをアポリオンに向かって構える。
「始めるか?」
「拙僧は何時でも構わんよ」
ほんじゃまぁ、行きますか。




